14. 美少女について調べたらまた事件に遭遇したんですけど
二度の誘拐事件を経験してから数日後、奏の日常は戻って来た。事件直後こそクラスメイトに色々と聞かれて囃し立てられたものの、高校生の興味は移ろいやすいもの。具体的な情報は制限されており、奏の口からも漠然とした情報しか出てこないため印象に残りにくく、すぐに普段通りの日常が戻って来た。
二月十日。学校を終えて誘拐事件に遭遇することも無く無難に帰宅した奏は、やることも無く自室のベッドに横になっていた。
「最近の僕ってトラブルに巻き込まれすぎじゃないかな」
交通事故と二度の誘拐事件。一生に一度あるか無いかの出来事が立て続けに襲って来た。奏は元来トラブル体質では無く平穏無事な人生を送っていた為、尚更そのギャップが心臓に悪い。
「しかも全部瀧女絡み……可愛かったし綺麗だったのは良かったけど」
芹那と美月のことを思い出し、ほんのりと顔が赤くなる。どれだけ見た目が可愛かろうとも奏は男の子。女の子のことを考えてドキドキするのは当然の反応。決して百合などではない。
「そういえば僕、瀧女のことってあんまり知らないかも」
近くの山の上にあるお嬢様学校で、偉い人の娘が通っている。完全寮制度で生徒が街に降りてくることはない。
知っているのはそれくらいだ。生徒や教員の姿だけではなく、学校そのものも森に囲まれて下から見えないこともあり、実在している実感が湧かない。
「ちょっと調べてみよっと」
スマホでWebブラウザを起動し、『瀧川女学院』で検索する。すると一般の高校と同じようにWebページが存在していた。高貴な雰囲気漂うデザインであったがコンテンツ内容は一般のものとそうは変わりなく、校風や部活動などが端的に紹介されていた。
「あ、お婆ちゃんだ」
瀧川女学院理事長、金城鈴江。彼女の顔写真が載ったページに、瀧川女学院の理念についての説明が書かれていた。
「本当に理事長なんだ……」
金城が佐野家にお礼に来た時にSNSの登録をして以降、金城と奏はSNSを通じて何度も会話をしている。いずれも金城から話しかけて来ており、その内容は他愛も無いもの。金城の文章は奏にとって絶妙に会話しやすい表現が使われており、最初の頃は緊張していたものの、今では自然に会話が出来るようになっていた。奏と仲良くなるために金城が全力を尽くした結果である。
芹那達の時と違って黒服や高級車などの明らかに金持ちそうな雰囲気を見せず、偉い人という実感を湧かせなかったのが勝利ポイントだろう。
「うわぁ……この人綺麗」
Webサイトを眺めていたところ、新入生代表挨拶のページを発見した。アーカイブもあり、過去の代表者が全て載せられてる。
その今年度分を何気なく確認したら、そこには芹那や美月にも決して劣らない、とてつもない美少女の顔写真が載せられていた。
彼女からは『品の良さ』が漂っており、その点においては芹那や美月よりも遥かに上。美人寄りだが可愛らしさもほのかに残されており、肩より長い髪の艶やかで濃厚な黒さがとても印象的だ。
「花ヶ前 真夜さんか。この人も偉い人の娘さんなのかな」
芹那や美月も偉い人の子供なので世間では有名なのかもしれない。奏はそう思い、何となく彼女達の名前で検索をする。
だが、Webで検索してもSNSで検索しても父親の話題ばかりで大した話は出てこない。娘自体が世間に注目されるような特別なことを為したわけでは無いのだからそんなものだろう。
そして新入生代表の『花ヶ前真夜』についても検索をしてみる。
「三峰財閥の会長の孫かぁ。やっぱりとんでもない人だった」
日本最大の財閥、三峰財閥。東雲和真が頭取を務める三峰誠心銀行もこの三峰グループの一つであり、三峰財閥は事実上日本経済のトップとも言われている。
財閥と言われても高校生である奏には授業で習ったこと以上は知らず、とんでもなくすごい立場の人なんだろうな、という感想しか浮かばなかった。
Webでの検索を終え、最後にSNSで真夜の情報を検索していたら、妙な投稿を見つけた。
花ヶ前真夜に興味がある方
https://……
「なにこれ、スパム?」
明らかに怪しい投稿であり、クリックしたらその瞬間にウィルスに犯されそうな予感がする。その人物のプロフィールを見ても何も書かれておらず、投稿もその一つだけ。投稿日はおよそ半月前で、他の人がその投稿に反応している様子もない。
明らかに触れてはならない投稿だったため、スルーしようと画面をスクロールさせようとしたら、操作を誤ってリンクをクリックした扱いになってしまった。
「わっわっ!」
Webブラウザが開かれて慌てて閉じようとする。てっきり変なポップアップが大量に表示されたりスマホのウィルス対策ソフトが起動して閲覧が遮断されたりするのかと思ったがそんなことはなく、シンプルな黒塗りのページが表示された。
そのページを閉じようとする奏の目に、見過ごせない文字が飛び込んで来た。
新着:花ヶ前真夜拉致計画
「え……?」
トップページには新着の表示の下に、シンプルに三つのリンクだけが置かれていた。
計画説明
過去の計画
報酬(女たちの末路)
奏は恐る恐る計画説明をクリックする。そこには花ヶ前真夜を拉致するための計画が詳細に記されていた。
真夜が上流階級のパーティーに参加するために車で会場へ向かう所を襲撃。その襲撃はあくまでも囮で、襲撃場所の傍にある三峰ホテルの中に避難させる。その三峰ホテルは緊急時に要人を保護する役割を持っており、普段から警備が厚い。その警備の中にスパイが潜入済みで、連れてこられた真夜を転移スキルで指定の場所に移動させる。
これはあくまでも概要で、全員の配置や秒単位でのスケジュール、トラブル時の対応など事細かに記されており冗談とは思えない。
説明のラストには、拉致後の『パーティー』参加希望者用のメールアドレスが記されていた。
あまりにもおぞましい計画を前に、奏はベッドの上で震えが止まらない。
しかも決行日は今日。
「どうしよう。警察に連絡?でも信じてもらえるかな」
怪しいホームページを見つけました。
果たしてそれで真剣に動いてくれるだろうか。話を聞いてくれたとしても迅速に動いてくれるか分からない。仮に動いてくれたとしても警官が数人現地に赴く程度では無いだろうか。それではおそらくこの計画は止められない。
決行時間までは二時間を切っている。奏は迷った末、ある人物に連絡をした。
『こんばんわ。まさか奏さんから電話が来るとは思わなかったわ』
『こんばんわ。お婆ちゃん、大変なんです。お婆ちゃんの学校の生徒が狙われてるんです!』
『詳しく教えて頂戴』
真夜は瀧川女学院の生徒だ。それなら金城に連絡すればきっと素早く対応してくれるだろうと願った。その願い通りに、金城は余計な話はせずに真剣な声色になり先を促した。
『ネットで怪しいホームページを見つけて、そこに花ヶ前真夜さんを誘拐する話がすごい細かく載ってたんです。しかも、もうすぐ決行って書いてあって』
『奏さん、そのホームページのURLを……いえ、画面キャプチャを撮って私に送ってくれないかしら』
『はい!』
奏は電話を一旦切り、言われた通りにそのページの画面を保存し、金城に送付した。すると少し経ってからメッセージが来る。
『連絡ありがとう。とても助かりました。彼女は私達が守りますから奏さんは気になさらずに』
『間に合うのでしょうか?』
『ええ、もちろんよ。奏さんが私に電話してくれたおかげ。警察だったら多分ダメだったわ。本当に助かりました』
自分の対応が正解だったことが分かり、奏は安心する。『良かったです』のスタンプを送り、これから金城は忙しくなるだろうからと話を打ち切った。
「夕飯出来たわよー」
『はーい!』
丁度そのタイミングで母親から夕飯の呼び声がかかった。安心したらお腹が減ってくるもの。奏は部屋を飛び出し階下に降りる。奏母の料理はかなり美味しいため、毎日の夕食が楽しみなのだ。
「お兄ちゃん遅いー!」
リビングに降りると父と妹がすでに席に座っていた。
「七海が早すぎるの。いつの間に下に降りたんだよ」
「ふふん、お母さんのお手伝いしてたんだもん」
「それじゃあ七海が作ったやつ以外のを食べないとお腹壊すかな」
「ひっどーい!なんてこと言うのよ!」
「ほらほら、じゃれ合ってないで早く手を洗ってきなさい」
「はーい」
「じゃれ合ってないもーん」
佐野家の食卓は揃ってご飯を食べるという暗黙のルールがある。この日は父が早く帰宅しており、家族全員がテーブルを囲んだ。
「それじゃあ食べましょうか」
『いただきます』
母親も席に座り、食事が開始される。
「このおひたし美味しい」
「うむ、俺も好きだな」
「私もー!」
「うふふ、今日は上手く出来たのよ」
しばらくは料理の感想を言いながら味を堪能し、ある程度食事が進むとその日の出来事や世の中のことなどについて雑談が始まる。
「そういえば奏、助けた女の子とは仲良くなったの」
「それ聞きたーい!」
その日はいきなり母親がぶっこんできた。
「ないない。お礼を言われた時以来、会ってもいないよ」
「なーんだ。つまんなーい」
「つまんないって。彼女達は狙われてるんだから気軽に外に出れないんだよ。僕なんか相手にしない方が安全だよ」
「でもさー。お兄ちゃんの彼女になってくれれば私も会えるかもしれないじゃん。瀧女のお姉様、私も会ってみたいー」
「彼女って……みんなからの僕の扱い知ってるくせに」
「ごめんなさーい」
「そこ素直に謝られると逆に傷つくよ!?」
『あはははは』
奏が体験したことは家族に詳細を伝えてある。金城がお礼に来た事故はもちろんのこと、二回の誘拐事件についても説明済みだ。その話を聞いた両親は奏を褒め、同時に涙した。
『良くやった』
奏は人生で初めて父親が涙を流しているのを見た。奏が自らの命を危険に晒したことは決して責めず、人助けの行為を無条件で褒めちぎる。だが、同時に心配で不安で悲しいという親の気持ちがどうしてもこらえきれずに涙を流してしまったのだ。
『うわああああん!お兄ちゃああああん!』
一方、妹は兄が死にそうだったと聞きひたすら泣いた。事件に巻き込まれる度に毎回号泣し、あやすのがとても大変だった。
家族の涙を見た奏は都度都度決心する。
「(もう心配かけないようにしないと)」
だが、見過ごしたら女の子が酷い目に合うことが分かっている状況で、知らんぷりなどすることが出来ず、毎回心配をかけてしまうのであった。
『いただきました』
美味しい夕食を堪能し、奏は後片付けの手伝いをしてから部屋に戻る。宿題をするつもりなのだが、ふと夕食前の出来事が気になった。
金城からの新着メッセージは特にない。そろそろ決行の時間だ。
「念のため、あのページを開いておこうかな」
もしかしたら緊急で金城から連絡が来るかもしれないと思った奏は、発端となったWebページを開いておくことにした。問題が発生した時に奏に質問が来るかもしれないと考えたからだ。先ほどは気分が悪くなり肝心のWebページを閉じてしまったため、奏は再度SNSで検索してリンクを探す。
花ヶ前真夜に興味がある方(変更)
https://……
「あれ?微妙に違う」
先ほどの投稿は消えており、(変更)と新たに追加された似た投稿がヒットする。奏がそこをクリックすると、遷移先のWebページに驚くべきことが書かれていた。
作戦が漏れているため予定を変更。
旧Webページは廃棄。
新規分のみここに記載。
「え?」




