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episode21 毒

○《 十三階層 ベースキャンプ》レオ=アルブス


「『虹花草』か…」


 僕は姉さんにお礼を言って膝から離れ、腕を組んで考え込む。

 解決策は無くには無いが…。


 『虹花草』は下層に生息する小さな花を咲かせる植物だ。

 その名の通り虹色で、キラキラと光を反射する様は見る者の目を惹き付ける。

 今回、僕の毒を解毒するのに必要なのはその『虹花草』の根。

 幸いにも『虹花草』は三十九階層に群生地があるため、採取は困難ではない。

 今、困難なのは下層に行くこと。


 下層まで最短で一週間。

 これは『内部依頼』を進めながら進んだ場合の時間。

 『内部』依頼の多くは下の階層に続く階段から階段への道から外れた場所にある魔物の巣の掃討や、遭遇率の低い魔物の素材が主になっている。

 これらを全て無視をすればどうにか三日で辿り着けなくは無いと言ったところ。

 だが、三日後に死ぬのに三日後に着いては意味が無い。姉さんに調合して貰うためにも遅くとも二日と半日で下層に到着しておきたい。


「どうするべきか…単独では危険性があるし、大人数じゃ時間制限に間に合わない。パーティーだけで行けば余裕で間に合うとは思うけど、皆に迷惑が……」

「レオちゃんは他人を思いやれて偉いわね~」


 そう言って僕の横に腰を下ろした姉さんが僕の頭を優しく撫でる。


 うーん…パーティーの皆にも面倒はかけられない。でも結局は姉さんには同伴して貰わないといけないし…。


 それにしても姉さんの解毒魔術や遡行魔術でも効かない毒ってなんなんだ…。

 身体能力、思考能力の低下は見られない。体に違和感は無く、頭がぼうとすることも無い。

 僕個人として毒を感じられる様子は無いが、姉さんの診断に間違いは絶対に無い。姉さんが毒だと言うのなら毒なんだろう。

 僕は、姉さんの見る目は絶対の信頼を置いている。

 怪我の耐えない僕『達』のために幼く、血を見るのも怖かったのに回復魔術と、人体について学んでくれた姉さんを疑う方が無理な話だ。


 後で念の為に誰かと軽く模擬戦でもして確かめるか…。


「どうしたの?」 

「何でもないよ。明日どうしようかなって…」

「レオちゃんの思うようにすればいいと思うよ」

「うん…」


 周りの騒がしい声を聞き、悩む僕。


 結局答えを出せぬまま夜は更けていった。



○《 十三階層 ベースキャンプ 》マックス=ザウラク


「マックス、お疲れ様」

「ありがとうございます。レオさんは寝ないんですか?」

「ちょっと寝付けなくてね」


 攻略一日目が終わり、今夜の夜番をしていた俺にレオさんは温かい紅茶を入れたマグカップを差し出し、切り株に腰を下ろす。


 今日は壮絶な一日だった。

 主に"黒百合の会"とソヌスのせいだが、初日から慌ただしく、取り付く島も無かった。


 それを含めてレオさんの様子が少しおかしい。


 正確にはレオさんがカナミさんの膝枕で目を覚ましてから。

 カナミさんの膝枕…は正直羨ましいが、今はいい。


 いつもなら皆が楽しめるようにと色々と動くレオさんが夕飯の時に動かなった。

 最初は気を失ったことで体調が優れないのかとおもっていたが、途中、レオさんが体の様子を確かめるようにココネさんと模擬戦を軽くしているところを見ると問題無さそうに見えた。

 それを見てアークさんが悔しそうにしていたが、まあ、いつもの光景だろう。


 最終的には《GU》のメンバーのほとんどがレオさんの違和感に気づいていたんじゃないだろうか。

 皆、レオさんの考え込む姿に一抹の不安を覚えたが、それを隠すためにいつも通りに振る舞うことに徹した。


 体調不良で無ければ、今回の小さな事件の処置を考えていたのだろうか。

 そう思ったが、ギルド(ここ)じゃこれくらいは多々あることだ。日常茶飯事と言ってもいい。

 今更、咎めたりはしないだろう。


 じゃあ何故か……。どれだけ考えても分からない。

 俺はレオさんに多大な恩がある。

 少しでもレオさんの役に立ちたいが、俺程度がレオさんの考えを汲み取ろうとするのが烏滸(おこ)がましく、哀れで無意味な行為なのだろう。


 前にバダクさんが言っていたが、レオさんの考えは人知の遥か高みにあり、俺たち地上の民には理解できないと言っていた。

 パーティーメンバーで、付き合いの長いバダクさんが言うのなら間違いないだろう。


 だとしても、レオさんがここまで考え込むということはそれだけ大事な事があるということだ。

 少しでも役に立てるよう頑張ろう。


「レオさん!」

「え、え、うん、どうかした?」

「俺、頑張ります!レオさんのお役に立てるように!この命に変えても、絶対!!」

「あ、ありがとう。けど、もう皆寝てるから静かにね?」


 俺はこの胸の奥から込み上げるこの熱い思いをレオさんにそのまま伝える。


 この人は間違いなく歴史に名を残す偉人となる人だ。

 アギリさん程では無いものの、俺もレオさんの傍で活躍を支えたギルドの一人として名を残したい。



《 十三階層 ベースキャンプ 》レオ=アルブス


「マックス、お疲れ様」

「ありがとうございます。レオさんは寝ないんですか?」

「ちょっと寝付けなくてね」


 この体の事を考えると中々寝付けず、僕は夜番ををしていたマックスに紅茶の差し入れをする。


 マックスは"風雷白虎"のリーダーをしている僕の二つ上の爽やかな青年だ。

 少し癖のある青紫色の髪に、真っ直ぐとこちらを見据える同色の瞳。

 身長は僕より少し上で、服の上からでも鍛えれていることが分かる。

 アークが益荒男、バダクを美丈夫と表すのならマックスは快男児と言ったところだろうか。

 話していて気持ちが良く、気疲れしない。真っ直ぐで誠実なそんな人だ。


 少し思い込みの癖が強い所もあるが…。


 そんな事を考えていると、マックスは僕の差し入れした紅茶を飲みながら静かに夜番を続けている。


 元より僕も少し夜風に当たれば少しは何か思いつくかなという考えで天幕から出てきたので、ありがたく色々と考えさせてもらうことにした。


 ………。


 僕はこの問題の正解の出し方を知らない。

 経験が無い。普通の人が通る『頼る』という方法を僕は通ってこなかった。

 いや、避けて通ってきた。避けさせられてきた。


 マスターとして、リーダーとして、レオ=アルブスとして必要な事は頼ってきた。

 お願いもしたし、命令も下した。


 だが、『僕』は、僕自身は他人を頼ったことがない。


 今回のはマスターでも、リーダーでも、レオ=アルブスの問題でも無い。僕の問題だ。

 どこまでも私的な僕個人の問題だ。


 姉さんは自分から同行してくれる意志を示し、僕はそれを許可しているだけ。頼るとはまた別だ。


 僕もそろそろ一歩踏み出すべきなのだろうか…。


「レオさん!」

「え、え、うん、どうかした?」


 急に大声を出して立ち上がるマックスに、考え事をしていた僕は驚いて声が上ずってしまう。


「俺、頑張ります!レオさんのお役に立てるように!この命に変えても、絶対!!」

「あ、ありがとう。けど、もう皆寝てるから静かにね?」


 僕の手を握って熱弁するマックスに、やや引き気味の感情を隠せない僕。

 彼は夜番の間に何を考えて、何を思ってこの行動に移ったのか。

 やはり思い込みが強いのが原因か…?などと考えているとマックスは満足したように夜番に戻る。


 本当になんだったのだろうか…。引くというより、少し怖い。

 なんだか昔のバタクを見ているようで、そのうちあぁなるのだろうか。

 僕はチラリと近くの木の影に隠れるバタクを見る。


「はぁ…はぁ…おぉ、神よ!あぁ!!素晴らしい!!出来ることならばあの神妙な面持ちを氷漬けにして飾っておきたいものです…!」


 隠れる気があるのかどうかは分からないが、荒い息と大声で危ない事を口走っている。

 時々バダクが僕を崇めているのか、殺そうとしているのか分からない。


 僕はこれ以上悩んでも仕方ないと、一度毒の事を忘れてバダクを連れて天幕へ戻る。

 あまり煩いと皆が起きるので口を塞いでおいた。恍惚とした表情を浮かべていたのは気の所為だと信じたい。



 翌日談。


「あのね…レオちゃん、言い難いんだけど……下層に行かなくても地上に戻って買った方がいいんじゃないかなって…お姉ちゃん思うんだど……どうかな?」


 そんな簡単な事を思いつかず、夜風に当たりながら一歩踏み出そうと決意しようとしていた自分が恥ずかしくなり、レオは逃げるように地上へと走り去っていった。

これからレオ以外の視点が少しずつ増えていくと思います。

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