表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/15

ここはどこじゃ?

大都会のど真ん中、見た事の無い高い塔の群れに、丸い足を回し道を走る鉄の(けもの)…その通りを行交う人間共は、グレモリーの記憶とは完全にかけ離れ、汚らしい麻の布を纏った着物ではなく、肌を全て隠した生地を身に着けていた。


(なんじゃここは?…やけに騒々しいし、この不快に澱んだ空気…地獄界の血の臭いの方がまだマシではないか…)


グレモリーの視界には怒りや憎悪、殺気を漂わしている人間など全く居らず、変な板を耳に当て独り言を喋っている男や、女同士も何やら書物を片手に笑いながら「次は何処いこっか?」と楽しそうだ!。


(どういう事じゃ?…奴ら何も悪事を働かそうな顔をしておらぬ…憎しみ・暴力・奪う・殺しあう!それがわらわの求めていた世界じゃというに、これはなんじゃ!)


呆然と辺りを見渡すグレモリー、彼女の脳裏には側近達の言葉が流れていた、砂漠の国の王と契約を交わしてから4000年が経ち、人間界もどう進歩しているか分からないと…それでもグレモリーの年齢からしてみれば、たかが4000年などほんの一瞬でしかなく、その一瞬でこうも変わってしまった事に驚きを隠せなかった。


(う~む、これほど人間という下等な種族は知能が高かったのか?…単に野心しかない王を操り(いくさ)の世界にすればよいと考えていたが、奴らを見ていると(いくさ)など無縁の様じゃ…これは再度計画を練ればならぬな!)


ガードレール越しに腕組をし、今後の計画を思案しているグレモリーの前に真紅の灯りを点滅させた白黒模様の(けもの)が静かに停まり、同じ衣類を着た男2人がその(けもの)の中から現れた!。


「すみませんお嬢さん、少しお話いいですか?」


紺色の衣類を纏った一人の男がグレモリーに話し掛けて来る、もう一人の男は何やら彼女の容姿を不思議そうな視線で眺めていた。

そんな男達に声を掛けられても、悪魔公爵であるグレモリーである、気品の中に威圧感を漂わせつつ男達を睨みつける。


「わらわに何か用か?わらわは多忙である、そなたらの相手をする暇など無い!」


「いえ、その…あまり人の往来がある場所で、肌の露出が激しい衣装は場合によっては軽犯罪になりかねませんので…アウターか何かを羽織ってもらわないと…」


先に声を掛けてきた男はずっとグレモリーの顔だけに目線を固定している、後ろに立っている男はグレモリーの姿から視線を外し何度か咳払いをしながら別の方向を見つめていた。


「何を言う!これは4000年前、砂漠の国の姫が身に着けていた衣装なのじゃ!高貴な身分のわらわにこそ相応しい衣装なるぞ!それに、わらわに命じる事が出来るお方は大魔王サタン様と悪魔大元帥ルシファー様のみじゃ!そなたらに命じられる筋合いなどないわ!身分をわきまえよ!」


「あの…警察官なのですが…」


「なんじゃそれは?わらわの住む地獄界にはそんな身分などない!」


腕組をしふんぞり返るグレモリー。

その威圧した態度から更に彼女のボリュームのある胸が前へ突き出し、その姿の彼女を見ていた警官達は互いのに顔を向き合い、小さく左右に顔を振る。


「ところで吉岡、本署の確認は取れたか?」


「えぇ、やはりこの付近で映画撮影の申請は出ていないようです!」


「てことは、劇団員の役者さんか…」


ここで終着点を見つけたのか、警官達は顔を縦に振り納得したが、おいてけぼりを喰らったグレモリーの心中は穏やかではなかった!。

その理由は地獄界では何者もグレモリーを恐れ、尊敬の念と敬意を払い忠実であったのだが、この警官とやらの男共は全くグレモリーに対し恐怖心すら微塵も出さなかったからである。


「何をさっきから訳の分からん事を言っておるのじゃ!わらわに用がないなら早くこの場から去れ!」


「はいはい、完全に砂漠の国のヒロインになりきっているのですね、僕自身もお嬢さんの役者魂には敬意を感じますが、私達も職務上真面目な話をしたいのですが…」


「ほう、ようやくわらわの威厳に敬意を感じたか♪よかろう、なんなりと申すがよい!」


「いや、そうではなくて…はぁ~…」


何を言ってもヒロインの役から離れないと思っている若い警察官の吉岡は言葉選びに困惑していた、非協力的な態度に出られるならまだしも、単なる言葉のやり取りだけでは公務執行妨害を適用する事など出来ないからだ。


「吉岡、人が集まり始めている、とりあえず目立つ彼女を交番(はこ)に来てもらい話をする事にしよう」


「そ、そうですね…すみませんがお嬢さん、ここではなんですので、アレに乗って私達と一緒に同行してもらえますか?」


吉岡は左手をパトカーの方向に伸ばし、グレモリーを(いざな)う。


「ほう、そちらが乗ってきたあの(けもの)にわらわを乗せ、迎賓館まで送り歓迎の宴をしてくれるのじゃな?よかろう、わらわも相棒のラクダを連れてきておらぬのでな、これからの移動に困っておったところじゃ♪」


「そ、そうですか…本当にラクダを連れて来なくて助かります…」


こうしてグレモリーは警官達に導かれながら、意気揚々と白黒模様の(けもの)に乗り込み、彼らの常駐する迎賓館(交番)へと向かうのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ