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第三十三話 船上式典

 

 ブルーマン公爵家は代々実業家として知られ、家の歴史は建国以前にまでさかのぼる。当時祖国に追われていた建国の王アベルを支援し、現在の王国建国まで至らせた影の支配者だ。


 公爵家であり、王家も頭の上がらない存在。

 それがブルーマン公爵家。四大貴族で最も権勢を誇る一族。

 そして、第一王子であるジゼルの後見人でもあった。


 そんなブルーマン公爵家が豪華客船を建造した。

 その進水式のパーティーを行うという招待状がテレサたちの下に届いたのが十日前のこと。


 豪華客船は日差しに照らされ、寄せては返す波が岸壁を打ち付けている。

 テレサとノクスは活気ある港の岬に立ちながら、白い豪華客船を見上げていた。


「おぉ、本当に大きいですね。すごい、こんなものが水に浮かぶなんて」

「魔導エンジンが搭載された最新鋭の船らしい。なんでも戦艦をもとにしていると聞くが。さて、防御力のほどはいかほどかな」

「お願いですから試し切りしないでくださいね?」


 ノクスが呆れるように言った。


「お前は俺を何だと思ってるんだ」

「司祭の腕を問答無用で斬り落とすひと」

「ふん。まぁ間違ってはないな」

「そうでしょうね!」


 港にはテレサたちの他にも国中の貴族たちが集まっている。

 ブルーマン公爵家の権勢を見せ付けるパーティーだ。

 これを逃せば半年は社交界の笑いものになってしまうだろう。


「ところで……」


 テレサは頬に汗を流しながら後ろを見た。


「どうして騎士団の方々までここに居るんです?」

「いやぁ聖女テレサ! ようやく会えました、隊長は中々会わせてくれなうぶ!」

「仕事だ」


 テレサの下へ駆け寄って来た騎士との間に割って入り、頭をわし掴みにするノクス。ぶっきらぼうに言った彼はミシミシと部下の頭を軋ませた。


「お前が気にする必要はない。こいつらは空気と思え」

「いだだだだ! いだい! 頭! 割れる!」

「すごく痛そうですけど大丈夫ですか?」

「こいつの頭はこの程度では割れん。石頭だからな」

「隊長のほうが石頭いだだだだ!」

「俺はこいつらと話すことがある。お前は先に客室に入っていろ」

「分かりました。騎士の皆さん、お仕事頑張ってくださいね」


 きらりん、と聖女スマイルを向ける。

 公爵家の騎士たちは嬉しそうに「はい!」と見送ってくれた。


「奥様もお気をつけて!」

「奥様──! 奥様は俺たちが守ります!」

「奥様のおかげで妻の機嫌がめちゃくちゃいいです! ありがとうございます!」

「奥様──!」「奥様──!」「奥様ぁあああああああ!」

「──おい」


 ノクスが口を開くと、ぴたりと騎士たちが黙り込んだ。


「俺の妻に色目を使ったやつは前に出ろ。殺す」

「……!」

(仲の良い振りをするのも大変ね)


 喧々囂々と騒ぎだすノクスや騎士たちにくすりと笑みをこぼし、テレサは豪華客船に乗船する。

 巨大な船の中はダンスホールのようにきらびやかだ。

 そこからシガールームやレストラン、ブディックやプールも併設されている。

 全貌を把握できないほどに大きく、なんでも全部で十三階層まであるのだとか。


 テレサたちにあてがわれた部屋は最上級のスイートルーム。

 十二階層にあるその部屋に着くと、テレサは聖女の仮面を脱ぎ捨てた。


「エマ。少しお腹が好きました。食堂で何かもらってきてくれませんか?」

「かしこまりました。竜車に乗りっぱなしでしたもんね」


 少々お待ちください。と言ってエマは出て行く。

 一人きりになったことを確認すると、テレサは懐からカード型の魔具を出した。


「こちらテレサ。目的の場所に無事到着したわ」

『了解。こっちも準備出来てるよ。あとは時間が来るのを待つだけだ』

「あいつらも来るのよね?」

『来るさ。だけど今回の標的は』

「分かってる。ブルーマン公爵は潰す。そのあとにあいつらよ」

『くれぐれも気を付けなよ。狼の牙がすぐ後ろまで迫ってる』

「えぇ」


 テレサは窓の外から見える黒い男の背中を見た。


「もちろん、分かっているわ」




 ◆◇◆◇




「俺たちは遊びに来たわけではない」


 ノクスの前に居並ぶ騎士団に先ほどまでの騒がしさはない。

 テレサに悟られぬようにとわざとあのような振る舞いをしていたのだ。

 王国騎士団特務第一部隊。

 騎士たちの顔には巨悪に立ち向かう際の緊張が滲んでいた。


「本当なのですか。アリア・ランデリスが現れるかもしれないというのは」

「おそらくな」


 ノクスは頷いた。


「最近多発している貴族の不審死──彼らに共通するのはアリア事件に関わった貴族であることだ。国一番の財力をほこるブルーマン公爵家も例外ではない」

「ですが、こんな公衆の面前でことを起こすような奴でしょうか?」


 若手の騎士が言った。


「こそこそ隠れて事件を起こすような奴でしょう? なのに……」

「公の場だからこそだ」


 部下の忠言を受けても暗黒公爵の確信は揺るがない。


「このような国の重鎮たちが集まる公の場で失態を犯すと、またたく間に権威が失墜する。おそらく、アリア・ランデリスが公爵を狙うならそこだろう」


 凶悪事件を次々と引き起こすアリア・ランデリスと言えど、ブルーマン公爵家の警備をかいくぐって奴の首を取るのは不可能だ。おそらく彼女はブルーマン公爵家の何らかの弱味を握っていて、それを公の場で公表するつもりなのだ。そして然るのち、確実に手を下せる場所で殺人を犯す──とノクスは睨んでいる。


「今日の夜。この船で公爵主催のオークションが開催される。奴が世界中から集めた品々が並ぶオークションだ。貴族たちもこぞって自分たちの権勢を見せ付けるために出品するだろう。アリア・ランデリスが何か仕掛けてくるとしたらそこだ」


 騎士たちは頷いた。


「貴様らの仕事は二つある」

「……」

「一つ、アリア・ランデリスを捕えること。五年前の真相がどうあれ。今の奴は国中を恐怖に陥れる犯罪者だ。絶対に捕まえなければらない」

「もう一つは?」

「決まってるだろう。俺の妻を守ることだ」


 俺の、を強調したノクスに騎士たちは唖然とする。

 女嫌い、教会嫌いを地でいくノクスが、テレサを「俺の妻」と公言するなんて!

 しかし彼らはひそひそとささやきを交わす余裕もなかった。

 ノクスの背後から暗黒のオーラが立ち上り、鬼気迫る勢いで言ったからだ。


「テレサに何かあれば、貴様ら全員タダでは済まないと思え」


 公私混同だ、と突っ込む余地も許さぬ覇気。

 騎士たちは居住まいを正し、ノクスは令を発した。


「総員、気を引き締めろ。行くぞ!」

「「「はっ!」」」


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