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episode22 冒険者の日常①

○《 迷宮 二十二階層 》レオ=アルブス


 姉さんの調合した解毒剤によって僕の体が万全になった二日後。

 僕達《GU》は二十二階層を訪れていた。


 二十二階層は湿地帯のような造りになっている。

 冠水しているため、足元が不安定で、足音を殺すことが難しい。

 マングローブと違って木々が生い茂って無い為、身を隠す場所が少なく、敵との遭遇率が高い。

 そして冠水している場所は浅深は様々。つまり天地水、全ての場所から魔物の奇襲を警戒しなければならない。


 そして何よりも広い。現在攻略されている階層の中でも五番目に広いこの階層は、一番冒険者の死亡率が高い。

 他にも下の階層へ繋がる階段が遠い、生息する魔物が他の階層と違って特殊など色々な条件が揃ったこの階層は『邪神の悪笑(ティニーゼ)』と呼ばれている。


「上、《雷鷲》、数四!」

「アギリ支援!マックス、ソヌス、ココネで迎撃。リミット三十六秒。開始──!」

「「「了解」」」

「追加、《土鼠》、七!」

「ロゼリア、パーティー総動!リミット十二秒。開始!」


 取り付く島が無いとはまさにこのこと。

 僕達にとってこの階層の魔物はさほど脅威でなくとも、こうひっきりなしに襲いかかられると、落ち着く事もままならない。


「正面、追加!《緑狐》、十八!」

「アーク!!八秒だけ耐えて!マーロン達、標的変更!アークの援護に回って!!バダク、《水土竜》に牽制…!姉さん、対象は任せるから回復を!支援班、タマルを総支援!タマル、《水土竜》を二十秒引き付けて!」


 目まぐるしく変わる戦況に、僕は指示を飛ばしていく。


 パーティーでの僕の役割は司令塔兼、魔術師だが、この規模の攻略になると役割が少し変わってくる。

 大規模攻略の今、司令塔なのは変わらないが、魔術師として戦うことは難しい。

 これだけ人と魔物が入り交じっている中で、前線で指示を飛ばすのは不可能に近い。

 せいぜい後ろから魔力の糸で魔物を味方の攻撃の射線に誘導したり、逆に魔物の攻撃の射線から外したりと裏方に回るのが精一杯だ。


 だが、まだここは中層。

 これから待ち受ける下層とは文字通り次元が違う。


 今は下層に向けて動きの確認と、皆の気を引き締めるために敢えて敵に見つかりやすいように行動している。

 他にも数ヶ月ぶりの攻略のため感覚を取り戻させたり、『内部依頼』だったりと他にも思惑はあるが…


 一番はストレスの発散だろうか……。


「ハッ!!空中戦なら俺っちの独壇場(ワンマンステージ)!おらおらおら!派手に行くぜェェェ!!」


 体に高出力の雷を纏う(わし)、その名の通りだが《雷鷲》を相手にソヌスが自慢の漆黒の翼(・・・・・・・)を羽ばたかせて、柄が鎖で繋がれた双剣を意気揚々と振るうソヌス。


「ハッハー!俺っち、天下無敵の最強男!ちょーイケイケ!唯我独尊的な!!?」


 迷宮(ここ)に来てから何かとココネの顔色伺って過ごしてたから相当溜まってるんだろうな…。

 普段は本当に自分中心で世界を回して生活しているような人だし…。

 

「ソヌスくん、邪魔だよ」

「うべぇっ!?」

「ソヌスさん、すみません!」

「ぐはっっ!!?」


 だが、それを許さないのがココネとマックス。


 ココネは魔術具である«天駆の革靴»で魔力を使って任意の場所に空気の壁を作り出すことが出来る。

 その名の通り天を駆けて空を駆け上がり、ついでにソヌスの背中を蹴って両手剣で《雷鷲》の二メートル近い体を真っ二つに切り裂く。


 そしてココネの作り上げた空気の壁を後を追って登り、ついでに上から落ちてきたソヌスの腹を蹴ってもう一体の《雷鷲》を長剣で仕留めるマックス。


「仲良いなぁ」

「マスタァァァ!!やばい、やばいよ!!《鎧穿山甲(アーマールジロ)》の群れが!!」

「そういえば、『内部依頼』に討伐依頼があったっけ、ノイン?」

「はい、『魔集暴走(スタンピード)』が目撃されているため、討伐依頼が出されていました。ですが、見つけるのに時間がかかると思ったので依頼は受けていません」

「まあ、ついでかな…依頼受ける人には悪いけど、避けて通った方が時間かかるしね」


 《鎧穿山甲》は背面が堅い鱗状の板で覆われた一メートルほどの魔物。

 一番の特徴とも言える外皮は金属を弾き、魔術の干渉を受け付けにくい。

 その上、素材が加工しにくく、肉も不味い。


 ありたいていに言うと狩るだけ無駄の魔物だ。


「アギリ、僕は《鎧穿山甲》の群れを仕留めてくるから、その間の指揮は任せるよ」

「承った。存分に暴れてるくといい」


 僕はアギリに司令塔を譲ると、地平線の向こうから土埃を巻き上げ、地鳴りを立てて、転がってくる《鎧穿山甲》の群れ。

 その数、約五十。


「壮観だなぁ…」


 その魔物の群れを見て僕はそう呟くと、魔力の糸を前方に展開し始める。


 『魔集暴走』はその名の通り魔物が集まって暴走すること。

 大体は同一個体が二十から三十集まって一斉に突進してくるので、パーティー規模での対応は難しいとされている。


 五十を越える『魔集暴走』は僕も冒険者になってまだ片手で数えられるほどしか見ていない。

 弾幕とも言えるその突進は、恐ろしいという言葉よりも先に壮観と言葉が出るほど、圧倒的な光景だ。


「僕もバタバタしていてあまり戦闘勘を取り戻せなかったし、下層に降りる前には丁度いいかな」


 とは言っても、あのメンバーだ。僕が前線に出ることは無いだろう。

 念の為と、僕もここ最近の激務で体が訛っている。

 少しでも体を慣らしておいて損は無い。


 そんな事を考えていると、《鎧穿山甲》と僕の距離は百メートルを切っている。


「疾ッ──!!」


 僕は迎え撃つために足場の悪い湿地帯を駆ける。

 魔力の糸で最前列の《鎧穿山甲》を絡め取り、動きを封じると同時に後列にぶつけて全体の勢いを殺す。


 僕はバッカスとの戦いでも使った黒色…正確には濡羽(ねれば)色の刀身の短剣、《対翼・黒式》を抜剣し、切っ先を一番最前列の《鎧穿山甲》に向ける。


『GRRYYYYYY!!』


 唸り声を上げて突撃してくる《鎧穿山甲》をその場で回転するように避け、すれ違い様に《対翼・黒式》を叩き込む。

 刃が通る瞬間、僅かな抵抗を感じるが、すぐに肉と骨を断つ鈍い感触が手に伝わる。

 この《対翼・黒式》は下層の魔物と鉱物の混合刃。いくら硬くとも中層の魔物の外皮はおろか、骨すらも容易く切り裂く。


 一撃で沈んだ《鎧穿山甲》を横目に、僕は魔力の糸でツバキとの戦いで《中鬼》に対して使った高速回転する三角錐の魔力の塊を瞬時に五つ作り上げ、目の前に迫る《鎧穿山甲》に放つ。


「まあ、こんなものかな…」


 次々と動きを止める《鎧穿山甲》に少し物足りなさを感じながら僕は小さく呟く。


 中層もまだ始まったばかり。二十五階層の魔物までならば一撃一殺が僕でも出来る。

 本当ならもう少し骨のある相手と戦って慣らしたかったのが本音だが、今まで他事で疎かにしていた僕が全面的に悪い。

 今は少しでも慣らすために色々と試すとしよう。



《 迷宮 二十二階層 》アーク=ルーフス


「凄まじい…な」

「あれでギルド最弱名乗ってるって相当ですよね」

「そうだな」


 俺が思わず口から漏らした言葉にこちらを見て引きつつった笑みを浮かべて律儀に反応を見せるマーロン。

 俺も思わず頬が緩み、笑みを返す。


 二十二階層の戦闘は一段落付き、今は五十を越える《鎧穿山甲(アーマールジロ)》の相手をしているレオの戦いを皆で見守っている。


「どんな体勢からでも立て直すことが可能な強靭な体幹」

「上から見てるんじゃないかと疑いたくなる視野の広さ」

「一瞬の迷いのない状況判断能力」

「超貫通力を持った不可視の一撃」

「繊細な魔力操作」

「無尽蔵に近い凄まじい体力」

「どれを上げても一級品ですねぇ…信じられます?私たちに指示を飛ばしながら、百本近い魔力の糸操って私たちのサポートしてるんですよ」

「個人戦闘では二百五十だったか?どんな並行思考能力と、情報処理能力を持ったらできる芸当なんだか…惚れ惚れするね」


 皆もレオの戦闘を見て、その規格外さに複雑な感情が混ざった笑みとため息をこぼす。

 それほどまでに俺たちのマスター、レオ=アルブスという男は特別だ。

 俺が今まで見た誰よりも強く、美しく、格好いい。


 他の冒険者のように目を見張る派手さが無く、淡々と敵を倒していくレオを見て多くの者は地味などと言うが、それは間違っている。


 派手じゃないということは、動きに無駄が無いということ。

 淡々と敵を倒すということは、勝ち筋が見えているということ。

 地味ということは、それだけ洗練されてい証拠だ。


「追いつける未来が見えねぇな…」

「おや、アークが弱音を吐くとは珍しい。あれは英雄の力の片鱗。それは君も理解しているはずだろ?」

「アギリ……理解してるさ。俺が全力を出してようやくその片鱗と互角な事に頭を抱えてんだよ」

「なるほど。確かにそうだ。ボク達の中に英雄の全力を引き出せる相手は現状いないからね」

「事実だが、腹立つ言い方だな」


 俺の発言を憎たらしく拾って、煽りを噛ましてくるアギリに俺は一発、拳を頭に落とす。


「いてっ!?もうっ、女の子には優しくしないといけないんだゾ」

「なんだその気持ち悪いの」

「英雄の好みの女性を探ろうと、色々と口調を探っってるんだけど中々上手くいかなくてね。昨日の夜はそっと胃薬を渡されたよ」

「お前もお前だけど、不調の原因が全部胃から来ると思ってるレオもレオだな」


 互いに小さく笑みを浮かべる俺とアギリ。

 どうやらレオの戦闘も終わるらしく、携帯食や水筒をサポーターに預けて各自次の準備に移り始める。


「ふぅ…そっちも無事に終わったみたいで良かったよ」

「お疲れ様、レオくん。はいお水」

「ありがとう」

「レオ様、体をお拭き致します。ついでにお着替えの方も。脇腹に傷がありますね。カナミ様、手当をお願いします」

「はーい、レオちゃん痛くない?我慢できて偉いわねー」

「凄まじい戦いぶりでした。獅子奮迅の戦いとはこのこと。やはりレオさんは世界最強ですね」

「《鎧穿山甲》の群れを前に一人で戦う英雄の姿は数年前、一人の少女を守るために三千の敵の前に立ち塞がった『不倒にして不屈にして不滅の名も無き英雄』を彷彿とさせる…と」

「懐かしいね、それ」

「え?」


 戻ってきたレオを囲み、パーティーの皆が口々にレオを褒め称える。


「う、うーん、皆、大袈裟だな。あとノイン、皆に見えてないくらい早業とは言え、こう、外で着替えさせるのは遠慮して欲しいかな」


 皆の反応に頬を掻き、困ったような表情を浮かべるレオ。


 レオは俺たちがレオを褒めることを大袈裟だとか、盛りすぎだとか、常軌を逸しているなどと言うが、俺たちがレオを無闇矢鱈に持ち上げる訳がない。

 レオは謙遜が過ぎる。それがレオの美徳でもあるが、少々度が過ぎているように思える。


 レオは実際、誰よりも強く、誰よりも気高い。

 その事にパーティーの皆は愚か、レオと関わった人ならば皆が感じるものだ。


「流石だな。物足りないなら片手だけで相手すれば良かったんじゃないか?」

「アーク、流石にそれは無理だよ…」


 今日一困った顔を浮かべたレオは、手に持っていた短剣を腰に戻すと、軽く伸びをする。その後、少し悩むような仕草を見せると…


「うん、まあ、今度試してみようかな」

「私的にはそれを試す時点でちょっとおかしい気がしないでもないですけどね」

「そうかな?」

「まあ、あの規模の群れなんてそうそう来ねーよ、俺っちもここ来て長いけど、三回に一回くらいしか見ないし。まあ、派手なのはいいこどだけどよぉ!優雅さに欠けるんだよ」


 瞬間、ソヌスの発言に周囲が凍りついた。


 三回に一回…?


「皆さんがご想像の通り、うちのソヌスリーダーは超が着くほど運がないため…その…」

「皆まで言うな、もう分かる。そしてこの後の結末もな」

「マスタァァァァ!!全方向から『魔集暴走』が!!!」


 この後、ソヌスが全員から避難の目を浴び、半殺しにされたのは言うまでもない。


 

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