episode14 金狩り③
〇《 王国 迷宮都市 》レオ=アルブス
ルミが襲われてから一週間。新たな被害者が出た。
僕が唯一ギルド以外で交流の深いパーティー、”暁の眺望”のリーダー、キョウ。
僕の三つ上で歳も近く、個人的な付き合いもある。
兄貴肌で人情に厚く、とても義理堅い。人が周りに自然と集まるタイプで、実力も折り紙付き。
「まさかキョウくんがやられるなんて…」
「こういったら何だが、犯人が絞られてきたな」
「私、お見舞いにいってくるね」
「カナミさん、お供します」
「ボクも行こう」
この一週間、僕たちは《金狩り》の情報を集めた。
姉さんの調合した薬のお陰もあり、意識の回復したルミや被害者に話を聞くことができた。
だが、思ったように情報が集まらなかった。被害者全員に認識を阻害する魔術が使用されており、誰一人犯人の顔を覚えておらず、聞き出した犯人の情報は性別や人数がバラバラだった。
だが、少なからず分かったことがある。
一つ、実行犯は一人。ただし協力者がいる。
実行犯については被害者の怪我の具合を直接見ることで分かった。殴る場所に癖がでているし、複数でリンチされるともっと怪我の場所にばらつきが出る。そこから実行犯は共通。そして一人だと判断した。多くの人を治療している姉さんのお墨付きだ。まず間違いないだろう。
協力者については可能性の域だ。協力者がいると判断した材料は被害者は一人の時に襲われているということ。これは事前に被害者が一人になる時間を調べないとまず無理だ。だが、そう簡単に人の生活パターンを把握するには時間をかけないと無理だ。襲った場所の足跡や血痕を消した後を見るに、犯人は慎重派。相当被害者のことを調べ込んでいる。
冒険者の生活パターンは長期攻略を挟むと大きく変わりやすい。金等級冒険者はだいたい三から四か月に一回は長期攻略を行う。被害者全員の生活パターンを長期攻略が終わってからから調べると考えると明らかに個人で調べられる量じゃない。だから僕たちは協力者がいると睨んだ。
二つ、実行犯は手練れの『拳闘師』か近距離戦闘を得意としている『魔術師』。
手練れなのは言うまでもない。ルミどころか、アギリの書いた『ボクが選ぶ最強冒険者ランキング』で白銀や白金等級が混ざっている中、百位のキョウを倒したのだ。あの本は僕への偏見が凄まじいが、他は僕も納得のランキングだった。ちなみに、同じ被害者であるルミは百五十位。ココネやアークは九十位代だった。
キョウは化け物の中で百番目に強い化け物。彼を倒すなど容易ではない。
そして、被害者の傷に裂傷はなく、打撲や骨折のような傷ばかり。ノインのような特殊でもない限り後衛職では不可能だし、武器を使う『剣士』や『盾役』でも無理。
ただし、魔術には自身の身体能力を爆発的に向上させる魔術もあるので場合によっては可能性がある。
「可能性があるのは三人か…」
そして以上のことから絞られた容疑者は三人。銀等級冒険者が一人、金等級冒険者が二人だ。
白銀等級や白金等級の冒険者に該当者が多かったものの、彼らはだいたい【迷宮】にいるか、王都の方においるため、【迷宮都市】の地上にいる事自体が珍しい。
該当者の白銀、白金等級冒険者は前後はあれど、ここ一か月【迷宮都市】に留まっているものはゼロ。
「前回と同様に考えるなら銀等級冒険者があやしいかと」
「ありがとう……そうなんだけど、証拠も無く疑ってかかると逆にこっちに罪がかかるし…」
自室の執務机に座り、容疑者の三人の資料を見ながら僕はノインが新しく用意してくれた紅茶を口にする。
ほのかに口に広がる甘味に脳の疲れが和らいでいくのが分かる。
「事故に見せかけて全員始末するのがよいかと」
「流石にそれは…」
いつからだろう、ノインが平気でこういうことを口にし始めたのは…。
誰に影響されたかは言うまでもないけど、僕の知らない所でやってそうで怖い。
「レオ様の快適な生活の邪魔をするものは許しません。例え王であっても、物語の英雄であったとしても、私は許すことができないでしょう。貴方様を害するものはすべて始末します。すべてはレオ様のために」
「ははっ…それだと、真っ先に”七星輪廻”の皆を始末することになっちゃうよ」
「……」
せめて笑うなりして反応を見せて欲しい。いや、胃に穴があきそうでだから笑えないんだけどさ…。
「私はノインちゃんに賛成かな…レオくんが無理してる姿はあんまり見たくないしね」
そういってソファーに腰かけてクッキ-を頬張っていたココネが笑顔をこちらに向ける。
見慣れていなければころりとやられてしまいそうな程、綺麗で年相応に可愛らしい笑顔だが、今ココネがしている話は殺る話だ。もし許可を出せば容疑者三人は笑顔でやられる前に殺られてしまうだろう。
「それでレオ、その三人はどうするんだ?見張るか?」
これまで沈黙を貫いていたアークが口を開く。
アークにとってキョウは同じ『親糸』を持つ言わば兄弟子。僕が動かないから合わせているだけで、今すぐ犯人を捕まえたいだろう。
「そうしたいのは山々なんだけど、下手に見張りを付けても協力者がいる可能性がある以上、下手に見張りを付けると相手の警戒を強めることになる。生憎、《GU》にいる斥候が得意なメンバーに金等級はいない。相手が相手だけに実力不足かな…ここは素直に組合に情報を渡すのが無難だと僕は思うよ」
アークには申し訳ないが、今回の事件は皆には向いていないと断言できる。
普段の行動もあって《GU》に所属しているだけで目立つからなぁ…。
特に僕なんて周りのよいしょのせいで散歩していうだけでガラの悪い冒険者に絡まれる。本当に勘弁していただきたい。
「あー、もしアークの手が空いてるならココネを連れて見回りをしてくれないか?被害は無いとはいえ、一般人も不安に思っている。実力のある人が見回りをしてくれたら安心するだろうし」
「分かった、行ってくる」
「ココネのことよろしく頼む」
「レオくんは心配性だね、そんなに心配しなくても私は昔みたいに弱く無いよ。守られてばっかりじゃないんだから」
違う。心配なのは一般人の方々が。
よろしく頼んだのは暴れないように。
昔は見た目通りのか弱い女の子だった。素質は確かにあったが、なかなかどうして…今では立派な化け物。【迷宮都市】で恐れられている冒険者ランキング五位だ。ちなみに一位は僕。察しられるように、周りのせいだ。
「じゃあ行ってくる」
「行ってきます」
早速出かける二人を手を振って見送る。
「ノイン、悪いけど二人の監視を頼む。万が一は止めてくれ」
「ですが…」
「僕と僕の胃の快適な生活のために」
「分かりました」
「うん、ありがとう」
「昼食は寄合室に用意してあります。昼食後の鍛錬用の着替えと水分、タオルはここに、お風呂の準備もしてあります。体調を崩さないように気を付けてください」
ノインはそう言い残して一礼すると、アークたちを追いかける。
ノインはどこまでも僕の面倒を見てくれるようだ。ありがたいが、少しは自立させてほしい。
「パーティーの皆は出払った。ここにいたメンバーもカティも合わせて全員情報集めに外にいる。寄合室も今日は休み…だれか一人でもいたら半壊だったろうな」
そんな独り言…いや、壊れた扉の陰に隠れている複数の気配に向けて呟く。
もう少し遅かったらノインと鉢合わせていたかな…。
「レオ=アルブスだな、お前に『金狩り』の容疑がかかっている。俺たち冒険者には衛兵みたく逮捕権はねーけど、尋問するくらいは問題ねぇのは知っているよな?悪いけど付き合ってもらうぞ」
こちらが一人だと判断すると、三人の屈強な男が入ってくる。
組合で見覚えがある。金等級冒険者のルユートと、銀等級冒険者のオコイとワエテールだ。
確か、”荒れ狂う雄熊”の一員だ。
「…すぐに準備するよ。武器はもっても?」
「好きにしな」
僕は素直にルユートに従う。ここで抵抗でもしたら無理やり取り押さえられるだろう。屈強な男三人に群がられて取り押さえられるなんて嫌だ。
ポールハンガーにかけた黒色のローブを羽織り、腰のベルトに愛用の短剣四本を取り付ける。
簡単な話だ。
『金狩り』について調べているのは僕たちだけじゃない。多くのギルドやパーティーが取り掛かっている。
多少の違いはあれど僕たちが掴んでいる情報くらいは既に掴んでいるだろう。
そして、僕たちが絞り込んだ例の三人以外にもう一人、該当者がいる。
アギリの作ったランキングの上位者であり
『拳闘士』もしくは近距離戦を得意とする『魔術師』であり、
被害者の関係者でもある。
最も怪しい容疑者。
「僕だよなぁ…」
僕はアギリのランキングでは堂々の第一位。その数字通りなら百位のキョウなどたやすくあしらうことができる。
一応ココネも容疑者として上がる可能性があるが、まぁ…あの性格だ、これほど慎重にことを進めている犯人には程遠いだろう。
それに僕は戦い方が広まっていない魔術師にして、特殊な魔術操作が使える未知数の存在。
ルミはギルドメンバーだし、キョウは個人的な繋がりがあるため、一人になる時間を把握しやすい。
極めつけはパーティーメンバーの狂信的なまでの僕への献身。頼めば情報を集めたり、隠蔽したりなどいくらでもしてくれるだろう。
これ以上ない怪しい存在。
……。
はぁ…胃が痛い。
二日に一回のペース投稿になると思います。




