表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/32

episode8 師弟②

二日ぶりの更新で申し訳ないです。

〇《 王国 迷宮都市 》レオ=アルブス


ギルドの中へ入れたからには話さずに帰す訳にもいかず、僕はギルドの中にある会議室でマルナと向き合って話していた。


「えっと…マータルさんだっけ」

「あ、マルナで大丈夫です」

「じゃあマルナさんは僕に弟子入り…『糸絡(しらく)』を僕と結びたいということでいいのかな?」

「はい、是非お願いします…!!」


 『糸絡』とは冒険者組合が設けている制度の一つで、冒険者同士で師弟関係を築くことだ。

 糸絡とは、糸が長く続くこと。

 冒険者には師弟のような縦の糸と、仲間や協力者のような横の糸が成功するための術として教えられている。

 僕はなんだかんだで縦横の糸を他の冒険者に較べて持っていない。極端に短いと言ってもいい。


 それは何故か。


 普通の人が冒険者を目指す、時、そのスタートは【迷宮都市】に来るところから始まる。

 【迷宮都市】で出会った者とパーティーを組み、先輩冒険者に色々教わって成長し、師匠を手に入れ、ギルドに入る。そうやって糸を縦横に広げていくのが普通なのだが…。


 僕の場合はパーティーメンバーは元からいたし、誰かに師事するほど弱かった訳では無い。

 ここに来た時点で僕達のほとんどが銀等級冒険者と同等の力を持っていたし、アークやココネは当時から金等級冒険者と張り合えるくらい強かった。

 それに、バダクは学園に入る前に父親に連れられて冒険者を二年半ほど経験していたため、事前知識があり、あとは攻略する過程で自ずと知識や知恵、経験は身に付いっていった。

 ギルドや、懇意にしてくれる人達のお陰で少なからず横の糸はあるにはあるが、それでも足りない。

 縦の糸を手に入れておくのも必要か…後継者を育てるのも冒険者の役目の一つだと言うし…。


「君を弟子にするのは僕としてはやぶさかではない…けど、僕は君を知らない。僕にマルナを見極める時間をくれないか?」

「は、はい!当然の判断だと思います!それで大丈夫です!」

「うん、それまでは仮の『糸絡』ってことでいいかな?」

「は、はい!」


 僕の提案に、笑顔を浮かべて頷くマルナ。


 『糸絡』は師匠…『親糸』の性格や趣味嗜好によって弟子…『子糸』にするかが決まる。

 それこそ見た目が気に入らないだとか、男じゃないだとか、等級が足りないで突っぱねられることが多々ある。

 僕も一応は五千人いる冒険者のうち、二百人しかいない金等級冒険者の一人だ。銅等級冒険者であり、女性のマルナを先程あげた理由で突っぱねてもおかしくはない。


 その事をマルナも理解していたのだろう。

 仮だとしても『糸絡』を結ぶということは、それらの理由では突っぱねないってことを意味している。

 後はマルナの人柄や冒険者としてのある程度の実力を僕が見るだけだ。


「それじゃあ二日後、上層に潜ってみよう。午前中にここに来てくれないか?午後から潜ろう」

「はい!」



 そして二日後。

 僕とマルナは二人で【迷宮】の上層、四階層に足を運んでいた。


「レオさん、今日はどこまで行く予定ですか?」

「この階層の奥に新しく《小鬼》の巣が見つかったらしい。そこを討伐しに行こう」

「分かりました」


 マルナのパーティーでの役割は僕に師事しただけあって『魔術師』。

 これまで固定パーティーは無く、野良のパーティーを渡り歩いて来たようだ。

 合う人がいなかったのか、そこは分からないが、今はあまり関係ない。


 僕が見たいのは『魔術師』としての『目』を持っているかどうか。

 その『目』を持っていなければ、僕が何を教えてもある程度の実力にしかならないだろう。

 どうせ後任を育てるのなら素質のある子を育てたい。


「今回は僕が前衛をやるから、マルナは後衛を。パーティーとは言えないけど、簡単なツーマンセルだね」


 【迷宮】で五階層までは敵は基本的に単体から数体の少数。《小鬼》や《犬鬼》のような、言うところの【迷宮】初心者向けの敵ばかり。

 階層自体も広いため、魔物との遭遇率も低い。

 だが、油断は出来ない。遭遇率が低いだけであって、今回のように巣に出向けば危険はある。


「小型の魔物接近確認。マルナ、僕は前衛の役目を果たすから、後衛の役目は全部任せたよ」

「は、はい!」


 僕は腰に携えたバスタードソードを抜剣する。

 刀身が赤黒く、長さは一メートルと少し。重さは二キロ半と言ったところか。ロングソードに比べるとやや重めだ。

 ギルドにあったのを適当に持ってきたのであまり手入れはされていないが、今日戦う分には問題ないだろう。


「《小鬼》…三。距離七十。剣二、弓一、まだこちらには気づいていない」


 【迷宮】の中は言わば複雑に入り組んだ洞窟だ。階層によって特色はあれど、上層は基本的に高さ四メートル、横十メートルの道が迷路のように繋がっている。

 そして何よりも明かりがない為、薄暗い。市販の魔術具を使うか、魔術を使って明かりを使わないと五メートル先すら見えない。


「余計な戦いは避けます。レオさん、やりすごしましょう…いいですか?」

「分かった、マルナの意見に従うよ」


 僕はマルナの言葉に従い、持っていた魔術具の明かりを消す。

 小さな脇道に身を隠し、《小鬼》が通り過ぎるまで気配を殺す。


 四階層ならば、どれだけマルナが判断ミスをしても僕がカバー出来る。例え単身丸裸で"小鬼"の群れに突っ込んだとしても、大丈夫だ。

 その為、僕はマルナの提案に是も否も言わない。今回のメインはマルナだ。僕は前衛としての最低限の仕事をするだけで、他は終始お任せだ。


「それにしても、レオさんは斥候的な役割も出来たんですね。七十メートル先の敵の存在を察知するのも凄いですが、種類や数、持ってる武器まで」

「下層だとこれでも遅い方だよ。下層だと七十メートルなんて敵の魔物の間合いの内側なこともあるからね。本来なら数百メートル前には気づいておきたいかな。僕は聞き分けは得意なんだけど、遠くの音を拾うのは苦手なんだ」


 《小鬼》をやり過ごした後、マルナが先程の敵の察知を褒めてくれる。

 謙遜…というか、僕の言ったことは事実だが、褒められて悪い気はしない。

 普段のような常軌を逸したものではなく、純粋な褒め言葉は僕も嬉しい。


「す、す、数百メートルですか…全然想像が付きません…」

「それは仕方の無いことだよ」


 金等級冒険者は常識が通用しない化け物ばかりだ。

 僕は金等級の中でも常識が通用するタイプだと思っているが、それでも昔の僕が知ったら正気を疑うようなことの一つや二つは出来る。


 冒険者の間では等級はどれだけ人間を辞めたかを表すものだと良く言われている。

 マルナのような銅等級だと、金等級や白銀、白金等級の冒険など噂で聞く程度だろうが、実際に本人から実態を聞くと噂よりも遥かに常識外れなことが多いだろう。

 それだけ、金等級以上は頭のおかしい連中が集まっているのだ。


「もうそろそろだよ」


 最初の"小鬼"と遭遇してから三時間ほど。一度の交戦と、数度のやり過ごしを経て僕とマルナは《小鬼》の巣の近くにやってきた。

 組合からの情報では巣の規模は二十から三十。この規模なら《小鬼》を統率する《中鬼》がいるだろう。


「レオさん、ここからは明かりを消しましょう。見張りに気づかれると厄介です」

「分かった」


 《小鬼》の巣と言っても【迷宮】の中にある小さな小部屋をいくつか占領し、穴を開けて繋げたり、入口を塞いだりして作ったもの。外の生き物の巣とはかなり勝手が違う。


「見張りは三。剣一、弓二だよ」

「マルナが魔術で弓を仕留めます。レオさんはマルナの魔術に合わせて剣の《小鬼》をお願いします」

「了解」


 《小鬼》はその名の通り小さな鬼。一メートルも満たない身長に、やせ細った身体。

 赤黒い肌と額に生えた角が特徴で、魔物の中でも弱い部類に入るが、狡猾な事で有名だ。

 冒険者から奪った剣や盾などの武具を加工して使い、罠などを自分たちで作ることも可能だ。そのため、通路で出会うよりも巣の中に突撃する方が難易度が高い。四階層とはいえ、銅等級が一パーティーフルで挑む程度の難易度だ。


「いきます…三、二……」


 マルナの合図に合わせて僕はバスタードソードを腰から抜剣し、低姿勢のまま目標の《小鬼》に向かって駆け出す。


『グキャァグギャ』


 僕に気がついて慌てて同じ見張りの弓をもだた《小鬼》二体に声を出して僕を指さす剣を持った《小鬼》。

 だが、僕を追い越して放たれた火の玉、マルナの魔術によって弓を持った《小鬼》が燃え、喉を焼かれて叫ぶことも出来ぬまま息絶えていく。


『グ……ァ…』


 剣を持った《小鬼》は次に助けを呼ぼうと後ろを向いて叫ぼうとしたところを僕はバスタードソードの切っ先で《小鬼》の喉を後ろから突く。

 声を出させないことが目的だ。これで殺せなくてもいい。

 僕はバスタードソードを手放すと、小鬼の頭を左手で掴み、壁に叩きつけて動きを封じる。

 そして、喉に刺さった剣を空いている右手で押し込み、完全に息の根を止める。


 敵襲に慣れている…?

 僕は見張りの《小鬼》の僕を見つけてからの一連の動作を見て違和感を覚えた。

 まだ発見されたばかりと聞いていたが、どうやら思っていたよりも長い間存在する巣のようだ。

 下の階へ続く階段から離れてるとはいえ、組合は銅等級や屑等級冒険者を雇って定期的に上層は細かいところまで巣の有無や、魔物の生息状況を確認する。

 別段見つかりにくい場所にあるわけでもないこの巣が長い間あるということは……。


 本来なら保険として引き返してココネかアークあたりを連れてきたいところだけど、仕方ないな。

 この状況を察しられるかどうかも、今回マルナを見るにあたって必要なことだ。余計な口出しはしないでおこう。


「このまま進みます。明かりは付けず、行きましょう」

「うん」


 僕は壁に刺さったバスタードソードを引き抜き、大きく振って血を払って鞘に剣を戻す。

 一応、《小鬼》の持っていた剣を拾い、マルナの後を付いて《小鬼》の巣に入る。


「……まずいな」

「レオさん、何かいいましたか?」

「いや、何でもない。突き当たりを右に曲がったもころ、多分小部屋に複数体いる。僕でも聞き分けできないから多分十から二十かな、金属が擦れる音がするから防具を付けてる可能性がある」

「分かりました。突き当たりまで進んだ後、音を遮断する魔術を部屋の中に使います。その後、マルナの範囲魔術で敵の大方を倒します。残りを各個撃破の流れでお願いします」


 僕はマルナの作戦に小さく頷くも、僕の意識は別にあった。

 地面に残された大きな足跡。《小鬼》の巣にしては広すぎる入口。

 僕の違和感は間違っていなかったようだ。

 ここには《中鬼》どころか、中層の、それも下層近くに生息する魔物…《大鬼》がいる可能性がある。


 勝てない相手では無い。余裕はある。

 だが、手加減出来る相手では無いのは確かだ。僕は警戒心を更に強めて少しずつ巣の中を歩く。


 四階層で《大鬼》だなんて運がない……日を改めようかな…けど、既に組合にはこの巣のことは知れ渡ってるし、屑等級や銅等級冒険者が僕が戻っている間に来たら全滅するだけだし……。


 あぁ…胃が痛い。


今話は『よいしょ』少なめです。

ですがこれは新たな『よいしょ』モンスターを生み出すための伏線…。

これ以上濃いキャラが増えると作者の胃が…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ