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episode32 混沌種⑥

《 四十二階層 大部屋 》レオ=アルブス


『カカッ、安心せい。マルナのバックにあるだけ持ってきたからのう、籠城戦も余裕じゃ』

「カナミさんの調合したお薬とか、食材とかいっぱいって来ました!」


 願っても無い援軍だ…!正直、僕だけで三体相手に十五分稼ぐのは結構賭けの要素が大きかった。

 だけど種族進化(・・・・)したツバキと、白銀等級のエレノアが来てくれたことで賭けの要素が消えた。

 十五分、絶対では無いけれど時間を稼ぐだけならいける。

 


「ツバキ!エレノア!悪いけど、すぐに動いてくれ!!マルナ、皆の応急処置を!全員、何か食べて少しでも血を作って回復して!寝れる人は十分でもいい、寝ておいて!」

「レオ。干し肉あげる」

「…カーディガンのポケットに直接干し肉入れるのはどうかと思うよ」


 素早く指示を送る僕にエレノアがカーディガンのポケットから取り出した干し肉を僕に投げる。

 僕はありがたさ半減で干し肉にかじり付き、懐に忍ばせてあった袋の中から小さな砂糖の塊を口の中に放る。

 保存目的の為塩漬けされた干し肉のなんとも言えないしょっぱさと、砂糖の甘いで口の中は大混乱だが、腹も満たされ、糖分のお陰で心無しか頭がクリアになる。


「僕が《竜》。ツバキは《闢》、エレノアはあの黒い影をお願い。時間稼ぎだから消耗は抑えめで」

『生憎と全力以外の言葉を知らぬ』

「多分、五分もせずにさいの目切りにされて終わる」

「頼もしい限りだよ…!」


 三体の『混沌種』に動きは無い。

 

 それもそうか…。僕達は餌であって、敵だと認識すらされていない。

 人の姿を持つ《大鬼》も、幻覚を見せる《幻魔士》も敵がいるから対抗する力を年月を掛けて身につけていった。

 だが、《竜》や《闢》…『混沌種』に天敵など存在しない。故に姿は何千年も前から変わらない。史実通り、何もかもが物語の挿絵で見る通りの姿だ。

 その姿こそが最強の証。最も完成された形。


 僕が見上げる先にはすっかり翼を再生させ、ゆったりと旋回する《竜》の姿。


「気に食わないな…」


 僕は七歳から負け知らず(・・・・・)。人も、巨人も、巨大生物も、ココネを狙うあらゆる物から守ってきた。

 自分が最強だなんて驕るつもりは無い。僕より強い人なんて五万といる。


 だけど、認識くらいはさせてやりたい。

 英雄として立ち上がったからには、ちっぽけな英雄なりの矜恃を見せよう。


 ───────()(そこ)に届くぞ。


道標(アルブス)としての役目を。〝  アリアドネの糸 〟」


 〝 アリアドネの糸〟。〝 穿て〟と同じく僕の魔力操作を使った小技の一つ。

 僕の魔力操作は不可視の技が大半を締めており、『役形補』もいらないので下手に何も言わずに使うと味方の混乱を招くため、分かりやすいように付けられた簡単に言えばスラング…いや、技名だろうか。


 この〝 アリアドネの糸〟は対象に糸を貼り付け、自分と結ぶことで対象を逃がさない為のマーキング的な役割を持たせる為に作った小技だが、これを使うと僕でも空中で戦える。


 〝 アリアドネの糸〟というよりは〝 追尾型蜘蛛の糸〟の方がいいかもしれない。

 対象、この場合だと《竜》と、地面を結び、足掛かりを作る。

 この糸は硬さは無いが、《闢》に使った糸よりも伸縮性に優れており、常に糸が軽く張った状態を保つ。僕が魔力に持たせるリソースのほとんどを伸縮性に使っていると言っていいほどだ。

 つまりこの糸はどれだけ伸びてもちぎれない。噛み付いても、剣で切ろうとしても一撃で切れることは無い。

 これを何十本と《竜》の体に貼り付け、大部屋を中心に空中に足場を作る。


「もう一度地に落としてやる…!」


 軽く張った魔力の糸の上を駆ける。

 "七星輪廻"で空中戦が出来るのはココネしかいない為、空中戦は僕も近接で戦闘する為、慣れたものだ。

 足元を見ずとも、自分の張った糸が手に取るように分かる。


『GRRYYYYYY』


 《竜》が身を翻し、空中を駆ける僕に長い尾を振るう。

 弧を描いて伸びるようにしなる尾の初動はそれほど速くは無い。だが、その尾が持つ質量と遠心力により、尾は爆発的に加速する。初動に合わせて動けば確実に見誤り、全身の骨が砕けて終わりだ。


 尾が狙うのは僕の体。殺すためではなく、叩き落とすことが前提とされた攻撃。

 今の僕はこれを大きく躱して避けるような持て余した体力は無い。


「軽くしか張ってないのは切れないようにする為だけじゃない…っと!」


 僕は糸の上で駆けながら軽く飛び、《竜》の尾が迫る寸前で糸を強く踏み締める。僕の足裏で強く押された伸縮性の高い糸はグググと下に押し込まれ、線だった糸が弧を描く。

 僕によって下へ引き伸ばされた糸は僕の体を下へと位置をズラし、僕の体を狙っていた尾が頭上を通り抜ける。

 そして伸縮性というのは、縮んだら伸び、伸びたら縮む性質の事を指す。

 当然僕の手によって伸びた糸は縮み、反動で僕を押し出す。


「疾ッ────!」


 僕は空中へと放り出される瞬間、前傾姿勢を保ち、糸を踏み締める。

 伸縮による加速。当然、地面を蹴って飛んだ訳では無いので体勢は滅茶苦茶だ。

 だが、それを持ち前の体幹で建て直し、腰の«対翼・黒式»を抜剣する。


 《竜》の横を通り抜け、体を半回転させて天井に着地した僕は、《竜》を見上げる。

 《竜》も僕を見上げ、視線が一瞬交わる。


「…フッ!」


 僕は天井を蹴り、《竜》に向かって下に飛ぶ。


 «対翼・黒式»の刃に魔力を纏わせる。

 大きく、広く、扇子のように魔力を操作する。


「もう一度落ちろ…!!」


 《竜》に扇子状の不可視の魔力を叩きつける。


『GRUuuuurrrrRRRR』


 落下する《竜》と僕。

 だが、僕の攻撃は終わらない。これくらいじゃ《竜》は落ちない。


「«錆輝»」


 «錆輝»は剣の形をしているが、剣としての役割を果たすことは出来ない。

 耐久性も不安が残り、切れ味はほぼ無い。

 だが、この短剣は切ることは出来なくても、《竜》の翼膜を破くことは出来る。


 僕の何十倍の体重がある《竜》は僕よりも速く落下する。

 だが、《竜》は体勢を立て直そうと空中で足掻き、翼で必死に高度を保とうとする。


 僕は目を閉じ、«錆輝»と«対翼・黒式»の刀身をかち合わせて閃光を生み出す。

 強い光では無いが、焦っている時ほどこういう小技が効く。


 《竜》は唐突な閃光に藻掻き苦しみ、空中でジタバタと尾や翼を乱雑に振り回す。


「お陰で追いついた」


 僕は《竜》の背中に降り立つと、翼膜を«錆輝»で無理矢理破いていく。


『rruaaaaaaaAAA!!』


 苦悶の声を上がる《竜》。体の制御を失ってそのまま落ちていく。

 僕は予め張っておいた糸に捕まり、落ちていく《竜》を見つめる。


 …手応えが無さすぎる。《竜》と相対するのは初めてだけど、ここまで弱いのか?

 いや、有り得ない。何かあるはずだ。じゃないと僕が気絶している間に、戦意喪失しているとはいえ、アーク達があんなに怪我を負うとは思えない。


 未来予知の魔術も使った様子も無い。何か制限が…?

 

 地を這う《竜》を見ながら観察する僕その視界が瞬間、ブレる。


「ガッ…!!」


 ブレた瞬間に咄嗟に軽装に仕組まれたギミックを展開させるが、展開と同時に体が吹き飛ばされる。


 重い…!どこからの攻撃だ、《闢》か…?それともあの影?


『GRRYYYYYY』


 目の前に迫る鉤爪。それは間違いなく《竜》のものだった。


「冗談だろッ…!?」


 先程展開したギミックはアーク()のギミック。

 自分を包むように殻状の超硬の膜を展開するギミックで、物理攻撃を得意とする下層の魔物相手でも五分間殴り続けてようやく傷が付くような盾が僕の目の前で砕ける。


 速い…これが《竜》の力…!


 僕の視界がブレたのは、おそらく《竜》が空中にいる僕目掛けて飛び、攻撃を加えたせいだろう。

 分析して今の現状を把握するのは簡単だ。だが、目で追えない超速に加えて自慢のギミックをたった二撃で砕く超攻撃。


 対処の仕方が思いつかない。

 目で追えない速度で迫られても、予備動作があれば対処は出来る。だが、先程の一撃目を受けた時、地上にいた《竜》が動く気配は無かった。


 狙い通りだが、《竜》は既に僕を敵として認識している。

 どうすると次の事を考えている間に次の攻撃が来るッ!


「生物の動きじゃない!」


 移動方向に体を向けずに気がつけば真横にいる。

 超速、超攻撃に加えて超機動も加わるなんて勘弁してくれ…!


 魔力の糸を百近く使ってようやく間一髪攻撃を避けているが、これもいつまで避けられるか分からない。


「…?」


 《竜》の攻撃をほとんど勘に近い形で避けていると、《竜》の動きが急に止まる。


 いや、考えている暇は無い。空中に張り巡らせた糸の位置が把握し始められている。この隙に張り直さないと…!


『GUuuuuuuuurrrrrr』


 再び動き出す《竜》。

 目で追えないアクロバットな機動に加え、すれ違いざまに放たれる攻撃、そしてこの『風』。

 糸が揺れて思うように動けない。


「クッ…!」

「レオさん!」


 僕の左腕を掠める鉤爪、すかさずマルナが僕目がけて回復薬を投擲してくれる。

 若干届かないが、僕は魔力の糸で回復薬を回収し、《竜》の攻撃を避ける。


「はぁ…はぁ…ふぅ……まただ」


 また暫くすると《竜》の動きが止まる。

 原因は分からないがこの隙に回復薬を使って傷を塞ぎ、糸の配置を変える。


 そうして数度のインターバルを迎え、遂にその時が来る。


「レオ!もう大丈夫だ、いける!!」

「了解、変わる…!」


 アークの合図と共に僕は少しずつ貯めておいた三角錐の魔力塊を叩きつけ、戦線離脱。


「ココネ、《竜》の超機動攻撃には時間制限があるみたいだ。二分から三分の間毎に十五秒くらい動きが止まる。狙うならそこだ。アギリ、ツバキと情報交換を頼む。そっちの指揮は全面的に任せたから」

「ありがとうレオくん」

「不甲斐ない姿を見せた。任せてくれ」


 体に金色のオーラを纏うココネと、女性へと性別を変えたアギリに指揮権を渡し、僕はエレノアと対峙する影へと向かう。


「エレノア」

「こいつ先読みが異常。攻撃が全部躱される。影を使った攻撃のせいで面倒」

「ありがとう。エレノアは僕と交代して《竜》をお願い」

「ん」


 影から大きく距離を取ったエレノアから素早く情報を貰い、交代する。


『&F"oQgvx@』


 鳴き声とも呼べない音を出す影と向き合う僕。


 人型で身長は百六十程。全身の輪郭がボヤけている…というよりは、影が細かく蠢き、全身から余剰な影がぽたぽたと地面に落ち、それをまた足裏から伸びる影が回収していく。

 エレノア曰く影を使った攻撃をしてくるということは、形状を自在に変化してくる。


 先読みして躱し、スピードで翻弄し、トリッキーな技で攻めてくるか…。

 あのエレノアがあそこまで言うということは、下手をすれば《竜》や《闢》よりも厄介かもしれない。


 だが、負ける訳にはいかない。

 全員で生きて帰る。絶対に。


「ふぅぅ……」


 肺の空気を入れ替え、全身のギアを入れ直し、頭をクリアに。


 全身の状態を把握、全身の魔力を手に集中させ、一秒後の戦いに備える。




 ───────そして最後の戦いの火蓋が切って落とされる。




 

クライマックスとは言ったものの、まだまだ戦闘が続きます。

タイトル詐欺とは言わないで…これが終わったらいっぱいよいしょがあるので…!

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