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episode23 冒険者の日常②

〇《 迷宮 二十八階層 》レオ=アルブス


 『内部依頼』の大半は需要の高い魔物の素材の回収だ。

 故に冒険者には自然と魔物の解体の技術が着いてくる。


「ごめんねレオちゃん、任せちゃって」

「いいよ。気にしなくて。解体作業はどうしても服が汚れちゃうし、結構力使うからね」


 僕は目の前の肉塊を手早く解体用のナイフで細かく切り刻んでいく。

 とは言っても僕も専門職では無い。皮と肉を分け、内蔵を取り出して血抜きをする程度のものだが、五年も冒険者をやっていればそれなりの腕にはなっている。


「でも…」

「…あれは例外だよ。姉さんは気にせず待っててくれていいから」


 何もしなくていいと言った僕に姉さんは申し訳無さそうにしながら、一人の少女を見つめて食い下がる。

 僕も姉さんの視線の先にいる少女を横目に、再度手を出さないよう促す。


(もろ)い。もう少し噛みごたえのあるモノがいい」

「《鎧穿山甲(アーマールジロ)》の外皮と比べたら大体は脆いですよー」


 僕達の視線の先にいる少女。

 "黒百合の会"のサブリーダーであり、伝説の戦闘部族の唯一の血を受け継ぐ者、アイア=デエマ。


 無造作に伸ばし、うなじの辺りで一つ結びにした一族特有の灰色の髪に、肉食獣を彷彿とさせるつり上がった紅の瞳。牙と言いたくなるような八重歯が特徴的だ。

 本人が防具を好まないため程よく引き締まった肢体を扇情的にさらけ出し、とても魅力的ではあるのだが、本人は外見に無頓着な為、欲を誘われることは無い。

 きちんとすればココネに負けないくらい美人だと思うんだけどな…。


 そして僕の二つ下の十八歳であり、年頃の女性のはずのアイア…なんというか、常識をあまり知らない。

 ココネ達もそうだが、アイアは特にだ。


 アイアは五歳の時、集落を滅ぼされてから一人で森の動物と暮らしていたそうで、十三歳の時に遠征の帰りにロゼリアが発見するまでの八年間を、常識とは程遠いとのろで生活をしていた。

 その後、ロゼリアと共に王国近衛第二大隊に所属するも、あそこもあそこで無法地帯。国の顔とされている第一大隊ではなく、戦場の顔とされている第二大隊に配属されたのがいけなかっただろう。


 そんな訳で彼女はなんというか…野性的だ。僕の倒した《鎧穿山甲》の堅い外皮を素手で引きちぎり、美味しくないとされている肉を皮ごと生でもきゅもきゅとハムスターのように食べている。

 可愛らしい表現をしたが、口の周りには生血がべっとりと着いており、慣れてなければ卒倒ものの光景だ。


「アイアは…悪い子じゃないんだけどね……手が出るのが早いのが玉に瑕だけど、ココネやバダクに比べたら全然だし、話通じないこともあるけど、バダクやアークに比べたら全然マシだし、頑張りすぎて空回りすることもあるけど、ノインや姉さんよりはマシだし…性格もアギリみたいに曲がってなくて真っ直ぐだし、あれ、普通の女の子だ」

「他人のいい所をいっぱい見つけられてレオちゃんは偉いわねー」


 僕の髪の間に指を差し込んで、いつもよりも丁寧に撫でる姉さん。

 僕はくすぐったくて目を細めるが、何も言わずにそれを受け入れる。


 アイアって実はそこら辺にいる村娘と変わらないような気がしてきた。

 最悪と呼ばれる下層の魔物を素手で引きちぎったり、血を見て不敵な笑みを浮かべたり、生肉をむしゃむしゃも食べることを除けば普通の女の子だ。


 うーん、僕もこの三年で皆のことをよく見てきたつもりだったけど、まだまだ知らないことや気づいてないことが多そうだ。

 皆のいいところを少しでも探れるよう頑張らないとな。


 こうして僕はパーティーメンバーの非常識さに磨きがかかったことで、周りの非常識な仲間たちが普通なのだと錯覚していった。

 気づいたのは数年後だったとか。なんとか。



〇《 迷宮 二十九階層 》レオ=アルブス


「ふふっ、まるで…恋仲の男女が定期的に買い物や観光、演劇や道化広場、美術館や演奏会などの娯楽施設を巡って『楽しい』という感情を共有し、外食もしくは手作り料理を食べることで胃袋を掴み、時には蒸留酒を片手に夜景を見てロマンティックな雰囲気にお酒と共に酔いしれながらお互いの距離を詰めて、時にはその…営み的なごにょごにょ……をして愛を深める行動のようだな」

「僕、こんな遠回しなデートな表現初めて聞いたよ」


 二十九階層に辿り着いた僕達《GU》は手分けして『内部依頼』を行っていた。

 二十九階層は別名『世界の花園』。希少で価値の高い植物が生息し、群生地が多く存在する。空には魔力の集合体が太陽の役割をしており、何故か雨も降る。まさしく完成された小さな世界の箱庭だ。

 『内部依頼』の採取系の依頼の半分が二十九階層の依頼だと過言では無いほどだ。


 当然僕達の『内部依頼』も、二十九階層の物が自然と集まっていた。数にすると五十近く。

 それらをギルド全員で集めていても時間がかかるだけなので、今はこうして二人から三人一組に別れて依頼を遂行している。


 僕の今回の相方は"黒百合の会"のロゼリアだ。


「その…私は幼少の頃から殿方と接する機会は少なくだな……あまり、そう言った事を素直に口にするのは恥ずかしいのだ」

「…?戦場だと男ばかりで女性の方が少ない気がするけど」

「いや、そういうことじゃないんだ。うん、いや、今更何も言うまい。身の置き所がない羞恥に駆られて含みのある言い方をする私が悪いのだ。マスターは何も悪くない、悪くないが、少々罪深いぞ」


 ロゼリアは僕の返答を聞くと一人でうんうんと、何度か頷くと最後にチラリとこちらをジトりとした視線を向けて自己完結したようだ。


 ロゼリアは元王国近衛第二大隊の副隊長。若干十歳で初めて戦場に立ち、それから五年以上の間、数多の戦で武勲を上げたことで"戦乙女"の二つ名を持つ彼女だが、今は色々とあって冒険者をしている。

 ロゼリアは覚えてないようだが、一度戦場で手合わせ…もとい、殺し合いをしたことがあるが、当時人の名前の顔を覚えるのを苦手としていた僕が名前を覚えていた数少ない人だ。

 結果は時間切れで勝敗付かずだったが、あの時は…僕が十歳でロゼリアが十三歳だから十年以上前の話だ。今戦ったら何も出来ずに負けそうだ。


「それにしても、うん、中々乙なものだな。恋仲の男女が定期的に買い物や観光、演劇や道化広場、美術館や演奏会などの娯楽施設を巡って『楽しい』という感情を共有し、外食もしくは手作り料理を食べることで胃袋を掴み、時には蒸留酒を片手に夜景を見てロマンティックな雰囲気にお酒と共に酔いしれながらお互いの距離を詰めて、時にはその…営み的なごにょごにょ……をして愛を深める行動も」

「普通にデートでいいと思うんだけどな…それにしても一言一句間違えずによく覚えてたね」

「それはもちろん、マスターと…その…でぇーと……に行くことを想定して色々と計画を立てて妄想していたからな、知識としては豊富なのだ。それはもう賢人の如く」


 ロゼリアは少し早足に駆け出して僕の前に立つと、そう口早に告げ、清々しいほどのドヤ顔を浮かべ、腰に手を当てて胸を張る。


 ロゼリアは美人だ。"戦乙女"の二つ名も彼女の優れた容姿があってこその二つ名だ。

 太陽の光を受けて美しく輝く白金色の髪を大きな黒のリボンで一つに纏め、キリリとした宝石をそのまま埋め込んだのではと言いたくなるような綺麗な緋色の瞳。

 静隠な顔立ちと、全身から漂う気品と武人たる荒々しさを兼ね備えた上で本人の芸術的とも言えるプロポーション。

 紛うことなき美人であり、バダクのように芸術と断言出来ない人間味もまた身近に感じやすい。


 そんな人と幻想的とも言える色とりどりの花が咲き誇る場所で談笑しながら歩く。

 これはデートと言ってもいいだろうか。いや、駄目だな。

 僕の知っているデートはこんなのではない。


『GDEEE』

『JAJaaaaaa!!』

『Wwwwwyyyyy!!!』


 僕の知っているデートはこんな人ほどの大きさの虫に囲まれてするようなものじゃない。


 当然ながらここに生息する花たちも生きていかなければならない。最初から材料として生まれてくるわけではないのだから。


 ここに生息する花たちは蜜を提供する代わりに多くの虫型の魔物を従えている。

 その種類はざっと数百種。どれも小型犬から人の数倍ほど大きいもので、正直、嫌悪感が隠せない。

 小さいのならまだいいが、ギョロギョロとした目や、不規則に曲がった関節、びっしりと生えた毛や、よく分からない部位の集合体が細部まで見えるのは耐え難いものだ。


 そんな状況でデートだなんて僕は口が裂けても言えない。


「ふむ、《傀儡蟲》に《蜂烏》、《禍蛾》とは珍しいな」

「どうしようか」

「私が引き受けよう。マスターは少々、こういった魔物を苦手にしているだろ?」

「まあ、戦いにくいというよりは生理的にって感じだけど…ここは素直にお願いするよ」

「承った」


 ロゼリアは腰に携えた細剣を抜剣すると、きっかり三振りでそれぞれ突撃してくる魔物を真っ二つに斬り裂く。


「よし、ようやく慣れてきたからな。マスター、でぇーとの続きと行こう」


 桜色の薄い唇を緩め、絵画のような美しい笑みを浮かべてこちらに手を差し伸べるロゼリア。

 思わず、見惚れてしまいそうになるが、一拍置いて斬られた虫型の魔物の緑色のネバネバした血液がロゼリアの頭に降り注ぐ。


「……」

「どうしたマスター?」


 確かに魔物との連戦では体中が魔物と自分の血、土埃と煤汚れで全身が汚れることがあるし、ロゼリアは生粋の武人だ。戦途中に返り血を気にするようなこ細い神経は持ち合わせていない。


 だけど、あまり生理的に受け付けたくない魔物の、ドロドロとした緑の血を浴びた状態で『デートの続きをしよう』なんて微笑み返せるほど僕の肝っ玉は座っていないし、正直無理だ。


「ほら、早くしないと集合に間に合わなくなるぞ」


 顔面蒼白の僕の手を無理矢理取って歩き出すロゼリア。

 ロゼリアの体を伝って僕の手に魔物の血液が絡みつく。


「うっ……」


 冒険者という立場でこういうことを言うのは無粋なのだろうが、もう少し気にして欲しい。


 はぁ…胃が痛い。

総pv10000、総合評価100ptを越えました。皆様の応援のおかげで頑張れます。ありがとうございます。これからも『僕よい』をよろしくお願いします。

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