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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第一章

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19/72

19. 花ヶ前 真夜(はながさき まよ)

「百周年記念式典ですか?」

「そう、そのパーティーへの招待状が真夜に届いているのよ」


 その日、花ヶ前真夜は金城に呼び出され理事長室で話をしていた。話の内容は三峰建設創立百周年記念パーティーに真夜が招待されたことについてである。


「断ろうかと思ったんだがね、一応真夜の要望も聞いておこうかなと思ってね」

「行きます」

「はぁ、そう言うと思ったから話をしたくなかったんだよ」


 金城は真夜の返事を聞いて隠すことなく露骨にため息を吐いた。

 三峰建設は古い大企業特有の保守的な性質を持たず、新しい事にも精力的にチャレンジして現代社会に常に適応し続けて来た立派な企業である。現在の役員達も様々な意味で能力が高い人達で占められており、親の七光り的な使えない人間は排除されている。

 企業的にも社員的にも特に問題が無さそうなこの企業であるが、金城としては真夜にあまり近づいては欲しくない企業であった。


「鈴江さん、私は強羅ごうら社長に幼いころから大変お世話になっております。むしろ私の方からお祝いに向かいたいと考えておりました」

「んなこたー知ってるよ。でもこのままじゃ真夜は社交界から抜け出せないじゃないか」

「好きでやっておりますので」

「外の世界も悪くは無いと思うんだけどねぇ」


 その理由の一つが、真夜をこのまま単なる『お嬢様』として成長させたくなかったからだ。

 三峰グループの会長は世襲制では無い。むしろ家族以外から次の会長を選出することで競争を煽っている。

 そのため、現会長である花ヶ前源三の息子、真夜の父である花ヶ前忠臣ただおみは三峰グループには所属せず考古学の教授という職に就いており、孫の真夜もお嬢様でありつつも普通の人生を歩むことが出来るのだ。

 だが、真夜はお嬢様として在ることを嫌ってはおらず、むしろ好きでその立場に収まっている。その理由が子供の頃のお嬢様ごっこが気に入ったまま成長してしまった、というだけなのだから金城としては真夜の将来が心配なのである。


「それにあそこのボンボンは良い噂を聞かないじゃないか。オツムが弱くて女好き。前のパーティーでも真夜に言い寄ってきたんだろう?」

朝鷹あさたか様は立派な跡取りです。自らの立場を強化するため私とのつなぎを作ろうとするのは当然のことでございます。朝鷹様に足りない分を補うのがパートナーの役目では無いでしょうか」

「なに、真夜あいつに惚れてるのか?」

「…………惚れてるとかそういう問題ではございません。そうあるべきという話です」

「そんなに嫌そうな顔するなら切って捨てれば良いのに。いつの時代だよ、まったく」

「いつの時代も変わらぬものがあると思います」

「はいはい、口だけは達者なことね」


 時代遅れの政略結婚すら厭わない。まだまだ子供の癖に世の中を達観しているような真夜の態度が金城にはどうにも気に食わなかった。


 女が自分の幸せを求めるのは当然の権利だ。


 それは金城の大きな信念であるからだ。その信念が強すぎて理想の男性に出会えず独身のまま老後を過ごすことになってしまったのだが。


「招待状ありがとうございました。それでは失礼します」


 話は終わりだと言わんばかりに真夜は招待状を持って立ち去ろうとする。ガンコで話を聞き入れようとしない態度に金城は呆れ、思わずつぶやいてしまった。


「真夜も奏さんに会えば変わるのかしらねぇ」


 その言葉を聞いた真夜は立ち止まり金城に振り返る。


「奏さん、ですか?」

「ああ、最近私が交通事故に遭いかけたのと芹那と美月が襲われたのは知ってるだろう。私達を命がけで救ってくれたのが奏さんだよ。今時あんなに優しくて勇敢な男の子は珍しいよ」

「…………」

「なんだい、気になるのかい?あんたはてっきり外の男など興味が無いのかと思ってたよ」

「彼女達は友人ですから。友人の恩人の話となれば気になるのは当然かと思いますが」

「そーかいそーかい。それじゃあその気になる恩人の話を聞いて行くかい」

「はい」


 真夜はソファーに戻り、金城の話に耳を傾けた。金城としても真夜が外の世界に興味を持つのは良い傾向だと思い、奏を徹底的に持ち上げて紹介する。このまま気になる男の子にでもなってくれれば考え方が変わるかもしれない、そんな軽い気持ちで。




 そしてその軽い気持ちでの行動が真夜に劇的な変化をもたらした。


「(お姫様抱っこで助けてくれるなんて羨ましい!はぁはぁ、私もそんなヒーローに会いたい!抱いて欲しいいいいいいいい!)」


 なんてことはない、真夜も普通に恋する女の子だったというだけの話だ。

 社交界で出会う同年代の男性は当たり前だが子供っぽく、淑女に見合う紳士的な男性など一人もいなかった。中等部に上がった頃からはぶしつけに顔や胸や尻ばかり見て来るような男性ばかりであり真夜の中身を見てくれる人など一人もいない。

 そんなこんなでそれまではきっかけが無かっただけで、奏という具体的な素敵な男の子の存在を知り、イメージしてしまえばそこから妄想が膨らむのは年頃の女の子としては当然のこと。人づての話だからこそ妄想に果ては無く、時間が経てば経つほど妄想の奏に対する想いは募ってゆく。


「(奏様……どのような方なのかしら。芹那さんや美月さんにお聞きするのははしたないわよね。会いたいわ。会ってお話したいわ。抱きしめて欲しいわ。そしてあんなことやこんなことも……きゃー!)」

「花ヶ前様、どうかなされましたか?」

「え……いえ、少々考え事をしておりました」

「あらまぁ、心配事ですか?」

「次のパーティーは和服にするかドレスにするか悩んでしまって」

「和服が良いと思います!」

「でもドレスも見てみたいです!」


 和服が良いかドレスが良いかで議論し合う同級生を見て、心配をかけたことと誤魔化してしまったことを真夜は内心謝った。

 真夜の心はまだ見ぬヒーローに囚われていた。いや、むしろ大いに拗らせていた。お嬢様の内面がえっちぃ妄想大好きっ子だと気付いている人は誰も居ない。


 その恋の病は時間が解決してくれるはずだった。所詮は一般人とお嬢様、少なくとも高等部の間は出会う可能性など無いに等しく、高等部を卒業後も真夜がお嬢様であり続ける選択をするのならば二人の人生がすれ違うことすら無いだろう。

 しかし、三峰建設創立百周年記念パーティーの日、真夜に運命の出会いが訪れる。


「(ああ、奏様は今頃何をしていらっしゃるのでしょうか。隣に私がいればあんなことやこんなことをして差し上げますのに。ぐへへへ)」


 家族と夕食中である。犯罪組織の企みを金城に伝えた後で。


 現在、真夜はパーティーの会場に向けて黒塗りの高級車で移動中だ。背筋を伸ばし目を閉じている姿からは、パーティーで粗相をしないように瞑想をしているように見えた。実際は奏をだしにえっちぃ妄想をしているのだが。


「(あら、もう着いたのかしら)」


 突然車が停車し、予定時間よりもやや早い到着に真夜は訝しんだ。今日の運転手は常に安全運転であり、交通事情で遅くなることはあっても早くなることはあり得ないからだ。


「お嬢様、襲撃です」

「!?」


 襲撃。

 その言葉に背筋がぶるりと震え、年相応の恐怖感が手足を震わせる。しかしそれを真夜はスキルの力を使い強引に抑え込む。


 スキル:やまとなでしこ


 幼少からお嬢様に憧れ、なろうと努力して来た真夜だからこそ授けられたスキルだ。美しさと奥ゆかしさと凛々しさを内包する淑女としての立ち居振る舞いが出来るようになる、それだけのスキル。

 このようなものなどなくとも既に瀧川女学院ではやまとなでしこと同級生に評されている。真夜にとっては不要なスキルであるとは思っていたが、大きく動揺する現在の場面では有効であった。そのことを悔しく思いながらも、更なる成長の糧としたいと真夜は誓う。

 しかしその誓いを達成するためにはまずは生き延びなければならない。


「分かりました。どちらに?」


 三峰グループの会長の孫ともなれば犯罪者から狙われることは当然想定内のことだ。真夜にもその場合の対応方法が教え込まれている。

 最も重要なのは安全な場所へ避難すること。

 今乗っている車はミサイルをぶち当てられようともスキルで攻撃されようとも耐えきれる鉄壁の砦だが、道を塞がれて乗り込まれたら袋の鼠。ゆえに、近くにより安全な避難先があればそちらに移動することになっている。

 その場合に一番危険なのは車を降りた瞬間。何があっても立ち止まらずに急いで駆け抜けることが重要だ。


「ちょうど三峰ホテルの目の前ですので、そちらに避難して頂きます。外に警護の者達がおりますので、彼らの指示に従って移動してください」

「はい、タイミングの指示をお願いします」

「承知致しました」


 真夜の耳には聞こえてこないが、外では銃弾が飛び交っている可能性もある。やまとなでしこのスキルを全力で発動し、恐れて足を止めないように注意する。


「今です!」


 SPを盾に真夜がホテルに向かって走る。叫び声や小さな爆発音らしきものが聞こえては来るが、特に問題なくホテルに入った。


「引き続きこちらへ」


 そのままSP達に連れられて真夜はホテルのとある一室へと向かう。エレベーターで上層に登ると、降りたところでホテルの警備員が案内に加わった。


「こちらへどうぞ」


 その警備員は真夜のことを視界に入れず先頭のSPに目で合図し、指定の部屋まで案内しようとする。周囲を警戒しながら廊下を歩いていると、向かいから何か丸いものが突然転がって来る。


「!?」


 SPが警戒モードに入り、その物体に注目した瞬間。ホテルの警備員が真夜に近づき手を伸ばす。


「ぐわっ!」


 しかしその直前でSPに確保されて廊下の地面に叩きつけられ、右腕にスキル封じの腕輪をつけられる。奏の事前の報告が役にたった形だ。それが無ければこのタイミングで真夜は男に触れられて転移させられただろう。


「大丈夫ですか?」

「はい、ありがとうございます」


 男を二人で抑え、一人が何処かに連絡し、二名で真夜の安全を守り続ける。SPが真夜の無事を確認し、このまま安全な部屋まで逃げ込めば避難完了。


 そのはずだった。


「それは良かった」


 真夜に声をかけたSPの男が、自然な仕草で真夜に手を伸ばす。それを見たもう一人のSPが止めようと動くがもう遅い。男は真夜を守る人が減るのを待っていたのだ。


「え?」


 真夜はいつの間にか見知らぬ部屋に立っていた。それまでホテルの廊下に居たが突然視界が変わったことで脳が混乱して吐き気を催す。


「うっ……」


 どうにか耐えることは出来た。だが状況は最悪だ。


「まさかSPに敵が混じっていたなんて」


 家具も何も置かれていない六畳程度の広さの一室。そこには自分以外の誰も居なかったが、どう考えても自分を襲った敵のアジトだろう。


「出口が無い?」


 その部屋は扉も窓も無く逃げ出すことはおろか、外から入ってくることすら出来そうにない。そこで真夜は思い出す。自分がどうやってここに連れてこられたか。


「まさか転移でしか出入り出来ない場所!?」


 もしそうだとするならばこれ以上ない程の監禁場所だ。慌ててスマホを確認するが、当然圏外になっていて外との連絡は不可能。つまり誰かが敵を捕らえてこの場所を吐かせない限りは助けも来ないと言うこと。


「そんな……」


 絶望的な状況に真夜はぺたりと床にへたり込んだ。スキルも切っており、優雅さは失われ、がっくりとうなだれる姿は年相応の女の子だった。

 どういうわけか敵は居ないが、直にやってくるだろう。そうなってしまったら自分に待ち受けているのは悲惨な運命だ。授業で見せられた映像を思い出し、顔に羞恥と蒼白が入り混じる。えっちぃ妄想が好きだからこそ、リアルな残酷映像が頭に過ってしまう。


「これほど大掛かりなことをやる組織なら、私を使ってお爺様に大きな圧力をかけるはず」


 真夜の美貌や身代金目的で小悪党や小さな犯罪組織が行動を起こしたとは思えないほどの用意周到さ。組織の闇の深さが感じられ、恐らくは三峰グループを意のままに操るために真夜を使うだろう。

 もちろん、映像で見せられたような行為をさせられる可能性もある。今では体も記憶もスキルによってリセットすることが出来るため、どのような残虐な行為をしても何もしてないと言い張れるからだ。


「…………」


 真夜は手に持っていた小袋から白い小さな箱を取り出した。蓋を開けると、そこには小さな錠剤が一錠入っている。それはいざという時のために持たされていた物。


 毒薬だ。


 もしも誘拐され三峰グループに迷惑をかけるのならば、これを飲んで自ら死になさい。死んでしまえば人質としての価値は無く、辱められることも無い。

 真夜は皮肉にもお嬢様として社交界での経験が豊富であるからこそ、その意味を正しく理解していた。そしていざという時は使う覚悟もしていた。


 だが、それはあくまでも子供の覚悟だ。


 死にたくなるほどの行為をまだ受けたわけでも無いのに、死を選択することなど出来るわけが無い。だが、今それを選ばなければ、死ねば良かったと後悔することが待ち受けている。


「嫌……死にたくない……!」


 顔を覆い、地面に突っ伏して号泣する真夜。最早一刻の猶予も無いはずだが、死の恐怖にただ涙する。


 ガチャリ。


 音が聞こえた。

 絶望に導く音が。


 震える手で真夜は錠剤をつまむ。もし敵が来たのなら、もうこれを飲むタイミングは今しかないからだ。

 音がした方向を真夜は睨みつける。そこは相変わらず壁しか見えず、音が聞こえたのは自分の勘違いであって欲しいと真夜は強く願った。だがそれは聞き間違えでは無く、紛れもなく人が来た音だった。何故ならばすぐに声が聞こえて来たからだ。


「大丈夫!助けに来たんだよ!」


 てっきり敵が来たものと思い込んでいた真夜の心が一瞬安堵しそうになる。だが、油断は出来ない。助けならば三峰グループや瀧川女学院の大人達が来るはずだ。子供みたいな声が聞こえるなど怪しすぎる。真夜は警戒を解かずに声がした方を睨み続ける。

 するとその声は信じられないことを真夜に告げる。


「鈴江お婆ちゃんにメッセージ送ったから、すぐにでも来ると思う。だから安心してね!」

「え……?」


 鈴江お婆ちゃん。それはまさか金城鈴江のことだろうか。

 天下の金城鈴江をお婆ちゃん呼ばわりするなど普通ならありえない。生徒達には鈴江さんと呼ばせているがそれですら異常であり、名前を呼ぶことすら憚られる相手なのだ。いくら敵の工作とはいえそのような愚かな呼び方をすることなどありえない。

 だとするとこの助けは本物か。しかも真夜は知っている。金城鈴江を鈴江お婆ちゃん呼びする唯一の存在を。


「(奏……様……)」


 妄想の中で英雄と化していた存在が、自分のピンチに駆け付けてくれるというまるで物語のような展開。そのことによる嬉しさと命が救われたことの安堵が混ざり合い、真夜は滂沱の涙を流す。


「ああああああああ!」

「だ、大丈夫!?」


 慌てて奏が駆け寄ってくるものの、あまりの感情の高ぶりに顔を見ることも出来ず蹲ることしか出来ない。その真夜の肩に優しい温もりが与えられた。

 顔を見て感謝の言葉を伝えなければ。

 やまとなでしこであらんとする心が反射的にそう告げる。だが、真夜の体は動かない。巨大な感情群を止めることが出来ず、涙を流しながらうわごとのようにつぶやくだけ。


「ありがとう……ありがとう……」


 この日、妄想の中のヒーローが本物のヒーローとして真夜を救いにやって来た。顔はまだ見えないが、もうとっくに真夜は『初恋』に堕ちていた。


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