幕間 協力者と目撃者
「まずい、早く治療しなければ……」
肩から血を流すブルーアン公爵は廊下の壁に身を預けながら呟いた。
ぽたりぽたりと足元に血だまりが出来ていく。
呼吸が荒い。意識が朦朧としてきた。
だが大丈夫だ。
公爵家の兵士のところまで辿り着ければ生き残れる……。
「あーぁ。こうなると思った。彼女、絶対に自分で殺せないよねぇ」
「だ、誰だ!?」
暗がりに声がした。
慌てて振り向けば、デッキに繋がる出口に男が立っていた。
男が持つ剣の切っ先は真っ赤に染まっている。
「あ、あなた様は…」
「やぁ公爵。ずいぶん派手にやってくれたものだねぇ」
「……っ」
ブルーアン公爵は逃げようとした。
その足が斬り落とされた。
「ぎゃぁぁああああああああああああ!」
「まったく。本体を探すのにずいぶんと手間をかけさせてくれたものだ。ようやく君を殺せるね……」
男はブルーアン公爵の身体を踏みつけた。
「ひ、ひぐ……た、頼む。お願いします。私を見逃してくれ……」
「いやいやいや、なぁに言ってるの。無理に決まってるでしょ?」
男は呆れたように言った。
「僕はアリアじゃないんだ。そう簡単に見逃さないさ」
「な、何が望みだ。王位か? それなら私が手を貸して……」
「いやぁ違うよ」
男は剣を振り上げ、
「僕が望むのは、世界平和さ」
赤い液体が飛び散った。
◆◇◆◇
王国騎士団特務第一部隊の騎士であるクラインはバルコニーで一部始終を目撃していた。
ノクスの妻であり教会の聖女であるテレサ。
彼女がブルーアン公爵の下に歩き、その姿が変わる様を上の階から見ていた。
「奥様……? 今の、赤髪って」
クラインは口元を押さえた。
「おい……あれって、本当に……」
クラインは真相を悟り、ずるずると床に座り込むのだった。




