episode31 混沌種⑤
○《 四十二階層 大部屋 》レオ=アルブス
絶望が疑心に。
疑心が可能性に。
可能性が確かな希望に。
皆の瞳に光が灯る。
「英雄……鼓舞はもう大丈夫。十分貰った。それで作戦は…?」
「アギリ、君はまず寝てくれ。ココネ、全員に指示を回してくれ。僕が時間を稼ぐ」
まず、不可能を可能に。無に等しい可能性を有にする。
今の段階では倒す倒さないなんて言っていられない。その為にはまず、立て直す必要がある。
「アーク、アギリの事を頼む。いけるよね?」
「全身傷だらけ。傷が無い所が無ェ。体力はガス欠、視界も悪けりゃ、足元もフラつく。血も出しすぎて体が軽い……最低最悪…超絶死にかけだ馬鹿野郎」
「バダク」
「右に同じくベスト・コンディションです…指が千切れても戦いますよ」
「姉さん」
「問題無いよ。皆、死んでも生き返らせる」
「ノイン」
「尾籠な姿をお見せしました…。戴いたこの名に誓って必ず勝利を」
僕は本当に頼りになる仲間を持った。
安心して背中を任せられる。
「『我ら七星輪廻』」
「『道、勇、頼、武、知、平、護』」
「『これらを持ちて七星と呼ぶ』」
「『訣別あれど七星は輪の如く廻り、再び同地に集う』」
「『この言葉を持ちて輪廻とする』」
「『七つの輪が重なりし時』」
「『星は時を廻る』」
僕達は理由は違えど、昔の性や名を捨てた。
僕達は一度、死んだ。
そして輪廻の星に導かれた。
輪廻を司り、七つ星で一つのとなる七重星とも呼ばれる一等星。
『七星輪廻』。
僕達はその七つの星の色を元に付けられた名前を自分に名付けた。
そしてその星々はそれぞれ意味を持っている。
黒星アーテルは勇気を。
桃星ロセウスは信頼を。
赤星ルーフスは武力を。
青星カエルレウムは叡智を。
金星アウルムは平和を。
黄星フラーウムは守護を。
そして白星アルブスは道標を。
僕達は生まれも育ちも死に場所も違う。
だけど、今、この同じ場所、同じ時に集い、そして僕達が生まれた。
「まだ輪廻の時には早い」
☆
《 ─────── 》───────
レオの言葉により、力を取り戻した《グラディウス・ユースティティア》のメンバー達。
ココネを介して勝つ為の作戦が伝えられる。
空中を掌握する《竜》を"襲攻無敵"、"妖精の御伽噺"、"風雷白虎"の三パーティーに加え、主軸となるココネを加えた十八人。
地上の覇者たる《闢》を"黒百合の会"、"七星輪廻"の二パーティーにガルフ、サポーターを加え、ココネとレオが抜けた十七人。
未知数である人型の蠢く影をレオ=アルブス、一人で相手をする。
一番勝率の高い布陣。全員で生きて帰る為の作戦。
だが、それでも足りない。
人が、武器が、道具が、火力が、知恵が、環境が、何もかもが足りていない。
勝率は零から動かない。
あと一手。何かがあれば。
いや、一手あっても足りない。
レオ=アルブスという英雄の誕生。
ココネ=アーテルという勇者の覚醒。
これでもまだ足りない。
アギリ=カエルレウムの本気。
アーク=ルーフスの踏ん張り。
カナミ=ロセウスの奇跡。
バダク=アウルムの覚悟。
ノイン=フラーウムの尽力。
それでも足りない。
"襲攻無敵"の気合。
"風雷白虎"の決意。
"妖精の御伽噺"の根性。
"黒百合の会"の背水。
それでも足りない。
ガルフ=フェラリウスの技術。
サポーター達の努力。
それでも尚、足りない。
ここにいる全員がどれだけ足掻こうとも足りない。
可能性は零から動かない。
だが、彼らはまだ終わっていない。
そう───────
《グラディウス・ユースティティア》はまだ揃っていない。
『ようやく追いついたのう』
ちりん───
小さな鈴の音と掠れた下駄音。
腰まで伸びた濡羽色の髪。額には人差し指大の角を二本生やし、裳の短い十二単を着込んだ女性。
かつてレオに助け出された元《大鬼》。
ツバキ…又の名を《鬼王》。
「うぅ~目が回ります~…はっ!?えぇぇぇぇぇぇ!?いや、えぇぇぇぇぇぇ!?」
ツバキに担がれ、目を回す一人の少女。
急に目の焦点を合わせると目の前の驚天動地な光景に二度見ならぬ二度絶叫を見せる。
肩口で整えられた茶髪。シンプルな皮の鎧に黒のローブ。背中には大きな荷物を背負った少女…。
レオの弟子であり、銅等級冒険者。
マルナ=マータル。
「ふーん…面白そうね」
ツバキとマルナに続いて影の『混沌種』が現れた穴から姿を見せる女。
白銀の髪に、ハイライトの薄い赤い瞳。白のブラウスのに袖口の長い金の刺繍が施されたカーディガンを羽織り、黒のミニスカートというこの場に似つかわしく無いを服装を身にまとった女はその服装よりも目を引くものがあった。
太ももに刻まれた髑髏のタトュー。そして女の背に背負われた女の背丈と同等の異端なる死鎌。
【迷宮都市】の五千人の冒険者の内、三十三人しか存在しない白銀冒険者。
最後の正義の剣。"死神"エレノア=アルゲントゥム。
『カカッ、十三階層の毒臭騒ぎが組合から報告があってな、もしやと思って追いかけて来た結果…大正解だったみたいだのう』
アギリに色々と吹き込まれて口調がおかしくなったツバキがそれはもう愉快そうに笑う。
「えーっと、えーっと、どうしたらいいんですかね?」
「みじん切り…ペースト…決めた」
目の前の状況にてんてこ舞いのマルナに、目の前の敵をどう片付けるか品定めするエレノア。
零から一へ…
勝利の可能性が動く。
───────希望の光が指す
夏だ!祭りだ!クライマックスだ!全員集合!




