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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第一章

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3. 助けたお婆ちゃんが偉い人だったんですけど

「人類が皆、彼のような心優しい人物であれば戦争など起きないでしょう!」

「他人を思いやるということの意味を、彼は我々に思い出させてくれました」

「いっそ殺して」


 臨時全校集会という名の辱めを終えてクラスに戻った奏は、当然クラスメイトから盛大に弄られている。


「いたいた、うわー可愛い」

「見えないよー」


 それどころか他のクラスからも人が押しかけてきた。見た目が小動物系の可愛らしい男の娘が羞恥プレイで恥ずかしがっている姿を見せつけられたのだから、母性や父性を刺激された生徒達が興味を抱くのも当然である。


「まだ照れてるのかな、伏せちゃって良く分からない」

「頭撫でてみたいな。私、ずっと妹欲しかったんだよ」

「あいつ男だよ」

「あれ?」

「話をすると分かるけど、普通に男っぽい感じもするよ」

「感じ『も』なんだ。妹感もあるんだね」

「無くはない」

「あはは、それじゃあ『妹弟いもおとうと』って感じかな」


 机に顔を伏せようとも、揶揄う声や可愛がりたがる声などが聞こえて来て顔の熱が全く取れない。恥ずかしくて顔をあげることが出来ず羞恥で悶えている。


「みなさん、自分のクラスに戻りなさい」

「やべっ」

「次の授業どこだっけ!?」


 騒ぎは次の授業の英語教師がやって来るまで続き、その後も休み時間の度に奏は好奇の目に晒されることになる。いや、それどころではない。


「おう、めっちゃ人居るな」


 奏一人のために開催されるはずだった補講にも、俺も私もと自主的に参加する人が増えて満席になってしまったのだ。


「こんなに勉強が好きな奴が多いとは思わなかったぞ。先生は嬉しいな。もちろん、来たからには覚悟は出来てるんだろうな」

『ヒイッ!』


 授業を受けている奏を近くで眺めて愛でようという不埒な考えを持つ者が大半であったが、鬼の数学教師がそのようなことを許すはずがない。


「補講の最後に小テストをやるからな。勉強が大好きなら軽く満点を取れるよな。もし間違えでもしたら……分かってるんだろうな!」

「あ、俺今日部活だったわ」

「私買い物頼まれてるんだった、残念だなー」


 鬼教師の機転により、ほとんどの生徒はその場を離れて行く。もちろん、その程度では揺るがない病気の人もいるのだが。


「ぐへへへ、奏ちゃんかわいい」

「お持ち帰りしたーい」


 彼らは鬼教師に怒られようが構わないという鋼メンタルの問題児だ。


「はぁ、お前ら邪魔だけはすんなよ」

『はーい』


 この日、奏は『みんなの妹弟いもおとうと』として全校生徒に認識された。


――――――――


「大変な目に遭った……」


 奏は補講を終えて、話をしたいと詰め寄る生徒達を振り切り自転車で帰宅中。高校に入学してからここまで心身が疲労したのは初めての事である。疲れているのが分かっていたので、事故を起こさないように気を付けてゆっくりと帰る。事故から老婆を助けて褒められたのに、自分が事故を起こしたら笑い話にもならない。あれほど奏を褒めた校長など驚きでひっくり返ってそのまま死んでしまうかもしれない。

 そんな奏が信号待ちで止まっている時に、ポケットに入れたスマホがブルっと震えた。


「お母さんかな」


 帰りに何かを買って来て欲しいとメッセージが送られてくることが時々あるため、今日もそれかと思い何気なくメッセージを確認した。


『おねがい、出来るだけ早く帰って来て』


 文末に汗の絵文字が大量につけられており、しかも早く早くというスタンプが連打されている。


「何だろう?」


 いつもと違う文面に何か問題でも起きたのかと不安に思ったが、変なスタンプを織り交ぜて遊んでいる感じもするため、深刻な事態では無いのだろうと安心した。

 母親の言いつけ通り、事故にならない程度に奏は急いで帰り、玄関の扉を開ける。


「ただいまー」


 挨拶をするとすぐに奏の母親が玄関までやってきた。


「おかえりなさい、奏。制服のままで良いから、うがい手洗いが終わったらリビングに来てくれないかしら」

「うん、分かったけど、何かあったの?」

「奏にお客様が来てるのよ」

「僕に?」


 改めて玄関を見ると、見慣れない女性用の靴が置いてあった。


「(誰だろう?)」


 奏には友人がそれなりにいるが、平日の夕方時に訪ねてくる女性など思い当たらない。しかも靴の雰囲気からして同年代ではなく年上の大人のものだ。

 きっと親戚の誰かだろうとあたりをつけて、洗面所で身だしなみを整えてからリビングへ向かった。


「お母さん、来たけど……え?」


 リビングのソファーに座っていたのは思いがけない人物だった。その人物はソファーから立ち上がり、奏に挨拶をする。


「こんばんわ。お邪魔しております」

「こんばんわ。おば……金城さん」


 奏が助けた老婆、金城鈴江だ。


「お婆ちゃんで良いですよ。そっちの方が嬉しいわ」

「ええ、でも……はい」


 反射的にお婆ちゃんと言いそうになったのをどうにか堪えて名前を思い出した奏だったが、金城はお婆ちゃんと呼んで欲しいと希望するので、遠慮しつつもそう呼ぶことに決めた。


「それで、今日はなんでうちに?」

「奏、そのまえに座りましょう」

「あ、ごめんなさい」


 予期せぬ事態に慌てて立ち話のまま話を進めようとしてしまう辺り、まだまだ奏が若くて経験が無い証拠である。母親のフォローにより奏と金城はソファーに腰を下ろしてから話を再開する。


「今日は奏さんにお礼を言いに来たの」

「お礼ですか?」

「ええ、私を助けてくれて本当にありがとう。心から感謝しています」


 金城はソファーに座ったまま奏に向かって頭を下げた。たったそれだけの行為であるにも関わらず、奏は金城の姿を優雅に感じ、思わず見惚れてしまった。


「お婆ちゃんを助けられて良かったです」

「私も奏さんを泣かせなくて良かったわ」

「あははは」


 あの時の自分のセリフを引き合いに出され、奏はなんとなく小恥ずかしい気分になった。


「そういえば、怪我はありませんでした?」

「ええ、お医者様にしっかりと見て頂きました。少し足に擦り傷が出来た程度で、他は特に問題ないそうです。よろしければ診断書をご覧になりますか?」

「いやいや、要らないですから!」


 絶対に病院に行くべきだと奏が強く主張したため、奏に安心してもらうために診断書を持って来たのだろう。奏としては金城が病院に行かないのではないかと疑う気など毛頭なかったため、慌てて返答した。


「でも無事で良かったです」

「本当にそうね。正直なところ、あの時もうダメだと思っていたのよ。重ね重ね助けてくれてありがとう。あなたも怪我が無くて良かったわ」

「ありがとうございます」


 昨日の事故は加害者である車が行方不明である。しかも、奏が金城を押し倒した直後に音も無く消え去った。奏としては事故があった実感が無く、それなのに校長先生やら全校集会やらで褒められ続けて羞恥だけでは無く居心地の悪さも感じていた。だが、助けた相手が目の前に現れたことで、ようやくあの事故が本当にあったことだと実感することが出来た。


「そういえば学校の方は大丈夫だったかしら」

「はい、遅刻扱いにはならなくて、しかも僕のために補講までやってくれるんですよ」

「あらまぁ、それは良かったですね。私のせいで奏さんの学業や学生生活に影響があったらと心配だったのよ」

「心配してくれてありがとうございます」


 学校の話が話題に挙がり、奏は昨日と今日の羞恥プレイを思い出し僅かにばつが悪い表情を浮かべてしまった。金城はそれを目ざとく見つけ、質問する。


「何か問題があったのかしら。よければ教えて頂けませんか」

「いえ、なんでもないんです」


 ここで自分が偉い人から褒められたなどと説明すると、金城を助けたことを利用して自慢したかのように思われそうで、奏は秘密にしようとした。だが、金城の話術によりその秘密は簡単に暴かれ、気付いたら奏は今日の全校集会の件まで細かく報告していた。


「あの馬鹿が」

「お婆ちゃん?」

「いいえ、なんでもないわ。大変だったでしょう。私のせいで迷惑をかけてごめんなさいね」

「そんな!お婆ちゃんは悪く無いです!」

「そう言って頂けるとありがたいけど、やっぱり悪いわ。そうだ、奏さん、彼女はいるの?」

「ええ!?」


 迷惑をかけるかけないの話の流れで、何故ここで彼女云々が出て来るのか奏は全く理解出来ない。


「もちろんプライベートなことだから無理して答えなくても良いわ。でも、もしフリーなら私の娘達を紹介します」

「…………いや、その、居ない、ですけど」


 奏は生まれてから一度も彼女が出来たことは無い。見た目の可愛らしさからマスコット的な扱いを受けることはあるが男として意識されることが少ないのだ。幼馴染の栞からも『かなちゃんが恋人って想像できない』と断言されて凹まされたことがある。見た目は可愛くても内面は男子高校生。可愛い彼女が欲しいと思っているしエロい妄想だってする。


 とはいえ、いきなり女性を紹介するなどと言われて『是非!』などと言えるような肉食系では無い。しかも問題はそれだけではない。金城の娘となるとそれなりの年齢のはず。年上のお姉さんに興味が無くは無いが、やはり同年代の女性とお付き合いしたいのである。


「あの、その、ありがたいお話ですが、勝手に決めるのは良くないと思います。それに、年齢が離れすぎるのはちょっと……」

「うふふ、思った通りに謙虚な子ね。やっぱりあなたになら大事な娘達を託せるわ」

「ええええええええ!?」


 お断りしたら、またしても何故か評価が急上昇してしまう。


「それにね、娘達って言っても私の血の繋がった娘という意味では無いの。もちろんそのくらいに想ってはいるのだけど」

「??」


 金城の言葉を疑問に思う奏に、これまで口を挟まず状況を見守っていた母親が助けを出す。


「か、奏、この方のこと、ご存じないの?」

「お母さん知ってる人なの?」

「知ってるも何も、この辺りで金城鈴江さんと言えば一人しか居ないわよ」


 奏は金城のことばかり気になっていたが、母親に注意を向けると目に見えて緊張している様子だった。ここに来て、つい最近感じたばかりの嫌な予感が背筋を駆け回り出した。


「お母様、若い子なら分からなくても仕方ないですよ」

「え?え?」


 話についていけず、奏は金城と母親を交互に見る。


「いい、奏。この方は、金城鈴江さんは、瀧川女学院の理事長よ」

「へぇ~理事長………………理事ちょおおおおおおおお!?」


 瀧川女学院と言えば、奏の家からそう遠くない山の上にあるお嬢様学校だ。奏の通学路の途中にも瀧川女学院へ向かう道との分岐路があり、金城の事故現場はその近く。資産家や権力者の子女が通っているとされているが、全寮制の学校であり生徒達や関係者が街に出てこないせいか、近隣住民からの学院に対する印象は薄い。稀に黒塗りの高級車が街中を走っているのを見かけた時に、そういえばそんな学校があったなと思い出される程度だ。


 だが理事長については違う。


 瀧川女学院の理事長には権力者であっても逆らうことは出来ない。

 怒りを買った政党や企業が一晩で消滅した。

 不敬を働いた民間人が海外に飛ばされて行方不明。


 理事長の権力を象徴する多くの眉唾話が、どういうわけか一般人に広く知れ渡っているのだ。瀧川女学院の理事長は日本を裏で操る独裁者だ、などと週刊誌に大々的に書かれたことすらある。ゆえに奏にとっても瀧川女学院の理事長と言えば雲の上の存在であると同時に恐怖の象徴でもあった。


「ぴええええええ!」


 自分が気軽に話をしていた相手が実はとんでもなく偉い人だったと分かり、奏は目を回しそうになった。


「奏さん、大丈夫ですか?」

「ぴ、いえ、ダイジョブです。おば……金城さん」

「お婆ちゃんで良いのよ」

「でも」

「お婆ちゃんで良いのよ」

「……お婆ちゃん」

「はい」


 有無を言わせぬ迫力を感じ、奏は呼び方を変えることを許して貰えなかった。


「それで娘達を紹介するお話ですけど」

「その話、まだ続くのですか!?」

「もちろんよ。私としては娘達にはあなたのような男性のところに嫁いで欲しいと思っているの」


 ここでの『娘』というのは瀧川女学院の生徒の事だろう。理事長は学院に通うお嬢様を奏に紹介しようとしていたのだ。


「な、なな、なんで僕なんかが?」

「自分を卑下するのは良くないわ。あなたは立派な男性よ」

「ぴええええええ」


 怖がれば良いのか、喜べば良いのか、照れれば良いのか、感情がぐるぐると体内を巡ってオーバーヒートしそうだ。


「くっくっくっ、これ以上は奏さんに迷惑をかけるだけね。これ以上家族の団欒の邪魔をするのも申し訳ないですし、そろそろお暇させて頂きます」


 立ち上がろうとする金城に、母親がお約束の言葉をかける。


「大したもてなしも出来ず申し訳ございません」

「何をおっしゃいますか。今日はお礼に来たのよ。もてなされたら困ってしまいます」


 申し訳無さそうに笑う金城の姿を見て、奏は噂は噂でしか無いのだと思い直すことに決めた。そもそも噂だけで勝手に人を怖がるなど失礼にも程があるだろうと。奏は恐怖を抑え込み、最初の頃と同じ雰囲気で金城にお別れの挨拶を告げる。


「お婆ちゃん、元気でね」

「……」

「お婆ちゃん?」


 とたん、金城は唖然とした表情を浮かべて奏を凝視する。


「やっぱり私、あなたのこととても気に入ったわ」

「え?」

「よろしければ連絡先を交換しませんか?」


 奏は金城のSNSのIDをゲットした。


「気軽にお話ししましょうね」


 いたずら顔に戻った金城は嬉しそうに佐野家を後にした。


「何がどうなってるのおおおおおおおお!?」


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