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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第一章

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13. 因果応報? その3 美月を攫おうとした二人組

「あれとかどうよ」

「ちょっと歳行きすぎじゃないですか」

「ばっか、あーいうのが良いんだよ。お前はロリコンなだけだろ」

「俺はロリコンじゃないです。学生服マニアなだけです」

「やっぱりロリコンじゃねーか」


 街角に立つ二人の男性。ロリコンと言われた男は背が低く肥満体形で肌が酷く荒れている。もう片方の男は背が高いひょろガリ系で、タバコを胸から取り出して吸おうとするも、禁止されている区域だと思い出し苦々し気にポケットに戻した。


 共に缶コーヒーを手にしており、街行く女性を眺めて品定めをしている。


「そもそも日曜なんだから学生服着てる奴なんかいねーだろ」

「それじゃあなんのために来たんですか!」

「だから別に学生だけ狙ってるわけじゃ……それに今日は視察って言ったろ」

「あ、そうでした」


 彼らは車で日本全国を回り幾つもの土地で女性を攫って暴行する犯罪者。どこかの犯罪組織に属しているわけでは無く単独で、偶然奏の住む街にやってきた。瀧川女学院が守るこの街でもこれまでと同様の犯行を計画しているが、裏の情報を知らないためこの街に手を出したら破滅することを知らない。


「女のレベルは高いんだが、あんまり死角がねーんだよな」

「さっき見つけたとことか良さそうですよ?」

「あそこなー。大通りから近すぎるからリスキーなんだよ」


 大通りに近いと言うことはちょっとしたミスで犯行がバレて捕まる可能性が高いと言うことだ。男は一度でも捕まったら人生が終わることを分かっているため、慎重を期していた。その慎重さこそが一年以上も捕まらずに犯行を繰り返してきた理由だった。


「ここは危険だって俺の勘が言ってる。このまま良い場所が見つからなかったら諦めて……」

「どうしました?」

「お、おい、あれ見ろ」

「うっわ。すっごい美人。しかも若い!あれ学生ですよね!」


 この街での狩りを諦めようとした男だったが、絶世の美少女が歩いていることに気がついてしまった。


「(ごくり)」


 思わず生唾を飲み込む。コートを着ているから体つきは分からないが、あの顔だけで十分に危険を犯す価値はある。


「(いやいや待て待て、あんな美少女ありえないだろ。ぜってぇ瀧女の生徒だ。手を出したらヤバイ。絶対ヤバイ。俺の勘がそう言ってる。サツに捕まるよりヤバイ)」


 天性の危機感により、男はその美少女をターゲットにすることを躊躇する。そもそも今日は日曜日。人が多いので街の女性のレベルを確認するのと、逃走手段を確認する視察だけの予定だ。いくら好みの女性を見つけたからと言って慌てて手を出したら捕まる可能性が高すぎる。どう考えても動くタイミングではない。


「やっちまいませんか?」

「いや……それは……」

「あんな美少女、もう二度と会えませんぜ。大丈夫ですって、いつものやり方で攫ってマワして脅しちまえば良いんですよ」


 馬鹿を言うな。それをやったら俺達は破滅だ。

 男はそう言いたかった。冷静な部分がそう言えと警告を鳴らしている。これまでそうやって欲望を我慢して来たから、捕まらずにやってこれた。今回も絶対にそうするべきだ。

 だが、その美少女はその冷静さを失わせるほどの獲物だった。人生をかけた博打をするのも当然だ。そう思える程の。


 結果、男は自らの欲望に負け、破滅を手繰り寄せることになる。


――――――――


「それじゃあ行ってきます」

「ああ、絶対しくじるなよ」

「はい!」


 大通りの近くにある路地裏。休日であっても誰も通らないその場所に、一台のワゴン車が停まっている。

 男は中に潜み、相方が戻ってくるのを待つ。この時間はいつも心臓がバクバクと早鐘を打つが、今回は今までの比では無い。文字通り命を懸けた勝負に出ているからだ。

 不安に思う心を抑えつけ、美少女の顔が涙で歪む姿を想像して気分を高める。


「成功です!連れてきました!」

「よし!」


 しばらくして相方が戻って来て運転席に乗り込む。車の後部から外を見ると、先ほどの美少女がフラフラと歩いて来るのが目に入る。


 相方の男のスキルは『誘導』

 人を指定の場所に移動させるスキルであるが、スキルレベルが低いこともあり成功率は高くない。スキルをかけても予定と違う道に誘導された時点で違和感に気付かれてしまう。だが相手が考え事をしているなどにより移動に集中出来ていない場合は成功しやすい。


 このスキルが無い頃は人通りの少ない場所を不用意に歩く女性を地道に探していた。今回は運良く、いや、運悪くその美少女にスキルが通用してしまったのだ。もしここで美少女を取り逃していれば、別の場所で新たな犠牲者が生まれ、男達の犯罪行為は止まらなかっただろう。


「あれ?ここはどこかしら?」


 美少女が車の近くまで来た時、男は扉を開けて襲い掛かった。


「きゃ」


 美少女は悲鳴をあげようとするが、男が腕を掴んだ瞬間にかき消される。


 男は『消音』スキルを持っていた。

 物体が発するあらゆる音をかき消すスキルだ。女性を攫う際に口を塞いで声が出ないようにしていたため付与されたのだろう。レベルが低いため対象に触れていなければ効果を発揮しないが、誰かを攫うという目的であればそれだけでも十分だ。


「(まずい、電柱を掴みやがった)」


 数秒で車に連れ込み逃げるつもりだったが、美少女は近くにあった細い電柱を空いた手で掴み抵抗する。車を停めるポジションの僅かなミス。美少女が相手で緊張していなければ犯さなかったミス。そして失敗の原因となった致命的なミス。


「(くそ、思ったより力が強い。さっさと離せよ!)」


 力任せに全力で美少女をひっぱると、ようやくつかんでいた腕が離れ、歓喜の笑みを浮かべる。だがその瞬間、聞きたくもない声が飛び込んでくる。


「何してるの!」


 まだ遠めなので顔をはっきりとは見られていない。こうなったら逃げる一択。だが、目の前のお宝をどうしても諦めきれない。あと少しで攫えるのだ。


「やべぇ、気付かれた。こいつ、早く来い!」


 だが美少女も最後の抵抗を見せる。


「その子を離せええええ!」


 結局、あと少しというところで男の野望は潰えた。流石に助けが来た状況で無理は出来ず、男は撤退を選択。


「出せ!」


 車に乗り込み、相方に指示を出してその場から離れた。


――――――


「チクショウ!あと少しだったのに!なんであいつあんなところにいるんだよ!」


 助手席でダッシュボードを強く蹴りながら男は悪態をついた。上手く行っていれば、今ごろ極上の女を好き勝手に出来たのだ。あまりの悔しさで顔を真っ赤にして怒っている。


「どっちに行きましょうか」

「どっちでも良い!今はなるべくあの街から遠いところに行くんだ!」


 怒っているのは単に作戦が失敗したからだけではない。瀧川女学院の生徒に手を出した自分達がこのまま簡単に見逃してもらえるとは思えず、その恐怖を怒りで誤魔化していたのだ。


「クソが!」


 ひときわ強くダッシュボードを蹴り上げるが、不安はどうしても消えてくれない。


 やがて車はどことも知らない山道に入った。時刻は夜、街灯もほとんど無く、周囲は森で視界が真っ暗だ。


「ここ何処だ?」

「何処でしょう?」

「ああ?なんだよ、何処かも分からず走ってたのか」

「少しでも先に進むことしか考えてなくて」

「しゃーねーか。チッ、腹減ったな。何かあったかかな」


 助手席の男は後部座席に食べ物でも無いか確認する。

 すると何故か突然車が停車した。


「何停めてんだよ。さっさと進んで次の街で飯を食うぞ」


 だが相方から反応は無く、車も再発車する気配が無い。仕方なく男は前を向く。


「なんだよ。まさかこの山道でガソリンが無くなったとか言わねぇ……だ……ろう……な」


 そこは行き止まりであった。

 そしてそこは夜の闇に包まれた山の中にも関わらず、多くの灯りが灯されていた。


「な、な、なんだよここは!」


 行き止まりの先の敷地は豪華な意匠が凝らされた巨大な鉄扉で封鎖されていた。扉は何故かライトアップされており、まるで予期せぬ闖入者である自分達に見せつけているかのようだ。


「おい、さっさと引き返すぞ。おい!」


 あまりのことに驚いたが行き止まりとなれば引き返して別の道を進むしかない。だが相方はそのそぶりを全く見せない。相方は何かを見て恐怖に震えている。


「何を見て……え?」


 ライトアップされていたのは扉だけでは無かった。その脇にある看板にも光が当たっていたのだ。そこに書かれていたのは衝撃的な名前であった。


『瀧川女学院』


 そこは自分達が必死で逃げようとしている相手の本拠地であった。


「な、ななな、なんでここに!?」


 あまりの衝撃で腰が抜けそうになる男に、さらなる追い打ちがかけられる。


 コンコン


「ひぃっ!?」


 助手席の窓を外から誰かが叩く音がするのだ。こんな場所で出会う人物と言えば瀧川女学院の関係者しかありえない。深夜にやってきた不審者への詰問、などと甘いことは考えられない。間違いなく自分達の罪を知り捕らえに来たはずだ。


「おい、馬鹿!早く発進しろ!はや……く……」


 運転席を見ると扉が開いていて、相方は銃を突き付けられ両手を挙げていた。そして自分の左側からガチャリと音がする。鍵がかかっているはずの扉が何故か開け放たれた。


「ようこそ、私の学園へ。くっくっくっ」

「(ぎゃああああああああ!)」


 そこに居たのは老婆だった。本来老婆というものはか弱い相手であり、成人男性であれば恐怖の対象とはなり得ないのだが、不思議と闇の中で出会うと恐ろしく感じるものである。

 ゆえに男は盛大な悲鳴をあげようとしたのだが、何故か声が出ない。いや、声は出しているが聞こえて来ない。まるで消音スキルを使われているかのように。


「おやおや、声が出ないのかい。これもあの子の影響かねぇ。助かるよ。こんな夜遅くに悲鳴なんぞあげられたら娘達が怖がっちまう」


 男は老婆の傍に居た何者かに強引に車を降ろされ、地面に雑に投げ出された。


「さあーて、あんたには聞きたいことが……特には無いからさっさと引き渡すとするかねぇ」

「よろしいのですか?」


 暗闇の中から、眼鏡をかけ高級スーツを着た男性が前に出る。


「よろしいもなにも、私らは忙しいんだよ。こんな小物に構っている暇は無いのさ。あんたの方で適当にやっといてくれ」

「承知致しました」

「(ひぃっ!)」


 スーツの男に睨まれただけで、男は失禁しそうになる。


「(全て告白しますから、命だけはお助け下さい!)」


 命乞いの言葉は音にならず届かない。


「連れて行け。全て終わったら処分は任せる」

「うっす」


 カタギとは思えない男共がわらわらとやってきて、地面に蹲る男を抱えてどこかへと連れ去って行く。


「(いやだああああああああ!助けてええええええええ!)」


 男の叫びは文字通り届かない。彼らが手にかけた女性の許しを請う言葉を無視したように。


「あんまりあーいうのは使わないようにしなさいよ」

「もちろん今回は特別です」


 銀行は一般的なイメージだとお金を預ける場所だと思われがちだが、本来は金貸しの商売だ。裏も表もある金貸しの世界。表のトップである人物が、裏とつながっていないことなどありえない。表と裏がWinーWinの関係になるようにバランスを保つことで世界の金融業界は成り立っている。


 男達は裏の中でも最も深い部分に連れてかれて『処分』されるのだろう。


「それにしてもこれが彼のスキルの力ですか。凄まじいですね」

「私もまさかあいつらがここに戻ってくるとは思ってもみなかったよ」


 何故、男達が瀧川女学院に来てしまったのか。何故、男の声が出なくなったのか。

 すべては奏の因果応報?スキルの効果によるものだ。誘導スキルを仕掛けた報いとして、瀧川女学院に誘導され、消音スキルを仕掛けた報いとして、声が消されたのだ。

 しかし今回は奏が直接犯人に何かをされたわけではない。スキルを使われたのは美月であり、奏はその点では無関係だ。

 奏はゲームセンターで美月と楽しく会話をしたことで、彼女に対する関係性が少しだけ深まった。ゆえに、因果応報?スキルの『スキル効果は、スキル所持者と縁が深い者にも及ぶ』の効果が発動した。


「縁が浅いと危害そのものは防いでくれないのかね。いや、縁が浅くても報いを与えてくれると考えるべきか。まだまだ調べる必要がありそうだわ」

「彼の力を欲しがる人は多いでしょうね」

「何をしようがあんたの勝手だが、利用するのはお勧めしないよ」

「もちろんです。彼は娘の恩人ですから。それに私としても彼の人柄は気に入っております」

「ふん、どうだかね」

「本当ですよ。銀行員は信頼が命です。彼に不利益な行為をするなどありえません」

「嘘くさいよ」

「私もそう思います」

『あっはっはっは』


 チンピラが消え、権力者達も笑い声と共に夜の闇に消えて行く。


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