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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第一章

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7. 美少女を助けたら警視総監に感謝されたんですけど

「はぁ!?女の子が襲われてたのを助けた!?」

「すごいじゃん!でもそんなニュースあったっけ?」


 昼休み、奏は弁当を食べながら昨日の体験について幼馴染ーずに説明した。


「僕もテレビやネットを確認したけど無かったと思う。本当にあったことなのかな」

「おいおい、しっかりしろよ。その年でボケるのはやばいぜ」

「そうだよかなちゃん。夢でも見たんじゃない?」


 両腕で女の子を抱えていた感触や死に物狂いで逃げた感覚は、一晩明けてもまだ奏の中に残っている。それほどまでに強烈な体験であったからだ。

 だが、世の中にあの事件の痕跡は全く残されていなかった。男達や黒服は女の子と共に消え、目撃者もおらず、登校中に立ち寄ってみた現場にも痕跡は無く、ニュースとして報道されてもない。まるであの出来事は最初から存在しなかったかのようだ。奏は自分の記憶を疑い始めていた。


「でもよー。夢だとしても良く助けに行けたよな。俺だったら銃持ってる相手がいたらびびっちまうぜ」

「あたしも絶対無理」

「夢中だっただけだよ。僕もあの子より先に銃を見ちゃったら動けなかったと思うし」


 女の子の傍に駆け寄った状態で銃を持った男から助け出すのと、銃を持った男の傍にいる女の子を助けに駆け寄るのは雲泥の差がある。男達が最初からあの場に居たのなら、奏は動けたかどうか分からなかった。


「もしかしてアレか、めっちゃ可愛い子だったから頑張っちゃったとか」

「そんなんじゃないよー」

「可愛くなかったの?」

「いや、可愛……めちゃくちゃ可愛かった気がする」

「マジかよ」


 奏は今になってようやく女の子の容姿に気付き、そのあまりの可愛さを思い出して顔が真っ赤になる。


「うわー。かなちゃん、夢の中の女の子にガチ照れしてるよ。やばいよそれ。欲求不満?」

「そんなんじゃないよ!」

「でもよ、夢なら案外知ってる人だったりするんじゃないのか?例えば栞とか」

「きゃーかなちゃん実はあたしの事そんな風に思ってたの?こまっちゃうー」

「ううん、栞ちゃんじゃない」

「おいコラ。即答するとか腹立つんだけど」

「ぴえ!ごめんなさい!」


 割と威力のあるチョップを喰らい、奏は涙目で頭を抑える。この状態で上目遣いをすればクラスの何人かはまた堕とせるだろう。もちろん妹弟いもおとうととして溺愛される、という意味であるが。


「ならさ、服とかどうよ。そいつが普段着ているやつかも知れねーじゃん」

「それがね、この辺りの学校では見かけないブレザーだったんだ」

「もしかしてかなちゃんって制服マニア?」

「なんでさ!」

「いやぁ……自分好みの制服を好みの女の子に着せたのかなって……」

「ドン引きしないでよ!僕はまだ夢だなんて思ってないから!」


 この後も夢の中の女の子について幼馴染ーずと話をするが、該当する身近な人はおらず、奏のタイプの女性が夢に出て来ただけだろうと結論付けられてしまった。


 それが夢では無く現実であることが分かったのは、その日の放課後の事。


「それで僕は何処に行けば良いのでしょうか?」


 担任教師からは、警察から呼び出しがかかり、時間がかかりそうだから先方が夕食を用意してくれることだけが伝えられていた。母親にその旨を伝えて時間を確保したものの、何処にどうやって移動すれば良いのかなど細かい話はまだ聞いていなかった。


「ああ、それなんだがな。先方が迎えを用意してくれているから、それに乗って移動してくれ。後は着いて行けば分かるそうだ」

「迎えってまさかパトカーじゃないですよね。僕、パトカーに乗るなんて嫌ですよ」

「あーうん、パトカーではない。そこは確認した。パトカーではないな、うん」

「なんですかその勿体ぶった言い方!」

「まぁ、気にすんな。つーか私の方が詳しく聞きたいくらいだよ」

「えぇ」

「とりあえず帰りの支度したら教員用の駐車場に来てくれ」

「分かりました……」


 不安しかないが、行くしかない。奏は常備している手鏡を使って髪型を整えてから、指定の場所へと向かった。


「おう、来たな」

「先生」

「ほら、こっちだ」


 数学教師に指定された場所には、どう考えても高校には不釣り合いな黒塗りのリムジンが停められていた。


『うわーすげぇ。あれってリムジンだろ。俺初めて見たよ』

『私もー。めっちゃ金持ちっぽい』

『なんだ金持ちっぽいって、分かるけどさー』


 そのあまりの場違いさに、生徒達の注目の的になっていた。


『あれ、誰か来たぜ。うちの生徒だろ』

『奏ちゃんじゃない?』

『ほんとだ、相変わらずくっそ可愛いな』

『奏ちゃーん、こっち向いて―!』


 当然、そちらへ向かう奏は好奇の目に晒されることになる。一階から三階までの全ての窓から多くの顔が出て、奏の様子が観察される。


「せ、先生。あの、これって」

「はは、大人気じゃねーか」

「そういう問題じゃなくてぇ!」

「ほら、ここから先は一人で行きな。後で何があったのか教えてくれよな」


 担任教師はリムジンの近くまでは着いていかず、奏を置いて帰ってしまった。リムジンの傍には人が立っていて奏を出迎える準備をしており、ここで奏が帰ったらその人に迷惑をかけることになる。人の好い奏は逃げることが出来なかった。


『え、何々?あの子の家ってお金持ちなの?』

『いや、普通の家って聞いたぜ』

『じゃあなんで?』

『分からん』


 次々と聞こえて来る会話を極力聞かないように努力しつつ、リムジンまで辿り着く。


「佐野奏様ですね」

「は、はい!」


 その人物を一言で表すならば老紳士。柔和な顔に、白い髪や髭が良く似合っている。日本人で無ければセバスチャンとでも呼びたくなるような執事風の立ち居姿の男性であった。


「どうぞ」


 老紳士はそれ以上何も言わずにリムジンの扉を開けて奏に乗るように手で促した。これは老紳士の気遣いだ。老紳士は詳しい説明をするよりも、この場を早く移動して奏を楽にしてあげることを優先したのだ。


「騒ぎになってしまい大変申し訳ございません」


 リムジンが出発してしばらくしてから、老紳士は奏を困らせてしまったことを謝罪する。リムジンを校門に停めていたら目立つだろうと考え、騒ぎにならないように人目につかない教員用駐車場に停めたが効果が薄かった。そもそも目立たない車で来れば良いだろうが、最大限のもてなしをするようにという指示が出ていた為、車のグレードを下げることは出来なかった。


「あの、僕、訳が分からなくて。警察に行くんですよね?」

「はい。正確には警視庁本部庁舎でございますが」

「警視庁?本部?」


 奏は警察と警視庁との違いを理解していない。凄い重要な事件を担当するのが警視庁、くらいの印象である。


「(お婆ちゃんが凄い人だから警視庁なのかな。でもなんでこんな凄い車……)」


 何故警視庁なのかという疑問について、助けた金城が偉い人だから凄い組織が対応しているのだろうと奏の中で勝手に答えが決められてしまった。むしろ気になるのは何故リムジンなのかだ。


「どうぞ。自宅だと思い、お崩しになって下さい。気楽な格好で構いませんので」


 そんなことを言われて、ソファーにごろんと横になる勇気などもちろん無い。というか、奏は家でもはしたない行為を殆どしないのだ。

 老紳士は自己紹介と挨拶と最低限の説明を終えると、奏から離れたところに移動した。近くに居ると気が張るだろう、かといって一人になるのも不安になるだろう、といった奏の内心を察した行動だ。この辺り、相手の性格によって行動を変える優秀な人物である。


「(ええと、とりあえずあの時の事故の話だよね。ちゃんと思い出しておこう)」


 金城を救った事故の件だと思い込んでいる奏は、しっかりと説明出来るようにと頭の中で反芻する。それでも時間が余りやることがなく、外の風景をひたすら眺めていた。用意されていた高級そうなお菓子類を食べても良いと言われているが、手を付けることなど出来なかった。

 結局、最後まで緊張が解けないままリムジンは警視庁本部庁舎に到着する。帰りは絶対に電車で帰ろうと心に誓った奏は、どう考えても偉い人専用にしか思えない入り口を通され、首から下げなければならないICカードも渡されず、あれよあれよと言う間に某所への直通エレベーターに乗せられる。


「(これ絶対普通じゃないよね!)」


 警視庁について知識が無い奏であっても、自分の扱いが異常であることは気付いている。本当はリムジンの時点で気付いていたのだが、考えることを心が拒否していたのだ。だが、そんな奏の心の叫びは届かず、エレベーターは目的階である十三階に到達した。そしてある部屋の前に辿り着く。


 その部屋の名前は『警視総監室』


「ぴええええええ!」


 奏は日本の警察のトップに呼び出されたのだ。


――――――――


「奏様をお連れ致しました」

「入れ」


 老紳士がノックをすると中から返事が来る。かなり低い重厚感のある声で、それだけで奏の緊張感が爆上げする。

 中は校長室などとは比べ物にならないくらい広く、数百万は軽くするであろう調度品が品よく並べられていた。


「(ぴえっ)」


 だが奏にとって一番インパクトがあったのは、正面の机に座っている一人の人物だ。同じ男とは思えないほど広い肩幅、角ばったいかつい顔、そして鋭い眼光。その目で睨まれただけで心臓が止まってしまうのではないかと思える程の迫力があった。


「失礼します」


 老紳士が退場し、部屋の中にはいかつい警視総監と奏の二人っきり。


「(なんでなんでなんでなんでぇ!?)」


 何がどうなればこのような展開になるのか全く分からない。金城関係だとしても警視総監に呼ばれる程のことだとは思っていないからだ。実際、用件はまったく違ったのだが。


「君が佐野奏くんかね」

「は、はい!」


 緊張して何も話せないかと思っていたが、ドスの聞いた声が奏を貫くと反射的に答えが口に出た。それだけの威力がその声にはあった。


「そうか」


 警視総監は席を立ち、そのまま奏の目の前まで歩いて来る。奏から少し離れたところで立ち止まり、無言で奏を見つめる。


「(お、おっきぃ……)」


 肩幅が広いだけではなく身長も高く、二メートル近くはありそうだ。奏の身長は平均よりやや低いくらいであるため、巨人を見上げるような感覚に陥った。体格差による圧力と射殺すような視線のコンボにより奏は漏らしかけていた。


「(誰かタスケテ!)」


 その場に崩れ落ちて命乞いをしようかと体が動き出す直前、奏を見つめていた警視総監が口を開いた。


「娘を助けて頂いたこと、感謝する」


 ゆっくりと巨体が曲がり、綺麗な角度で制止する。それはどこからどうみても『礼』であり、それが奏に向けられていた。


「え?え?」


 遥か雲の上とも思える程の偉い人。テレビドラマでしか見たことの無い警視総監にお礼を言われているという事実を奏が理解するには時間がかかった。


「(なんで警視総監が僕にお礼を!?!?!?!?)」


 もちろん、理解したところで更なる混乱に陥るのだが。


 警視総監は長い礼を終えると、再度奏を無言で見つめる。おそらくは奏の反応待ちなのだろうが、奏はお礼を言われる理由が分かっておらず何も言えない。可能性など一つしか無いのだが、事故のことだと思い込んでいた上に冷静さを失っている今の奏では気づかないだろう。


 沈黙が続き焦り困惑する奏だが、その場に居た第三者の手によって救出された。


「お父さん!奏様が怯えているじゃない!目つき怖いんだから睨まないの!」

「むぅ」


 どこからか現れた女の子が警視総監の元に歩み寄り、頭を思いっきりはたいたのだ。


「(ええええ!?この子どこから来たの!?)」


 先ほどまでは間違いなく部屋には警視総監と奏の二人っきりだった。突然出現したことに驚くが、同時に奏はその子に見覚えがあることにも気が付いた。


「あれ、君は?」


 彼女は紛れもなく、昨日奏が助けた女の子。ご丁寧に昨日と同じブレザーを着ている。昨日と違い屈託のない笑顔を浮かべおり、本来の可愛さが際立っている。つい先ほどまで恐怖で緊張していたはずの奏は、顔が赤くなり全く別の意味で緊張していた。


「お父さんがごめんね。それと、助けてくれてありがとう。奏様は命の恩人です!」


 女の子は奏の右手を取り両手で包み込むようにして奏を笑顔で見つめる。胸のドキドキが止まらないが、奏はこのような状態でも言うべきことを言える男である。


「君が無事で良かった」


 奏はこの部屋に入って初めて笑顔を浮かべる。奏スマイルの直撃を喰らった女の子はクラスメイトと同様に奏を可愛らしい妹弟いもおとうととして愛でたく……はならなかった。


「え、あ、その…………はい」


 明るく元気な女の子は途端に顔を赤らめ、もじもじと恥じらい出した。クラスメイト達とは明らかに反応が違うことを奏は不思議に思った。


「そっか。だから警視総監は僕を……ひいっ!」


 自分が何故ここに呼ばれたのかを理解した奏は改めて警視総監に視線を移し、鋭い視線を受けて先ほどまでの恐怖が蘇って来た。例え色々と理解しようとも、怖いものは怖いのだ。


「もう!だからお父さん睨んじゃダメだって!」

「いや、睨んでは無いのだが」

「ごめんね奏様。お父さんって普段から目つき悪くて勘違いされやすいの。別に奏様のこと悪く思ってないから安心してね」

「感謝している」

「は……はぁ」


 状況を把握し、二種類のドキドキで胸が張り裂けそうになりながらもパニックになることは回避できた奏は、ソファーに座り父娘と対話をする。何故か女の子が対面では無く奏の隣に座ったため、胸のドキドキが加速する。


「あ!そういえばまだ自己紹介してなかった!私は京極きょうごく芹那せりな。瀧川女学院の一年生です」

「僕は大川高校一年の佐野奏です。って瀧川女学院?」


 つい最近聞いた事のある名前だ。謎に包まれた瀧川女学院。その理事長と生徒の両方と話をしたことのある人物は日本でも少ないだろう。


「そう。奏様は鈴江さんも助けたんでしょ。格好良いなぁ」

「うむ、実に素晴らしい」

「あはは、どちらも偶然傍に居ただけなんですよ」

「居たのは偶然であったとしても、救い出す行動を起こせる勇気は称賛に値するものだ。最近の若手警官に君のような気概のある人物が減って来ているからな。是非見習わせたいところだ」

「ええ!?」


 校長室の時と同様に、奏への賛辞が止まらない。下手に謙遜しようものなら倍以上の賛辞が返って来そうで、奏は反応に窮してしまう。


「お父さんも自己紹介しないと」


 芹那は父親がまだ自己紹介していないことに気が付いた。


「うむ。俺は京極謙信けんしん。警視総監をしている。芹那の父だ。繰り返しになるが、娘を助けて頂き感謝する。父としても警視総監としても感謝する」

「顔を上げて下さい……って警視総監としても?」


 人助けではあったけれども、警視総監として、と言うには少し大げさなのではと奏は感じた。


「詳しくは言えないが、君が娘を助けてくれたおかげで、大きな犯罪組織を壊滅に追いやることに繋がったのだ。長年尻尾を掴ませなかった奴らをようやくこの手で!」

「ぴえっ!?」

「こらお父さん!奏様が怖がってるでしょう!」


 警視総監にとって何らかの因縁があるのか、語気と視線が強烈に強まり奏は射すくめられた。


「むぅ、失礼した」

「昔っから言ってるけど、もうちょっと愛想良く出来ないのかな。ほら、にこーって」

「にこー、か?」

「ぷっ、あ、ごめんなさい」


 不自然に笑顔を浮かべようとする警視総監の顔を見たら思わず吹き出してしまった。相変わらず顔は怖いが、それが単に不器用さから来るものだと実感出来たためか、奏の緊張は大分和らいだ。


「奏様が笑った。お父さん、良くやった!」

「むぅ」


 全く似ていない親子のやりとりを眺めつつ、奏は安堵する。今日の呼び出しの理由が芹那を助けたことに対する感謝を伝えることなら、その目的は果たされた。この後、いくらかの話はするだろうが忙しい警視総監がそれほど長く時間を取れるとも思えない。解放される時は迫っている。

 奏の想定通り、しばらくの間とりとめもない会話をしていたら、警視総監が時間を気にし出した。


「そろそろ良い時間だな。行こうか」

「そうだね」

「行くってどちらに?」


 ようやく帰れるかと思っていたが、父娘は奏を何処かに連れて行こうとする。


「夕飯だ。事前に連絡してあったと思うが?」

「あ」


 奏は担任教師から言われていたことをすっかり忘れていたのだ。まだまだ奏の緊張タイムは終わらない。


「ぴえええええ!」


 この後の夕食時。芹那の猛アタックにより、奏は芹那のことを名前で呼ぶことが決まってしまった。


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