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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第三章

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14. 因果応報? その11 なし(金城達の動きなど)

クライマックスが近づいてますのでシリアス風味ですが、これまで通り重い展開にはなりませんのでご安心ください。

「まさかこのタイミングで呼び出しが来るとはねぇ」


 椿が佐野家に襲来してすぐのこと、瀧川女学院理事長の金城はとある場所に向かっていた。


「久しぶりに会えるのは嬉しいけれど、一人ってのがどうにも寂しいんだよね」


 金城の傍には秘書の佐久間はもちろんのこと、彼女の身を守る親衛隊すらいない。

 代わりにその場所専属の特殊部隊に身を守られている。


「こいつらも愛想が悪くてつまらんし」


 特殊部隊は自らの使命を全うすることに忠実であり、金城が話しかけても何も答えてはくれない。いっそのこと蹴り飛ばしてみたらどんな反応をするかと悪戯心が湧いて出てきた時、待ち合わせの相手が現れた。


「悪く言わないであげてよ。鈴江さん」

「ふん、だったら小粋なジョークでも言えるように指導しておくんだね」


 相手は金城と同じ老婆であり、見るからに最高級であることが分かる和服を身に纏っていた。


「彼らは今のままでも十分良くやってくれていますよ」

「本当かねぇ。それじゃあうちの部隊と模擬戦をやらせたいわね」

「意地悪を言わないでください。さぁ、それよりもこちらへどうぞ」

「ふぅん、あんたがそんなにせっかちになるなんて、余程のものが視えたようだね」


 相手と一緒に、豪華な和風建築物の小部屋へと入る。

 特殊部隊も中には入って来ず、部屋の中では老婆が二人っきりだ。


「慌ただしくてごめんなさいね。一刻も早くお知らせした方が良いと思ったのよ」

「それならそんな前置きなんか無しでさっさと言いなさいよ」

「そうね。では伝えるわ」


 紙の資料など無い。

 情報は全て老婆の頭の中に入っている。

 あまりの極秘事項であるがゆえ、限られた人へ口頭で伝えて記録として残らないようにしてあるのだ。


「先日、巫女が神の御言葉を授かったわ」

「やっぱりそれかい」


 『巫女』

 スキル付与の以前から存在した職業だが、ここでは神社で働く人のことでは無い。

 神に仕え神の御言葉を頂く特殊な職業のことである。

 もちろん神の御言葉などと言っても実際に神託が降りるわけではなく、占いにより世の中の情勢を視て予想する程度のものだった。

 しかしその占いが何故か非常に高確率で的中するということで、権力者達の間ではもっぱらの噂となっていた。


 そしてその『巫女』に『予知』スキルが付与されたのだ。


 『予知』スキルはまだレベルが低く、漠然とした未来の映像を不定期に受け取るだけの不便なものではあるが、占いとは違い百発百中だ。しかもその内容は日本に多大な被害を与える事件ばかりであり、すでに日本はこの予知により何度か救われているのだ。

 なお、『予知』スキルは世界で唯一のスキルであるため、その人物の存在は秘匿されており限られた人間のみが正体を知っている。


 その予知の内容について金城が呼ばれたということは、金城に関係する日本の危機が近い将来待ち受けているということだろう。


「彼女が視たものを伝えるわ」

「ええ」

「彼女が視たのは大混乱に陥っている日本の姿。日本全国で多くの死者が生まれ、役所の機能が停止しかけている。大半の政治家も命を失い、国政運営が困難な状況になっている上、国外から厳しく責められています。特にアメリカからの圧力が強く、日本国内に潜伏するテロリストを排除するという目的で軍事行動を起こそうとしています」

「…………ピンポイントで『役所』なのは意味があるのかい?」

「47都道府県の全ての都道府県庁の様子が視えたとのことです」


 つまりこれから起きる何かは、都道府県庁に影響するものなのだろう。


「(47個もある離れた場所が攻撃される?そんなことありえるのかしらね)」


 そのためにはどれだけの人員が必要となるのだろうか。

 それともスキルを使えば上手く攻撃する手段があるのだろうか。


「アメリカとテロリストってことは日米首脳会談が襲われるのかね?」

「詳しくは分かりませんが、アメリカ大統領が日本で亡くなったことは間違いないようです」

「はー、それはまた面倒なことだ」


 今回の日米首脳会談では、日本側が全身全霊をかけた警備をするはずだ。

 あらゆるスキルを活用していかなる攻撃からも守ると必要以上の対策がなされている。


「(警備を突破した上で都道府県庁も攻撃?なんだいその滅茶苦茶な展開は)」


 これから金城がやるべきことを考えると頭が痛くなりそうだった。

 だが、『予知』の結果はまだ終わっていない。

 最後に金城にとってとんでもない爆弾が落とされたのだ。


「最後にもう一つだけ、奇妙な『予知』がありました」

「ふぅん?」

「佐野奏という人物が亡くなっている姿を視たそうです」

「は?」


 予知の内容を聞いた金城は、彼女にしては珍しく口を開けてポカンとしてしまった。


「(奏さんが死ぬ?は?)」


 金城にとって孫とも思える奏の死を告げられて悲しかったのではない。

 もちろん悲しみや焦燥感はあるのだが、それよりも驚きの方が大きかった。


「(一体どうやって?)」


 因果応報?スキルを突破して奏を殺害するのはあまりにも難しい。

 スキルの内容を詳細に調査して計画しても実現可能かどうか分からないのだ。


「やはり鈴江さんは佐野奏という人物の事をご存じのようですね」

「え、ええ。だけどどうして奏さんが……」

「分かりません。ですが、予知の最後に敢えてその人物が死亡している姿を視せられたようです。それも時間をかけて、とても大きな意味があるように」

「……死因は?」

「転落死のようです」


 転落死だけでは事件なのか事故なのか分からない。

 だが、これから起こる出来事と奏には何らかのつながりがあることが判明した。


「(絶対死なせないよ)」


 金城がこの件について本気で取り組む理由が出来たのであった。




「それじゃあお暇させてもらうよ」

「大したおもてなしも出来ず申し訳ございません」

「本当だよ」

「くすくす」


 『予知』の内容を確認した金城はすぐにでもその場を離れ、対策にとりかかろうとした。普段であればこのまま旧友と憩いの一時を堪能するのだが、その時間すら惜しいと思っているのだ。


「鈴江さんがそれほどまでに大切に想える人と出会えて良かったです」

「な……ふん、私はあんたみたいに良い出会いがあったわけじゃないからね」

「そうかしら。チャンスはいくらでもあったと思うのだけれども」

「ああもう、その話はまた今度で!」


 都合の悪い話になりそうだったので金城は直ぐに話を終わらせる。


「じゃあね、あんたはゆっくり愛しの旦那様と日本を見守ってなさい。皇后様・・・

「そうさせてもらうわ。金城理事長」


 そうして金城は皇居から自分の住むべき世界へと戻った。




「大事件が起きるかもしれない?」

「そして奏様がその事件に関係するかもしれない」

「大事です!」


 金城は芹那達三人を瀧川女学院に呼び出し、近いうちに日本で大事件が起きることと、その事件に奏が絡んでいる可能性だけを伝えた。

 事件の詳細な内容や奏の死の未来など伝えようものなら、彼女達はパニックになって何をしでかすか分からないため、その辺りはぼかしてある。


「今度は私達が奏様を守る番です!」


 ぼかしてあるのに気合が入っているのだ。やはり本当の事は伝えないで正解だったようだ。


「(それとも好き勝手やらせた方が上手く行くのかねぇ)」


 『予知』の結果はそれを誰かに伝えたことで変えられる。

 事件についても奏の死についても金城に伝わった時点で変わっている可能性があるが、どう変わるかは分からない。より悪化する可能性も考えられるのだ。


「(最悪なのは相手の正体と意図が分からないまま終わること。芹那達にやらせると強引にやりすぎて相手が必要以上に警戒してしまうかもしれないわね)」

 

 そしてその結果、尻尾を掴めずに逃げられでもしたら、またいつ同じような事件を起こされるか不安を抱いたまま日常を過ごさなければならない。金城としては、この『予知』の内容を全て解明して対処し、平穏を手に入れたいのだ。


「そうそう、帰る時に椿とレイリーにここに来るように言って貰えるかい?」


 二人がこの場に居ないのは、話をする内容が違うからだ。


「(気が重いわねぇ)」


 今回の事件ではレイリーの父親であるアメリカ大統領が狙われていることが判明している。恐らく大統領側にはすでに『予知』の内容が伝わっているはずだが、アメリカという国の性質上テロリストに屈することはありえず、日米首脳会談が中止になるということは無いだろう。むしろアメリカ側も警備を強化して出来るものならやってみろという態度になるはずだ。


 だが、大統領本人の警護は万全でも、娘であるレイリーは別だ。

 すでに来日しており、事前に狙うにはもってこいだ。レイリーを攫い、大統領の暗殺に使われてしまう可能性があるのだ。


「そんな……ダディが!?」


 『予知』の内容を伝えたことでレイリーは顔面蒼白になり崩れ落ちた。


「ダディが……ダディが!うわあああん」


 そしてそのまま顔を床につけて人目も憚らず泣き出してしまう。


「理事長、レイリーは絶対にここから出さないようにする」

「そうしてもらえるかしら」


 奔放なレイリーは瀧川女学院を抜け出して日本観光に行く可能性がある。

 父親の死という未来を伝えて、安全なこの学院から移動しないように縛ったのだ。


 椿は父親大好きっ娘としてレイリーの気持ちを察しており、絶対にレイリーに危害を加えさせないと心に誓った。




「反対です!」

「そう言うと思ったわ」


 『予知』の内容を明らかにするために、金城は日本全国に人を派遣して調査をしていた。

 表社会から裏社会まで、『予知』の未来につながりそうな情報を片っ端から収集し、何が起こるかを予測しようとしたのだ。


 また、それと同時に金城は一つ試してみたいことがあった。


「勘によるものだから、信じてはもらえないわよね」


 『予知』を知る前から、金城はずっと気になることがあった。

 ここ数か月、どうも大きな悪意のようなものが蠢いている感覚がするのだ。


 それを初めて強く意識したのは真夜の誘拐事件だ。

 あの時、奏の『報い』を活用して犯罪組織を壊滅させたはずだが、一番大事な人物を取り逃しているような気がしたのだ。あれだけの犯罪を犯すには僅かだけれども必要なピースが足りない。そんな漠然とした感覚を。


 他にも奏が芹那とデートした時の不自然な襲撃をはじめとして、しっくりこない事件が多発していた。


 そしてこの『謎の悪意』と『予知』が繋がっているのではというのが金城の勘だった。


「鈴江さんの勘はこれまでの経験に基づくものですから信じられます。問題はそこではなくて生徒達を囮にするような真似です!」

「実際に囮にするんだよ」

「それが反対だって言ってるんです!」


 大事に育てている娘達を敢えて危険に晒そうなど、正気の沙汰とは思えない。

 ゆえに秘書の佐久間は大反対しているのだ。


「私の勘を信じているのなら、賛成して頂戴」

「え?」


 だが金城は引くわけには行かなかった。


「私の勘では、このまま『予知』が実現されてしまったならば、娘達はもっと危険な目にあうわ。それこそ、一人残らず犯罪組織に拉致される可能性もあるわね」

「…………」


 荒れに荒れた社会で、卒業した生徒達は犯罪者に狙われて無残な最期を迎える。

 その可能性があると金城は予想しているのだ。

 それを考えたら、自分達が見守っている中で囮にする方が遥かに安全だと。


「ですが……ですが!鈴江さんが予想している犯罪組織の関係者がいるかもしれないんですよ!」

「そうね。だからこそ、囮にする意味があるのよ」

「危険すぎます!」

「ターゲットが最初から分かっているのだから、貴方達が守れば良いだけの事よ。それとも守る自信が無いのかしら」

「煽るのはお止めください。そういう話ではございません」


 ターゲットは分かっている。

 今回の作戦の目的は、ある人物を呼び寄せて何かが起きるかを確認することだ。


 また、生徒を囮にすると言っても女学院の内部はスキルによって攻撃的な行動が禁止されている。外への転移なども出来ない。

 瀧川女学院の中に外部から人を入れようとも、生徒達の安全は守られているのだ。

 セキュリティを突破出来る超人が来なければ、であるが。


「なんと言われようとも作戦は決行よ。あなたの優しいところは美徳だけれど、もう少しだけ非情になれないと大切なものを守れないわよ」

「……」


 誰かを大きく悲しませないギリギリの範囲で苦難を強いる。それがより大きな絶望に飲み込まれないようにするためならば、為政者としてやらなければならないのだ。


「そうそう、『たつみ』の監視も重要だけれど、他の生徒にも気を配って頂戴ね」


 金城は何処からか『たつみ』という人物が何らかの重要人物であるという曖昧な情報を入手した。

 情報は名前だけであるが、奏の傍に辰巳という人物がいることを偶然に思える程、金城は楽観的では無かった。


「(奏さんの傍に元凶の関係者が居る。そんな物語みたいなことあり得るのかしらね)」




 そして瀧川女学院の奏を巡る大騒動が終わりを迎えた後の事。


「それで、犯人の正体は分かったのかしら?」

「いえ、それが……」

「あれだけのことがあって分からなかったの?」


 正気に戻った生徒達は自分達の行動を全て覚えていた。

 精神的に辛い娘には記憶操作などでメンタルケアをするつもりだが、彼女達は案外強く全員照れながらも問題無いと言っていた。


 しかし、誰に聞いても今回の事態の原因が判明しなかったのだ。

 皆気付いたら奏の事を求めており、ふって湧いて出た強い想いに体が突き動かされてしまったのだと。


「大川高校の生徒達に目立って不審な動きは見られませんでした。肝心の宇賀神辰巳さんも本気で三澄栞さんと仲違いをしているように見えました」

「ふむ……スキルは?」

「ケンカをしていた二名と、スキルを保持していない松浦俊介さん以外は使っておりました。ですが、いずれもこれほどの大規模な状況を引き起こせるものではございません」


 山岡雫は『身体強化』のスキルを使って、使用前後での走りの違いを見せていた。

 矢野涼真は『連鎖』スキルを使って、瀧川女学院の生徒が落ちゲーで気持ち良く大連鎖を体験出来るようにしてあげていた。

 岡杏奈は『恋慕』スキルを使って、女の子の恋する気持ちを瀧川女学院の生徒に体験させてあげていた。


 いずれも攻撃スキルではないため発動は出来るが、今回の現象の直接の原因とは考えにくい。


「スキルの内容だけでは岡杏奈が怪しいわね」

「ですが彼女のスキルは単体にしか効果がございません。むしろ彼女に注目が行くように誰かが仕組んだ可能性の方が高いかと」

「それもそうね。案外スキルが無い松浦俊介ってのが何かを隠しているのかも知れないわね」

「そちらも検討しましたが、少なくとも私達のスキルでは隠しスキルのようなものは見破れませんでした」

「そう……」


 結局のところ、生徒達を囮にしたが辰巳は何もせず、発生した事件の真実も明らかにならないという散々な結果になった。

 いや、一つだけ分かったことがある。


「あの中の誰かが何かを隠していることだけは間違いないわね」


 彼らを招いた日にトラブルが起きたと言うことは、やはり彼らの中に瀧川女学院に対して何らかの攻撃をしかけるような人物が含まれていると言うことだ。


「せめて『報い』があれば良かったのですが……」


 今回の奏は美しい女生徒に迫られるという、傍から見たら羨ましいと思えるものだった。

 事件の犯人は間接的に奏を攻撃した形になるため直接『報い』を受ける可能性は低く、仮に『報い』を受けたとしても見目麗しい異性から迫られるという特に問題の無い『報い』になってしまうのだ。

 犯人が犯罪組織の関係者ということであれば、迫られた時に相手を殺してしまうという対処だって可能だ。特に意味のある目立つ『報い』にはならないのである。この辺り、奏のことを知っていて敢えてこのような手段を取った可能性すら考えられる。


「はぁ、やめやめ。レイリーはどうしてる?」

「椿さんに慰められてます」

「そうかい。あんたたちもフォローしてあげなよ」

「もちろんです」


 レイリーが何故奏に迫ったのか。

 それは奏の因果応報?のスキルを頼りにしたかったからだ。

 奏に想ってもらうことで、そのまま父親ごとスキルの守備範囲に含めて欲しかったのだ。


 それゆえの愛の無い告白。

 異変に便乗した誘惑。


 レイリーもまた、父親の死と言う未来に追い込まれていたのだった。


 全てが動き出すまで、あとわずか。


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