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第二話 グローリア礼拝堂破壊事件

 語り部のオクトでございます。

 続きを話していきたとい思いますが……まずは私の愚痴を聞いて下さい。

 

 前回のカノン様との約束が、のちのちあんな事件を起こす、お手伝いをしてしまう事になるのですが……

 ああ、私は何故こんな約束をしてしまったのでしょう。

 後悔先に立たず、とは良く言ったものです。


 申し訳ございません。

 語り始めでしたのに愚痴を吐いてしまいました。

 どうしてもこの時に交わした約束を思い出すと、後悔の念が去来してきますので……。


 話を戻しますね。

 この後は、数日ほど平穏な日々でした。

 ただ、カノン様の心の底に秘めていた聖歌隊への憧れを見過ごしていた事は否めません。

 そして、前回にも言いましたが、事件が起きるのです。



 まずはその事件が起きた現場の話しをいたしましょう。


 グローリア礼拝堂、それがカノン様が巻き起こす事件現場になります。

 そこは聖歌隊の本拠地であり、聖歌隊達の練習や、聖歌のお披露目の場でもあります。

 見学も拝見料を出せば、遠巻きながら聖歌隊の練習している歌を聞けると言う事もあり、王都に来たものは必ず訪れるという観光名所になっております。

 

 元々は王都の端の方に聖歌隊の礼拝堂がありましたが、昨今の聖歌隊の人気もあり、王都の中心に立て直したのがグローリア礼拝堂です。

 その建物は数々のステンドグラスが飾られ、その内装は聖歌隊の為にさまざまな装飾がされおり、歌を聞くだけでなく視覚からもその神聖さを感じる事が出来ます。

 中央には万華鏡の様な丸いステンドグラスに様々な色のガラスが使われ、建物の角度も考えられており、朝方と夕方には日の光が乱反射するように設置されております。

 その中で聖歌隊が歌う姿は、それはそれは素晴らしいと評判になりかけていた所でした。

 

 ええ、ここまで聞いた方々はもうお分かりかもしれませんね。

 これから起こしてしまうカノン様の所業……ですが、カノン様のせいでは無いのです、純粋に試験官に従っただけなのです。


 ああ、私はいまだにカノン様に甘いですね……いい加減話しを戻しましょう。



 あれは、朝起きると簀巻きにされている日の事でした。


 え? カノン様の護衛である私が簡単に簀巻きにされるのか、と仰りたいのですか?

 私を簀巻きにする事など、カノン様の身体能力を考えれば簡単な事です。


 もともとアンティフォナ家は武に秀でた家系なのです。

 そんなお家に生まれた、天性の肉体を持ったカノン様が信じられないほど強いのは当然の事です。

 カノン様と互角に戦える者は、大旦那様のヴァイス様しかいません。

 旦那様のザカリー様は婿養子ですので、武の才は無く商才に秀でた方ですね。

 あまり大きな声で言えませんが、奥様のミア様は私達護衛と同じくらいに強いですね……あの方も見た目可憐な女性なのですが、見た目とは裏腹に剛腕を奮います。

 はい……武のアンティフォナと言えばかなり有名です、なんなんでしょうねこの家は……


 申し訳ございません、使えている主家にあるまじき感想を述べてしまいました。

 ですので、護衛とは申していますが、主にカノン様の精神面での護衛と考えて戴ければ幸いです。

 当然ですが、簡単に悪漢にやられるほど弱いわけではありません。


 また話がそれましたね、どうもカノン様の事を語っていると、どうしても言い訳を紡いでしまいますので……



 では話を戻しましょう。

 そうです、私を簀巻きにした人物はカノン様です。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





 朝起きると自室のベッド上で簀巻きにされていたが、どうやらカノンにも良心があったらしくあまりきつく縛られていなかった。

 服に仕込んでいるナイフを使い簀巻きから脱っし、急いでカノンの部屋へと向かう。


「カノン様!」


 部屋を盛大に開けながら叫ぶが、予想通りそこにカノンはいない。

 だが、侍女がベッドメイクをしていたのか、大きな声にびっくりしたようで、体を固めこちらを見据えていた。


「カノン様は何処へ?」


「あ~、はい……少々街を散歩したいと馬車でお出かけになりましたが……」


「私がいない事に不審に思わなかったのか?」


 ちょっとだけきつく言いすぎた、と言ってから気が付いたが、今は急いでいるので頭の隅に放り投げる。


「……カノン様が、オクト様は少々体調がよろしくないと……」


 侍女は目を泳がせながら言う。

 仕方が無いかもしれない、主人に言われてはどうしようもない。

 否と言えるのはごく一部の者だけだ。


「くっ!」


「申し訳ございません!」


「気にしないでください、貴女方ではカノン様を諫められないでしょうし、仕方がありません」

 

 頭を下げる侍女を起こしながら慰める。

 カノンを見つける事が先だが、これからの事も考えフォローする。

 

 それにカノンの居場所はきっとグローリア礼拝堂だ。

 急いで馬厩に向かい、いつも乗っている相棒の馬オーバにまたがる。


「オーバ、出来れば急いでください」


 オーバの首を撫でながら言う。

 こちらの言葉が分かってくれたのか、こちらを一瞥して歩を進め、凄い速さで走り出す。


 街中を疾走する、きっとカノンは聖歌隊に入る試験を受ける気だと思う、そして今日がその日なのだろう。


 急ぎグローリア礼拝堂へと向かっていたのだが、目的の礼拝堂が見えた所で、信じられないほどでかい声が聞こえ、その声と共に礼拝堂のステンドグラスが割れたのか、ガラスの欠片が礼拝堂を中心にして周囲に飛び散っている。

 様々な色のガラスの破片が、周囲に降り注ぎ、その破片が日の光で煌めき幻想的な光景が広がっている。


 そんな幻想的な光景を見て、少しだけ呆けてしまったが、そのでかい声はきっとカノンの本気の声だと咄嗟に理解し、怯えるオーバから飛び降り、グローリア礼拝堂に自分の足で急いで向かう。


 当然道行く人達は、その音と礼拝堂のステンドグラスが割れた事に驚いたのか、ガラスが降り注ぐ中で固まっている。

 礼拝堂周囲に人が少なかったのは不幸中の幸いだと言える。


 そんな人達を横目で見ながら急いで礼拝堂に入ると、数人が倒れている中、その中央で涙目をしながら佇んでいるカノンがいた。

 だが、ウィッグを付けているのか髪が長く、化粧もしていて見た目がいつもとは全く違う。

 シンフォニアがいた場合、見バレすると思っての対応かもしれないが、この場合は運が良かったかもしれない。


「逃げますよ!」


「え? 逃げるの?」


「こんな事を起こした張本人にだとバレるのは……さすがにまずいです」


「でも……」


 そういうカノンの周りには、あまりの声の大きさに気絶したであろう人達が床に倒れ、一部は座ったまま気絶している。

 倒れている人達を心配するようにカノンが見つめている。


 気持ちは分かるが、この惨状を説明するにはカノンが普通じゃないという事を説明する事になる。

 それはご両親の意志に反するし、私の意志にも反する。


 かなりの惨状と言えなくも無いが、カノンの為と思えば何も問題ない。

 まずは逃げる事を第一に考えるべきだ。

 困惑しているカノンを小脇に抱きかかえ、裏口へと走る。


 表には人が集まってくる声が聞こえ、私達の周囲に倒れている人にも起きそうな人もいるようだった。

 なんとか人に見つからないようにグローリア礼拝堂の裏手から逃げ出し、落ち着いたところで小脇に抱えたカノンを降ろす。


「カノン様……馬車はどちらに?」


「……礼拝堂から離れた場所に停めてある」


「まずはそちらに行きましょうか」


 カノンがつけているウィッグを取り外し、着ている上着をカノンの肩に掛けて馬車へと向かう。

 その道中に私が何も言わない事に耐えられなかったのか、カノンが聞いてくる。


「怒って無いの?」


「察しはついていますから」


「もっと大きな声で歌いなさいって言われて……」


「分かっていますよ、ですが……私を簀巻きにした件については旦那様にご報告いたします」


「ぐぅ……だってオクトに言ったら絶対引き留めるじゃない!」


「当然です」


 基本的にはカノンのやりたい事に口出しはしないが、周囲に被害が出そうな場合に限りカノンの行動を止める権利をご両親から頂いている。

 

「そんなだからよ! 試すくらい良いじゃない!」


「お気持ちはお察ししますが、カノン様の体は少々常人とは違いますので……」


「……なんで私ばっかり我慢しなきゃいけないのよ!」


 憤っているが声量は抑えてくれている。

 教育の賜物だが、基本的には本気の声を出す事は無いし、今までも出したことが無い。

 だからこそ今日の参事が起きてしまったのだ。


 それに少々可哀想だが、カノンの声では歌を歌うのは難しいのだと思う。

 あまりにも音域や声量の幅が広すぎて、ご自身ではコントロール出来ないからだと私達は思っている。

 抑えている力や声量、肉体的な事全てに手加減が必要なカノンにとっては、この世界は脆すぎるのかもしれない。


 力がありすぎるゆえに、逆にカノンを苦しめている。


「抑えている力を見られれば、人とは違うカノン様を恐れて人が離れてしまいます」


 人と違うというのは、壁を作りやすい。

 カノンが男性であれば、武を極め不世出の武人になったかもしれないが、カノンは女性なのだ。

 出来る限り娘に平穏な生活を過ごして欲しい、とご両親も考えて普段は力を抑えるようにと教育してきたのだ。


「うう……わかってる!」


 何とか納得してもらい馬車に戻り、乗り捨てた馬のオーバを口笛で呼び寄せて帰路につく。

 屋敷に着くと、すぐさまご両親に起こしてしまった事件の話を伝え、今後どうするのかという協議をする。


 カノンについてはあまり怒る事も無く、少しだけのお小言で終わった。

 私達は甘いのかもしれないが、カノンが我慢している件もあるので、仕方が無い事だと自分達に言い聞かせていた。

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