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episode13 金狩り①

〇《 王国 迷宮都市 》レオ=アルブス


 合同攻略前日。

 僕が周りに振り回されて攻略の準備を忘れていた頃、僕の武器の手入れや荷物、物資の手配、作戦からギルドメンバーへの連絡に至るまで全部ノインがやってくれていた。

 もうノインがギルマスでいいんじゃないだろうか…。


 準備を忘れていた事に焦っていた朝と違い、今はゆっくりと【迷宮】に持っていくお気に入りの胃薬を選定するくらい余裕がある。


 と思っていたら…。


「ぎ、ギルマス!」

「なにがあった!?」


 僕の部屋に飛び込むように入ってきた筋肉質な中年の男性。

 『サポーター』を除いたパーティーメンバー六人全員が前衛職という変わったパーティー、”襲攻無敵(こうしゅうむてき)”のリーダー、マーロン。

 《グラディウス・ユースティティア》の仲間だ。

 慌ただしく戦況が変わる前衛で冷静さが求められる司令塔をしているか彼がここまで慌てるのは珍しい。それこそココネが組合に単身で殴り込みに行って二百人近くを怪我させた時くらいだ。


 …思い返せばかなりの頻度で見ているかもしれない。


 だが、裏を返せばそれだけの事態が起こったということだ。僕も手に持っていた胃薬を放り出してマーロンに駆け寄る。


「はぁ…はぁ…ルミが…!ルミが今朝方、『金狩(きんが)り』に…!!」

「ルミの状態は!?」

「死んではいない…が、全身が痛めつけられている…。数か月は…」


 一年ほど前、金等級冒険者を街中で狙って勝負を仕掛ける輩が現れた。被害にあった金等級冒険者は四名。死人もでた大事件だった。

 犯人は素行に問題があり、等級試験を受けられなかった。その為、銀等級冒険者が実力を認めさせるために金等級冒険者に戦いを挑んだと後に供述した。


 犯人の男は尋問が終わった後、処刑されたはずだが…。模倣犯か?


 以前現れた『金狩り』は金等級冒険者の中でもアギリやノインのような『支援職』や『サポーター』を狙ったものだったが、ルミは”襲攻無敵”の一員で、【迷宮都市】でも屈指の剣の使い手の女性だ。僕たちと同じ金等級冒険者の彼女を痛めつけられる存在などそうはいない。それこそ白銀等級冒険者くらいだろう。

 だが、白銀冒険者が格下の金等級冒険者のルミを襲う理由は無い。

 いや、『金狩り』という言葉に惑わされているのか…?個人のいざこざの可能性も…。

 情報が少ない中で決めつけるのは早計だろう。今はとにかく状況を判断ができるだけの情報が必要だ。


「カティ!ここ最近で都市で起きた金等級冒険者が関わっている事件を調べてくれ。ノイン、ギルドメンバーに通達、攻略は二日延期だ。マーロン、詳しい話を教えてくれ」

「他の非戦闘員を使っても?」

「最優先だ。寄合室にいる戦闘員も好きに使っていい」

「承りました」



 カティ達が情報を集めている間、僕は自室でマーロンにルミのことについて話を聞いていた。


「ルミが襲われたのは西の貧民街、人目につかない路地で倒れている所を発見されて治癒院に運ばれました。まだ意識は戻っていません」

「貧民街……懲りないな僕もルミも」

 

【迷宮都市】はこう見えて他の都市に比べて治安が良く、犯罪率が低い。

 怪物のような冒険者同士のいざこざや、喧嘩は多いが、冒険者以外が被害にあうことは基本的には無い。

 その理由としてやはり、冒険者という存在が大きい。

 この【迷宮都市】は別名『商業都市』と呼ばれるほど商人の往来が多く、都市にある建物の半数が商店だ。冒険者にとって商店というのは命を繋いでくれる大事なもの。

 そこに不届きを働いた者がいたとしたら冒険者が黙っていない。それこそ、ここに住むもののほとんどが冒険者とコネクションを持っている。

 『首から上が怪物で、首から下は化け物。精神は人外。頭の中はモンスター』と称される冒険者の知り合いを害する馬鹿はいない。


 治安が良ければ自然と人が集まる。それこそ貴族から商人、戦争孤児やアギリのような差別を受けている種族が身を隠しに来るのも珍しくない。

 ここに来れば戦争孤児でも商店の手伝いなどで生きることができる位のお金が手に入る。

 スラムほど酷くは無いが、親を亡くし、裕福な暮らしができない子供たちの集まりが貧民街とよばれる場所だ。


 ルミはここの貧民街の出で、僕と一緒に度々、貧民街を訪れている。今日もしばらく攻略で顔を見せられない為、最後の挨拶に行ったのだろう。


「すみません、俺も重点だけ聞いて慌てて報告に来たので」

「マーロンが教えてくれたから早く動ける、助かるよ」


 申し訳なさそうに頭を下げるマーロン

 僕は素直に助かったと伝えて頭をあげさせる。


 そんな時、部屋の扉が思い切り吹き飛んだ。


 マーロンと僕の頬すれすれを飛び、後方の机に激突した扉は粉々に砕け散る。

 

「レオくん!マーロンくんがルミちゃんを使って貧民街にレオくんを無理やり連れ込んで」

「連れ込まれてないよ」

「しかも金等級冒険者二百人で襲われて」

「襲われてないし、二百人って金等級全員じゃないか」

「しかも全員を全治数か月の大怪我するまでボコボコにしたって本当!?」

「虚実だね」


 扉を文字通り蹴破って入ってきたココネ。

 ものすごい剣幕で僕を問いただしているけど、何一つ合ってない。


「ノインどういう事?」


 僕はココネの後ろから入ってきたノインに質問する。

 ノインに限って情報の伝達を間違えたなんてことはないだろう。


「私はきちんとアギリ様にお伝えしたのですが…話の途中で…」

「失礼な、ボクはきちんとバダクに伝えたさ」


 ノインの後に続いてパーティーのみんながぞろぞろと部屋に入ってくる。


 確かに情報の伝達をしていると情報に齟齬(そご)が出るのは珍しくないが、この短時間、少人数でどうしたらここまで情報が曲解されるのだろうか…。


「ちなみに、アギリはノインからなんて聞いたんだい?」

「明日の攻略を中止して二日後に帝国に二万の兵を引き連れて乗り込み、全員皆殺しにした後、世界征服のために黒の英雄になり、最終的には神を殺すと聞いたぞ」

「私の名誉の為に言わせていただくと、二日後の時点でアギリ様は走りさっていました。」

「うん、ノインは悪くないね」


 完全に後半アギリの妄想じゃないか…。


「バダクはアギリから何て聞いたんだい?」

「明日の攻略は中止、全ての生命に平等に権利を与えるため、《GU》が独立国家として立ち上がり、世界から差別と侮蔑の心を無くすと聞きました」

「何も聞いてないじゃないか…それで次は誰に?」

「俺だ」


 バダクの次はアークか…アギリとバダクは思考が似ているところがあるからあれだけど…アークはこう見てなくても馬鹿だからなぁ。


「俺はバダクから明日から冒険者を辞めて皆でパン屋になると聞いた」

「差別や侮蔑の心からどうしてパン屋になるのか僕は心の底から聞きたいよ」

「正直、悪くない話だとは思ったんだが…すまんレオ、俺はお前を越えるまで冒険者をやめるわけにはいかないんだッ!!」

「そんな心から悔しそうな顔をしなくても冒険者を辞めるつもりはないよ。辞めたとしてもパン屋にはならないよ」


 残る最後の一人は姉さん…。姉さんは怒らない限り、基本的にはただの褒め狂いだ。

 ノインについで常識人の姉さんを信じたいけど…どうやってもパン屋から、ココネの話になるのか全然わからない…。

 それこそ話を全く聞いてない限りは…。


「ね、姉さんはアークから話を聞いてココネに何て伝えたの?」

「アークちゃんにレオちゃんがパン屋さんになるって聞いたからココネちゃんにそのまま伝えたけど…」


 そうだよな、ココネが僕以外の人の話を聞くわけがないもんな…。パーティーメンバーどころか同郷の姉さんの言葉も聞かないとは思わなかったけど、ココネだもんな…。


「遠回りしましたが、結果的にココネ様が一番正解に近かったですね」

「他が遠すぎるんだよ…」


 僕が呆れていると、蹴破られた扉を見て一瞬驚いいた後、中にいるメンバーを見て納得したかのように中に入ってくるカティ。

 ありがとう、蹴破られた扉を見て強盗を疑わないほどココネ達の横暴さを信じてくれて…けど、万に一つの可能性も無いけど、強盗に入られたのかと心配してくれてもいいと思うんだ。


「ギルマス、途中経過ですがお伝えに参りました」

「ありがとう、それでどうだった?」

「まだ三か月ほどしか調べられていませんが、金等級冒険者が絡んだ事件は二百四十二件」


 あれ、なんでそんなに多いんだろう?

 僕の予想だと精々、二十件くらいだと思ったんだけどな…。この数字は喧嘩やいざこざが多いって言葉で片付けられない。

 やはり、【迷宮都市】では僕の知らないところでなにか事件が…。


「二百四十二件のうち、二百三十九件に《GU》が、二百三十九件のうち、二百十八件に”七星輪廻”が関わっていました」


 ……。


「ノイン!全員を取り押さえる!一人も逃がすな…!」


カティの報告に一目散に逃げるメンバーを追うべく、僕はノインに協力してもら……えない。ノインも逃げてる。僕の知らない所でまた何かやったな…!

 こうなったら…。


「マーロン!ギルマス命令だよ、手伝って!」

「俺じゃ一人も捕まえられませんよ…」


 そうこうしているうちに五人の姿はもう見えず、取り逃してしまった…。


 くそう…謝ってないのが何件あるんだ…。



 はぁ…胃が痛い。



タブレットPCを購入しました。慣れるまで時間がかかると思いますがお付き合いください。

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