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落花流水、掬うは散華 ―閑話集―  作者: ゆーちゃ


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3/15

豊玉発句集 (本編140話頃)

「おい、総司! 勝手に入って来るなと何度言ったらわかんだ!」


 勢いよく開かれた襖の方を見ることもなく半ば反射的に声を荒げるも、こいつは全く意に介さず無遠慮に部屋へ入って来る。


「土方さん、人と話をする時はせめて顔ぐらいみないと失礼ですよ〜」

「お前がそれを言うか」


 要望通りじろりと横目で睨んでやれば、怖いな〜、とわざとらしく肩を竦めながら文机の隣にある炬燵に入って来やがった。


「何の用だ?」


 俺は忙しいんだ、と付け加えてやるも、総司は炬燵を抱き込むように突っ伏しながら、顔だけを文机に向かう俺へ向ける。


「局長代理って大変そうだな〜と思って、様子を見に来たんです」

「どうせ見に来ただけで、手伝う気なんてさらさらねぇんだろう?」

「さすがは土方さん。よくわかってらっしゃる」

「邪魔だ」


 ため息とともに簡潔に告げてやれば、わかりました、と珍しく物わかりのいい返事があった。

 思わず総司の顔を見れば、まんべんの笑みが返ってくる。


「じゃ、少し離れるんで炬燵移動させますね」


 そうじゃねぇだろう。

 邪魔だから部屋から出ていけ、という意味だったことくらい、お前もわかっているだろうが。

 とりあえず……だ。


「勝手に移動させるんじゃねぇ」

「仕方ないですね~、そこまで言うならこのまま隣にいてあげます」

「あのなぁ……」

「照れなくていいのに、僕と土方さんの仲じゃないですか〜」

「今すぐ出てけ」


 ……ったく、刀を持つようになっても、こいつのこういうところは昔から変わらねぇな。

 危うくこぼしそうになる笑みを堪えれば、総司がにやにやしながら俺を見た。


「土方さんて、こう見えて意外と寂しがりやですしね」

「は?」

「だって、近藤さんも春くんも江戸に行っちゃってから、豊玉発句集の奪取という大義名分を掲げて、やたら僕の部屋に押しかけて来るじゃないですか〜」

「一ついいか。奪取じゃねぇ、奪還だ」

「いちいち細かいですね」

「うるせぇ。てめぇの部屋のどこかに隠してあるのはわかってんだ。とっとと返しやがれ!」


 アレがお前の手元にあるなんざ、嫌な予感しかしねぇんだよ!


「そんなに知りたいですか? 仕方ないから特別に教えてあげてもいいですよ」

「どこだ?」


 じっと見つめれば、総司はどこか大袈裟に呼吸を整えてから、ゆっくりと口を開いた。


「差し向かう 心は清き 水鏡」

「……おい」

「露のふる 先にの――」

「待てっ! 誰が句を言えと言った!?」

「嫌だな~、土方さんが知りたいって言ったんじゃないですか。三十路を越えると、ついさっき言ったことも忘れちゃうんですか~?」

「ちげぇだろうがっ!」

「年はとりたくないですね」


 そう言って、無邪気に見える邪気に満ちた笑顔を寄越しやがった。


 覚えてろよ。

 こうなったら、どんな手を使ってでも絶対に見つけ出して奪い返すまでだ!

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