わらわに任せるのじゃ!
住まいも身分も何とか整えたグレモリー、そんな彼女は狭い6畳の部屋で卓袱台の前に座り、一人にやけていた、それは先日一撃を食らわしたゲス蟲には懸賞金とやらが懸けられており、今その卓袱台にはその懸賞金<100万円>が置かれていたからだ♪。
「良い、良いぞ♪たった一発で100万円とは❤こんな楽な稼ぎ方があるのじゃな♪この世界の種族が悪魔公爵であるわらわに勝てるはずも無い、次々と懸賞金が懸けられているゲス共をわらわの手で捕まえ荒稼ぎしてやるとしようか♪」
だが、その手掛かりや情報を知らなくては何も始まらないと考えたグレモリーは、吉岡と大山から拝借した知識を利用し、この世界にはパソコンを使ったネットワークなる情報システムがある事を知り、まずその環境に必要な装備一式を手に入れる事にした。
(ふむ、若造である吉岡の知識によると、パソコンを購入するには秋葉原なる地に行けば手に入るらしい…予算は約20万円前後か…中々の値段じゃの…たく、この地は何かにつけ金・金か!だから欲望にまみれた下等種族なのじゃ!)
予算に躊躇していても始まらない、グレモリーはとりあえずその秋葉原なる地に向かう事にした。
グレモリーの住まいから秋葉原までまずは近くのバス停でバスなる乗り物に乗り、最寄の駅でメトロなるこれまた知らない乗り物に乗り換え、更に途中の駅で<日比谷線>に乗り換えなければならなかった。
(面倒じゃの、そう言えば…地獄界にラクダを転生させるよう文を送ったのじゃが…まだやって来ないの…向こうは向こうで業務に追われそれどころでは無いのかの?…)
身支度を整えたグレモリーは全身鏡で一日の始まりである<今日のわらわ❤>を麗しく眺め、その美しさに浸りながらお出掛けをするのが日課であった。
(うむ、今日のわらわも美しい♪では、秋葉原なる地に馳せ参じようではないか!)
ショルダーバッグに100万円を入れ、グレモリーは警察官である吉岡・大山の知識を利用し、難無く秋葉原までの道のりをクリアーしていくが、バスを降り最寄の駅まで向かう途中、大通りに群がる人間達が彼女の視界に留まる。
妙にその群集が気になったグレモリーは、まるで磁石が引き合うように彼女もその群集に引き込まれながら、不思議と群集の目線が空へと向けられている事に気が付く!。
(なんじゃこやつ等は、何故空を見上げておるのじゃ?)
これでも悪魔公爵グレモリーである、下等な人間共と同じ行動をするのは悪魔のプライドが許さない、しかし今回はつい群衆の統一された意思の本質を見抜くため、敢えてグレモリーも同じように空を見上げたのだった。
(おぉ!皆、あやつを崇めておったのか!)
グレモリーの視線には20階ほどある高いビルの屋上の端でぼんやりと佇む女の姿が映っている!。
どうやら周りの群集はその女を見上げていたのだ!。
(確かこの光景、4000年前にも見た事がある!王が高い崖から下々の者に大いなる威厳を放ち、群集はその王を崇めておった♪そうか!この者共はあの女を崇めておるのじゃな、なるほどの…それほど力を持つ女ならば、この地でわらわの最初である臣下にしてもよいな♪)
野望を成就させるにしてもグレモリー一人では行動に限界がある、それに何かと雑用に追われるのもうんざりしていたので、ここは一つあの女を配下に置き、身の回りの世話や今後の仕事も手伝わせる為、彼女を悪魔エリアへ勧誘する事にした。
(よし、あのビルの屋上じゃな!待っておれ♪わらわの力で、そなたの群集を集める素質と魅力を頂くとしよう♪)
今日目的の秋葉原は逃げも隠れもしない、それよりも実際のところグレモリーはちょっぴりこの日々が淋しかったのだ、相棒のラクダもまだこの世界に配達されないし、かと言ってこの下等な種族と友好関係など持つ気は更々ないのだが、いつか自分の好みに合う人間が現れた時には、お話し相手…いや、臣下として迎えてもよいと都合のいい妄想をしながらこの日が来るのを待っていたのだ!。
(くっ、くっ、く♪あの女ならこのわらわの臣下に相応しい、たった一人でこれほど群集を作れるのだからな!あの王に匹敵するほどの力があるのじゃろ♪)
こうしてグレモリーは喜びを抑えつつ横断歩道を渡り、最近覚えたエレベーターの乗り方を実演しビルの最上階まで辿り着いたのだが、その階にはまたしても吉岡達と同じ服装をした男達数名がグレモリーよりも先に到着していた!。
(なんじゃ、また吉岡と同じ服を着た奴らがおるではないか!まさか、わらわよりも先にあの優秀な女を吉岡と同じ組織に勧誘するつもりではあるまいな!許さん、許さんぞ!あの女はわらわのお友達、いや!忠実なる僕としてわらわに服従させるのじゃ!)
「あのぉ~、すみません…ちょっとそこを開けてもらえぬか?」
「なんだね、君は?」
いきなり男達の間に割り込んでいくグレモリーに一人の男が声をかける、間違いなく吉岡と同じ服装という事は警察官だ、そんな男達があの女に声をかけようとしているのだから、きっとこの地では相当なる能力者なのだとグレモリーは悟った!。
「わらわはあの者に用があるのじゃ!お主らはわらわの足を止めるでない!」
「あぁ、知り合いの方ですか!どうぞ、彼女に優しく話し掛けてあげて下さい!」
「ほう、わらわが先で良いのか?貴様、中々見所があるの♪なら、貴様らには悪いが、もうあの女はわらわの両腕の中に入ったも同然ぞ♪」
「それほど互いに信頼関係のある方ですか!頼もしい限りです!どうか、彼女を説得してあげてください!」
「おほほほ♪もうわらわに負けを認めるとは、よかろう♪わらわに任せよ!貴様らはそこで大人しく見ておるがよい!」
そして警官達の間をすり抜けたグレモリーは満面の笑みを浮かべ、屋上の防護柵を乗り越えて佇む女に向かって歩き始めた。