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身分証明とはなんじゃ?

 白黒模様の(けもの)に乗り込んだグレモリーは少しだけご機嫌であった、少々中は(けもの)らしく皮の臭いがしていたが、何よりも外の暑さに比べかなり涼しく快適だったからである。

 それに、いつも移動手段に使っているラクダより移動速度が速いのもグレモリーは気に入っていた。


「ほほほ♪この(けもの)、なかなか快適ではないか、どうじゃ?わらわにこれを譲ってはくれぬか?礼としてそなたらの望む者を与えてやるぞ♪爵位か?宝石か?それとも金塊でもよいぞ♪」


 上機嫌のグレモリーを警官二人はルームミラーで確認しつつ(これは厄介な者に声を掛けてしまった)とやりきれない表情を出している、そんな警官の一人吉岡はハンドルを握り、助手席の恐らく彼の先輩であろうもう一人の警官が(ここは先輩である俺が手本を見せなくては!)とグレモリーに話し掛けた。


「それにしても、どうしてその様な姿で歩道に立っていたのですか?…役柄に悩んでいるとか、その仕事に対して不満があるとかで考え込んでいたのですか?」


「うむ、どちらかと言えば後者じゃな、ずっと休む事無くルシファー様から与えられたお役を献身にこなしておったからの!」


「なるほど、その方はあなたが所属している職場の団長さんなのですね?さぞかし今は大変なお役を受けられているのでしょうね?」


「その通りじゃ、わらわ一人で何役もやらねばならぬからな!そなた、中々話が分かるではないか♪」


 ハンドルを握る吉岡は(さすが先輩だ!まずは相手の辛さや悩み事を上手く誘導尋問し、少しづつ会話を弾ませ心をほぐしていく作戦なんだ!)と改めて先輩のこれまで培った経験値に感心している。


「最近はどこも人材不足ですからね…我々の職場も人材が足りず、結局現場の者にしわ寄せが来てしまい、大量の仕事に忙殺される毎日ですから…」


(ぬし)らも大変なのじゃの…わらわにはよく分かるぞ!」


 こうしてグレモリーの乗せたパトカーは交番へと到着したが、てっきり行き先は豪華な迎賓館だと想像していたからか、あまりにもコンパクトな建物に開いた口が塞がらない状態になっていた。


「なんじゃ、この質素な小屋は!地獄の番犬をしておるケルベロスの<コロ>でもこんな小屋で飼われてはおらぬぞ!(ぬし)らこのような小屋でわらわを持て成すつもりか!」


「ま、あの…話しは中で…」


 困るというよりも、ほぼグレモリーの態度に呆れ始めている吉岡は入口のドアを開け、グレモリーを交番の中へと案内し彼女を事務用の椅子に座らせ、その正面に吉岡が座ると、先輩警官はペンと紙を用意し吉岡の隣に座った。


「さてお嬢さん、そろそろ役者モードからプライベートのお嬢さんに戻ってくれますか?まずは名前を教えてください」


「は?…無礼者!何故高貴なわらわから先に名乗らねばならぬ!これだから下等な種族は目に余るのじゃ!」


 不機嫌になったグレモリーは口を尖らせ美しい顔を左に向け吉岡から視線を外すと、豊満な胸を持ち上げるように腕組をし完全に吉岡を無視する。


「あのですねお嬢さん、これも私達の仕事ですからちゃんと協力してください!」


 さすがに若い警官である吉岡も、ここまでグレモリーに舐めた態度を取られた事に警察官のプライドが燃え始めたのか、少し彼の口調も強くなり始めた。


「まぁまぁ吉岡もお嬢さんも落ち着いて、それにお嬢さんの言葉はもっともです!失礼しました、私は吉岡の上司で大山巡査部長です、そしてこの若い警官が吉岡巡査です」


「うむ、最初からそういう態度に出ればいいのじゃ、やはりお(ぬし)は話しが分かるの♪」


 少し機嫌が戻ったグレモリーは軽く笑みを浮かべ大山に視線を向けた、悪魔界でも群を抜いた美貌の持ち主であるグレモリーに見詰められたのだ、警察官とはいえやはり男、大山は少し顔を赤らめながら2度咳払いをし改めて質問を投げ掛ける。


「失礼ですが、お嬢さんの身分を証明する物を何かお持ちですか?…運転免許証とか、マイナンバーとか…」


「は?…なんじゃそれは?…わらわは先程地獄界からこの地にやってきたのじゃ、そんな物持ち合わせておるわけがなかろう!」


「地獄界…ですか…」


 またしても予想外の返答を口にしたグレモリーに困惑したのか、大山は左手の平で自分の顔を数回擦り溜め息を漏らす、そんな上司の姿を見て血気盛んな吉岡はついにグレモリーに対し声を荒げてしまう!。


「あのですね、私達も仕事なんです!その様な態度を続けるなら、不審者として身元が判明するまであなたを留置場で身柄を拘束する事も出来るのですよ!」


「ほう、このわらわを拘束すると?…いやしき下等な種族が、このわらわを?身の程知らずの愚か者め!」


 吉岡もさることながら、グレモリー自身も吉岡の威圧的な態度にうんざりし、もうこの場で八つ裂きにしてやろうかと一瞬心が動いたが、やたら自分の名前を知りたがったり、訳の分からない身分証を要求しろなど、やはりこの世界の常識を知らなければ、これから幾度も同じ目に合うかも知れないと悟ったグレモリーは、八つ裂きにするよりも、彼らがこれまでの人生で学んだ知識を吸収する方がお得だと気持ちの方向転換をする事にした。


「お嬢さん、吉岡の言う通りです、我々にはそれを実行する権限を国家から与えられています、それはお嬢さんにとって大変不利な事ですので、どうか職務の協力をしてもらえませんか?」


「ふむ、しょうがないの…では、先にわらわのやる事に協力いたせ!…さぁ、わらわのこの瞳を見てみるのじゃ!」


「分かりました、お嬢さんの瞳を見ればいいのですね?…」


 大山と吉岡はグレモリーに言われた通り、彼女の瞳を見詰め始めた!。


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