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episode19 女子力下限五人衆②

誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー、文章ストーリー評価等いただけると幸いです。

○《 迷宮 上層 十一階層 》レオ=アルブス


「見つけた…!」


 報せを受けてから十分。僕とココネは十二階層に続く階段の前で睨み合ってる"襲攻無敵"と"妖精の御伽噺"を見つけた。


「そこを退け…!」

「ハッ!俺っち達はクレイジーで狂気的なアイツらの心意気を押すぜぇ…!派手派手でかっくいーじゃないの…だからここは通さないぜマーロンの旦那ァ!」

「俺は誰も死なせたくない…!」

「例え俺っちは死んだとしても悔いはねぇ!派手に死んでやろうじゃないの…!!」


 睨み合うマーロンと、"妖精の御伽噺"のリーダーソヌス。

 二人はまさに一触即発。

 互いに覚悟の決まった瞳をしており、もしここが物語の本ならば最終対決一歩手前と言ったところか…。


 だが、今の話は最終対決どころか女の子五人が料理を作っているだけである。


 もう一度言おう。料理をしているだけだ。


「ココネ!ソヌス達を怪我をしない程度に取り押さえて…!」

「分かったよ!」

「チィッ…マスターのお出ましかッ!!全員、マスターを…いや、ココネを取り押さえろ!!」


 僕のお願いを聞いてより一層速度を上げて"妖精の御伽噺"のメンバーに向かって駆ける。


「【 役は拘束 形は縄 】」

「【 役は拘束 形は(つた) 】」


 拘束魔術を使ってココネを取り抑えようとする"妖精の御伽噺"のメンバー二人。

 だが、僕のお願いを聞いたココネは止まらない。

 拘束しようと四方八方から伸びる縄と蔦を素手で引き千切り、進んでいく。


 あの暴虐にして狂宴の二つ名を持つココネをリスクを侵さずに止めるのは例え金等級冒険者でも至難の技だ。


「ココネ!まず道を切り開いて!」


 そして僕はココネに続いてココネの切り開く道へ走る。


「おっと、マスター。ここは行かせないぜ?」

「ソヌス…彼女達は僕のために料理をしてくれている…らしい。つまりは、皆は言い訳して食べなくても済む可能性があるが、僕に退路は無い。死に物狂いで進ませてもらうよ」


 僕の前に立ち塞がるソヌスに、僕は全力で魔力の糸を壁に張り巡らせて場を整える。


 ソヌスは髪の前部分をあまり剃っていない銀色の辮髪(べんぱつ)に、金色の瞳。

 右耳には八個のピアス、左耳には大きな釘が刺さり、舌にも黒色のピアス。

 ジャラジャラと音のなる太いチェーンを首や腰に携え、金色の刺繍の入った黒のタンクトップに下は赤い龍の描かれたボンタン。

 一言で言えば派手。本人も派手好きの前衛を得意とする金等級冒険者。


 実力を疑うことは無い。味方で本当に良かったと思える相手だが、今は敵。

 僕の胃は現在進行形で悲鳴をあげているが、あれを食べたら痛いで済まない。

 今の僕は本気も本気。相手が誰だろうと関係ない。

 今の僕は今までに無いくらい頭が冴えている。


「正直、俺っちあんたの高火力の魔力攻撃と司令塔としての実力は疑ってねぇけど、近距離戦で武闘派バリバリの俺っちに勝てるとは思ってねーんだわ」

「僕も勝てるとは思わないけど…まあ、足止めくらいなら出来るとは思うよ」

「へぇ……それ、俺っちへの挑戦って受け取っていいんだよな?」


 僕の言葉に目を細めて先程までのチャラついた雰囲気を沈め、僕を睨みつける。


 だが、この瞬間……僕の勝ちは確定した。


「おいソヌスゥ…テメェ、誰にガン飛ばしてんだ?アァ!?」


 ドスの効いた声に、圧倒的な威圧感。

 僕を絶対視するココネによる常軌を逸した『よいしょ』が始まる。


「テメェ、最近調子乗ってんなァ…!ギルドの確約でマスターであるレオくんにはココネたちパーティーメンバー以外は基本的には敬語。それ、忘れてねぇよなぁ!?」

「い、いや…俺っちは…派手に…」

「あ?」

「忘れてません。私はきちんと覚えてます」

「だよなぁ!?ならなんでそれげ出来ねぇんだよカス!!」

「あの…なんて言うか……その、反抗した方が…派手かなって…いや、ほんとごめんなさぃ……」

「聞こえねぇんだよ!?男ならしっかり喋れよ!!テメェがやらねぇから他がやらねぇんだろうが!!戻ったら覚えとけよ、徹底的にその体に刻んでやるからなッ!!」


 ココネに胸ぐらを掴まれて半泣き状態のソヌス。


 僕も初めて聞く確約に驚きながらも、僕はソヌスを可哀想に思いながら横を通り過ぎる。

 横を通り過ぎる時にソヌスが助けてくれと目で訴えてきたが、申し訳ないけど今は先にやることがある。


「マーロン、ありがとう。もし間に合わなかったら一緒に食べよう」

「それだけはッ!ギルマス命令でも断るッ!!」


 他の"妖精の御伽噺"のメンバーを抑えてくれている"襲攻無敵"の皆にお礼を言って僕は階段を降りていく。

 中層までの階層は頭に全部入っている。

 アギリの支援がそろそろ切れそうだが、後十五分もせずに中層に着くだろう。


 僕はより一層足に力を込め、【迷宮】を駆ける。



○《 迷宮 中層 十三階層 》レオ=アルブス


 十三階層からは所謂中層に当たる。

 何故、十三という中途半端な階層から中層と呼ばれるのか、そこには多くの理由が存在するが、大きく分けてあげるなら二つ。


 一つ、魔物の練度、数、遭遇率が跳ね上がること。

 ソロでの攻略が難しくなり、ここからパーティーを組むのが必須になる境目になる。


 二つ、上層では洞窟のような造りだった階層に、変化が現れる。

 例えばこの十三階層。

 この階層には多くの木々が生い茂り、まるで森の中のような造りになっている。


 今現在、僕はこの森のような十三階層を走っていた。

 足場が悪く、注意しないと地上に出てきている木の根に足を取られる。


 今目指しているのは十三階層に存在する《GU》のベースキャンプ。

 魔物避けの魔術具を使い、緊急時などの為に物資を蓄えてある場所であり、今日の合流地。

 

「うっ…なんだこの悪臭……」


 ベースキャンプに向かっている途中、ベースキャンプの方から漂う悪臭に思わず僕は顔を顰める。

 生き物の死骸を放置した時の腐敗臭を数倍濃くしたような、吐き気を誘う臭い。

 僕はこれ以上は鼻が使い物にならなくなると判断し『(たち)』を使って嗅覚を断つ。


 『断』とは文字通り断つこと。断つ対象は感覚。

 五感を始めとした様々な感覚を自在に断つことで、攻略や戦闘を有利に進めるための技法だ。


 戦闘中、熱さや寒さを感じているとどうしてもそちらに意識を割かれてしまう。その時には温冷覚を断つ。


 格上と戦う時、痛みというのは動きや判断を鈍らせる。その時には痛覚を断つ。


 その他にも先程断った嗅覚、触覚、聴覚、視覚、固有感覚、什痒感(じゅうようかん)など使い勝手が良く、僕も昔から重宝している。

 ただ欠点としては、これを多様しすぎると自分の体の限界に気づけず、最悪死に至ること。

 利便性に優れてはいるものの、リスクも大きく、使用時間が限られてくる。


「可笑しいな…臭いは断ったはずなのに吐き気が……」


 本能的に拒んでいるのか、足が進まない。

 喉を通って登ってくる胃液を押さえ込み、僕は無我夢中で走る。


「な、な、なんだこれ……」


 僕は目に入る光景を信じられ無かった。

 目の前には泡を吹いて息絶える魔物の死体。それも数体なんて規模じゃない。ここ一帯の魔物が全て殺られている。


 この臭いは間違いなく彼女達の料理が原因だ。

 彼女達の料理能力の低さは知っていたが、五人集まるとその低さが乗法されているようだ。普通は加算されていく気がするが…。


「くっ…体の自由が……」


 手足の痺れに、目眩、吐き気、頭痛。

 あまりの症状に僕は膝を折り、その場で(うずくま)る。


 これでも僕は毒の耐性は昔から身に付けている。

 最初は水で薄めて少量ずつ服用し、徐々に濃くしていくことで世間一般で言われる毒には抗体を持っている僕の体が毒されている時点でこれは料理ではなく新種の毒の作成だ。


 それよりも、間近でこの毒を受け続ける彼女達の身が心配だ。

 下手をすると既に…。


 僕は体に鞭を打って再び駆け出す。


 ───────彼女達の無事を祈って。



○《 十三階層 ベースキャンプ》ロゼリア=フロース=パーピリオー


「ふんふんふん~♪」

「会長、また」

「おっと、彼の喜ぶ顔を想像すると自然と嬉しさを口ずさんでしまってね」


 いけない。いくら彼の笑顔を思い浮かべていたとはいえ、今は料理に集中しなくては。

 料理とは一瞬一瞬の勝負。それは瞬く間に戦況の変わる戦場と同じ。


 私は大型の鍋の中を焦がさないように丁寧にかき混ぜる。


「ふふっ」


 しかし、どうしても笑みが抑えられない。

 あの時の光景が、二年前のあの時の彼の姿が、鮮明に今も思い浮かぶ。


 『悪魔に身を捧げて解決…君の犠牲だけで王都が守れるのならそれは最善手なんだろう。けど…そもそもの話…悪魔って、僕よりも強いのかな?』


 普段、裏方に徹して縁下でさ支える私達のマスター。

 凪のような彼の瞳が貪欲なまでの勝利への渇望が渦巻く瞳に変わった時の彼の姿は勇ましく、どこまでも猛く、格好良かった。


 彼の過去は知らない。彼は自分の過去をひた隠しにしている。

 私はそれを詮索したりはしない。


 ただ、悪魔に身を捧げ、幸福を諦め、全てを捨てた一人の少女の前に現れた英雄に少女は恋をした。


 その英雄に気に入られたい、少しでも気を引きたい、一緒にいたい、感謝されたい、褒められたい、笑顔を見たい。


「会長、幸せそうですね」

「ああ、私は今までで一番幸せだよ」


 私は頬を綻ばせて再び鍋の中を見つめる。


 赤みがかった黒色のドロドロのスープに、断末魔をあげる具材、鼻を突き抜ける刺激臭が食欲を誘う。


「おっと、おたまがまた(・・)溶けてしまった、アイア、予備を取ってくれ」

「会長、それ十二本目。予備はもう無い」

「仕方ない、ちょうどそこにあった《超毒蜘蛛》の足でいいか」

「それは危ないので、毒を調和するために、マスターが持ってきていた何か凄そうなこの液体を入れるといと思いまーす!」

「いい案だな、確か『王水』だったか。王の水か…さぞ貴重なものなのだろう」

「ついでにこのキノコも入れるといいかな~、カラフルで彩りが出ると思うんだ~」

「流石、タナラだな、私としたことが色合いの事を忘れていた」


 こうして私たちの彼を持て成す料理が完成した。

 冒険者はよく食べるからな、皆の分も合わせて五十人分。お代わりもし放題なボリューム感溢れる料理になっただろう。


「ちょっと待ったぁぁぁぁぁ!!!」

「おお、マスター。良かった、今ちょうど出来たところだ。熱々を食べてくれ」


 木々を掻き分けて飛び出してきたマスター。

 逸る気持ちを抑えて、私はあくまで冷静に彼に声をかける。

 料理途中で少し汚れてしまったが、私の貴重なエプロン姿だ、少しは褒め言葉を期待してもいいだろうか…。


「あっ………」


 私達の姿にか、それとも美味しそうな料理にかは分からないがマスターは感動で涙を流し、その場に崩れ落ちる。

 まるで物語で天使を見た信徒のような反応だな。

 少々照れるが悪くない気持ちだ。


「さあ、沢山食べてくれ」



 

《超毒蜘蛛》の足→全身がブドウのように膨れ上がった後、三日三晩苦しんで死亡する。


王水→腐敗性が強く、皮膚に付着すると化学熱傷を引き起こす。

※レオは金属の体を持つ魔物に対抗するための道具として正しい保管方法及び、使用方法、使用の際の注意を心得ています。決して料理の調味料として持ってきてはいません。


カラフルなキノコ→正式名称《鬼殺し茸》。その名の通り鬼を殺すほどの毒性を持つキノコ。


何故彼女達がこれらを素手で扱って平気な顔をしているかと言うと愛のパワー及び、何らかのギャグ世界的な因果律が働いている為です。

決して真似をせず、使用方法をよく調べてお使いください。



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