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episode11 師弟⑤

〇《 王国 迷宮都市 》レオ=アルブス


「【 役は促進 形は無形 癒しの加護を 】」

『おォ…テガもどッタ』

「ありがとう姉さん」

「気にしないで、レオちゃんからのお願いだし」


 ギルドに戻った僕達は、まず僕が切り落とした《大鬼》の右手の治療を行った。

 魔物は自然治癒能力が高い。腕が千切れても、一ヶ月もすれば元に戻る。

 そのため、姉さんに自然治癒の促進を促す魔術を使ってもらって《大鬼》の手を治す。

 手が生えてくると錯覚するほど凄まじい再生スピードだが、少しグロテスクだな…。


「じゃあ、説明しようか」



 僕は《大鬼》を連れてマルナの待つ会議室へと足を運ぶ。

 ドアを開けると、ソファに腰掛けてノインの出したお茶で喉を潤しているマルナがこちらに気づき、慌てて姿勢を正す。


「そんなに(かしこ)まらなくても大丈夫だよ、少し長くなるからね」


 僕はマルナの向かいに座ると、すかさずノインが僕の前にも冷たいお茶を出してくれる。


 有難く乾いた喉を潤すために一口。


 すると、こちらがカップを置いたのを見計らってマルナが僕に質問する。


「あ、あの…捕まっていた人達は?」

「安心していいよ。パーティーメンバーの金等級冒険者を三人向かわせたから。時期に戻ってくる」


 結局、あの巣は僕達が戦った部屋を合わせて三部屋しか存在しなかった。

 奥の部屋は《大鬼》の彼女の部屋になっており、その隣に捕まえた冒険者を監視する部屋があった。

 監視部屋には三人の女性が囚われており、二人は冒険者で、もう一人は奴隷だった。おそらく、『サポーター』として買われたのだろう。

 僕は、人質にされていた女性の首の怪我を手当すると、人質の女性を監視部屋に運び、《大鬼》に認識阻害の魔術をかけてもらった。


 簡潔に言えば、《大鬼》を連れた状態で女性四人を一緒に連れて帰ることが出来なかったので置いてきたということだ。

 今はギルドにいたアークとココネ、回復魔術が多少使えるアギリを急いで向かわせていので二時間ほどで無事に連れて帰ってきてくれるだろう。


「良かった……」


 僕の言葉を聞いて安堵(あんど)の声を漏らすマルナ。

 余程心配だったのだろう、見ず知らない人相手にここまで心配出来るのは根から優しい証拠だ。


「さて、本当なら少し別の話をしてから本題に入るんだけど、気になっているだろうし…話してもいいかな?」

「……はい」


 僕はマルナに全てを話した。


 変異種のこと。


 保護派のこと。


 ノインのこと。


 僕の知る情報を全て洗いざらい話した。

 過去の経緯も辿って話していたので一時間と少し、喋り倒しだ。


「事情は分かりました…けど、納得できないところがあります」

「なにかな?」

「レオさんが変異種の魔物を保護する理由は分かりました。それに関してはまだ飲み込めてはいませんが、理解します。けど、彼女達はマルナたちと同じ冒険者を…人を殺したんですよ?マルナには、同じ人を殺した魔物を許せません…」


 それはマルナの静かな怒り。

 同族を殺されたことへの自分の理性では制御できないほどの大きな怒りが僕にひしひしと伝わってくる。


 過去に大切な仲間を魔物に殺されたことによる憎しみの怒りか、それとも純粋な優しさからくる怒りかは僕には分からない。


「マルナは勘違いしているよ」

「勘違い…ですか…」

「冒険者は正義じゃない。魔物との関係において人間は絶対悪だ。どうしてだか分かるかな?」

「……」

「魔物は【迷宮】から出て来ない。それこそ冒険者が連れ出さない限りはね…。つまり、魔物は何一つ地上の僕達に迷惑をかけていないんだ。僕達が勝手に魔物の縄張りを荒らし、(なぶ)り、殺す。人それぞれ、違った目的のためにね……今、迷宮にいる冒険者は魔物達を殺すために魔物達の縄張りに入って、殺されそうになった人達だ」

「そんなこと…考えたこともありませんでした」


 当然の話だ。だが、その当然を理解していない冒険者が【迷宮都市】には沢山いる。

 大袈裟に言ってはいるが、要は命を奪っていいのは、奪われる覚悟のあるものだけ。そういうことだ。


「僕は仲間の夢のために魔物を殺す。まあ、あれだけ言ったけど僕も魔物の命よりも仲間の夢の方が大切だ。これは先輩冒険者からのアドバイスだ。自分が正義だと思わないこと。じゃないと、いつか『正義』って言葉に押しつぶされるよ」

「肝に銘じておきます…」

「話は変わるけど、この話を聞いてまだ僕の弟子になりたいかい?」

「…数日考えさせてください」

「うん、焦らなくてもいい。答えはいつでもいいから」


 簡単に言えばマルナには割り切りが足らない。

 同業者の死に慣れろとは言わない。けど、あまり気にしすぎるとすぐに精神をやられてしまう。


 僕が話した冒険者が悪のいうのは、かなり極端な話だ。食うか食われるかの世界で今更そんなこと気にしている奴はいない。

 ただ、冒険者が悪だということを意識しているだけで仲間の死が割り切りやすくなる。


 後は時間が解決してくれるだろう。下手にあれこれ言ってもマルナの精神が耐えられない。


 席を立ち上がって身支度を整えると、出入口の扉へと歩いていく。

 すると、ドアノブに手をかけたマルナの動きが止まり、こちらを振り向く。


「まだ、戸惑いはありますけどさっきよりも、色々と飲み込めまし、少なからず納得しました」

「なら良かったよ」

「最後にいいですか?」

「…?」

「確かに仲間のノインさんのこともありすが、変異種の魔物を助けるのには他にも理由があるんですか?」

「理由は色々とあるよ。さっきも話した通り、ノインを知っているから彼女達を魔物と思えないとか、感情移入しちゃって今更引き返せないとか…けど、一番の理由をあげるなら僕がしたいからかな」


 子供のような我儘な僕の理由を聞いてマルナは一瞬、呆けた顔を浮かべると、何故か納得したように笑顔を浮かべる。


「我儘…なんですね」

「我儘な理由だけど、結局は僕の人生だ、僕のしたいことをする。それが一番だとは思わない?」

「そうですね、じゃあまた来ます。これからよろしくお願いします、師匠」

 

 そう言い残してマルナは部屋を後にする。


 どうやら僕の理解していないところで、マルナの中で考えが纏まったのだろう。


 それにしても良かった。ついつい、熱が入って喋りすぎてしまったのでマルナが弟子にならないって言った日には裏で口封じのために動かないといけないところだった。


「うん、胃が痛くない方向に進むのはいいことだ」



 数日後。


 ギルドの寄合室…ギルドメンバーの交流場のような吹き抜けの部屋で僕は椅子に腰掛け、目の前の光景に胃をキリキリと痛めていた。


「音も無く、《中鬼》の胴体にこうズドーンと風穴をあける様はまさに"無音"の二つ名が相応しい攻撃でした!!」

「ふむふむ」

『う厶、確かニ、あれハ、鮮やかだっタ』

「超人的なスピードではないんですが、とにかく目が離せない戦いで…!」

「分かる…!分かるよー!その気持ち!!」

『とにかク、体の運び方が正確ダ、自分の体を理解してないト、できない動きダ』

「そう!そうなんだよね!!」


 僕の隣の丸テーブルに腰掛ける三人。


 正式に僕の弟子になったマルナ。

 色々と考えた結果、あまり気にしない方向に纏まったようだ。

 無責任にも思えるが、無数の人や魔物の命など一個人が考えることでもない。

 今は、《小鬼》の巣での僕の戦いぶりを、伝説の竜と対峙した勇者の戦いぶりの如く熱く語っている。


 この寄合室は最初は当初の目的で作ったのだが、今は食事処として一般に解放されている。僕達の貴重な安定した収入源だ。

 その為、周りのテーブルには見知らぬ人も多いとても恥ずかしいのでやめて欲しい。


 そして《大鬼》。僕達で名前を考えた結果、『ツバキ』という名前になった。

 この数日で人の言葉に多く触れ、訛りも減って自然と会話が出来るようになっている。

 二日後には変異種の彼女達を匿っている別の建物に移動してもらうのだが、ツバキは角さえ隠せば唯の他を寄せつけない美少女なので問題は……ある。

 芸術品とも言える着物の美少女が全力で僕の戦いぶりを褒め称えるので、周りからの視線が痛い。

 好奇心では無く、嫉妬と憎悪が混じった視線は僕の胃を直接抉る。

 ツバキから目を離せないのでここを離れられないことが悔やまれる。


 最後にアギリ。二人から僕の戦いぶりを必死に左手でメモを取り、右手で『我らがレオの英雄譚』を執筆。

 器用なことだが、破り捨てても良いだろうか。

 今日は女なアギリだが、自分が目にしたことない僕の戦い方に中性的な整った顔立ちは興奮でよそ様には見させられない程に。目も血走っていて怖い。


「英雄の前衛は珍しいからね、これは貴重な情報だよ。この目で見れないことが悔やまれる…!ボクも今度二人きりで【迷宮】に…!!」


 アギリとは絶対に行きたくない。身の危険を感じる。

 女の姿でも駄目だが、アギリに関しては男の体でも迫ってくる可能性がある。二人きりにだけはならないようにしよう。僕はそう心に固く誓った。


『なァ、レオ』

「どうした?」


 いつの間にか僕の隣に座っていたツバキ。

 椅子も隙間を詰めて座っているので、近い。

 ツバキは身長が低いので、座ると僕の鼻のあたりに丁度頭が来るため、ツバキの綺麗な黒髪から匂う甘い香りが鼻腔をくすぐる。


『私はお前の子を産みたイ。先日の戦いぶりを思い出していたら滾ってきテ、抑えられんのダ』


 よく顔を見れば、ツバキは完全に発情していた。

 頬は赤く染まり、顔は蕩け、息が荒い。

 少しずつ着物をはだけさせ、白磁の肩が顕になっていく。


「ひ、人前で何を言ってるんだ…!早く着物を直して…!!」

『雌が強い雄の子種を求めるのハ、自然の摂理であろウ?何もおかしいことはなイ』

「こんな所で脱ぐな…!アギリ、止めてくれ!!」

『ここで無ければいいのカ?私は気にしないゾ、他者に見られるのも悪いことではなイ』

「アークゥゥゥ!!僕の貞操がピンチだ!!助けてくれぇぇぇ!!!」


 人前で気にもせず、子種だのなんだのと口走るツバキ。

 僕は人前で気にもせず、お誘いする女性の目の前で二階にいるはずのアークの名前を叫ぶ。


 結果から言うと、僕の声を聞き届けたアークが全力で寄合室に駆け込み、「お前の貞操の為ではない…勘違いするなよ」と息を切らしながら僕にそういうと助けてくれた。

 ツンデレかっ!と叫びたかったが、助けてくれたので何も言わない。

 こうして、僕の貞操は守られた


 代わりに色々と失って。


 後日、カティは「やはり男色の気が…」と小さく呟くことが増え、ココネや姉さんからは「気にしないよ」と励まされた。

 更に客足は減り、覚悟を決めた女性を拒むなんて人でなしとギルドメンバーから罵られ、贔屓させてもらっているお店の店員に優しい目で見られ、店長に肩を叩かれた。


 さらに度々発情して僕を襲おうとするツバキと、それを阻止するバダクとココネとの衝突でよそ様の建物を破壊しまくったりと胃が休まる暇が無かった。


 そして、気づけば合同攻略の前日になっていた……。


 何も準備出来てないよ…。


「あの…マルナはどうすれば……」

「ごめんマルナ…今の今まで忘れてた」

 

 こうして僕の初めての弟子は周りのドタバタによって影が薄まり、僕の記憶からしばらく消えていた。




新たな『よいしょ』モンスターは弟子ではなく、ツバキです。あれがよいしょしてるかと言われたら…まあ、これからです。これから。

マルナの『よいしょ』もこれからエスカレートしていきます。冒険者としての成長と共に、レオに心酔していく弟子にご期待ください。

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