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第十四話 セレネの憂鬱

 暗いステージにスポットライトが照らされ、一人の女性が姿を現す。

 そこには、白銀の長い髪の色白の女性が佇んでいる。

 瞳の色は碧眼で、まるで宝石のエメラルドのような蠱惑的な色で輝いている。

 まるで存在自体が人を惑わす精霊のような女性。

 その女性は静かに目を閉じ口を開く。




 皆さま、お久しぶりでございます。聖歌隊首席でしたセレネと申します。

 今回はわたくしがお話を進めていきたいと思います。


 誰? と思う方も多いと思います。

 わたくしは第一話に出ていた、カノンちゃんの幼馴染のシンフォニアちゃんと一緒に歌っていた二人のうちの一人です。


 今回のお話は、そんなわたくしの視点からのカノンちゃん達の事を語っていきたいと思います。


 そうですね……わたくしは、ただただ歌う事が好きだったのです。

 神の采配なのか偶々の偶然なのか、わたくしは神の声を持っている事に気付きました、ならばと思い厳しく抑圧された家を出て、聖歌隊に身を寄せました。


 ですが、わたくしが思っていたより聖歌隊では好きな歌は歌えず、歌いたい時に歌えないというストレスは、わたくしに不満を募らせることになるのです。


 では、わたくしが色々な事を覚悟した時のお話を細かく話していきましょう。


 あれは……フランソワ子爵に乞われ、クープランの街のいろんなステージで聖歌を歌い終わり、一緒に来たシンフォニアちゃんと宿の一室でまったりしている時でした。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





 既に日は沈み、夜のとばりが下りている。


「今日も忙しかったですね」


「そうね、シンフォニアちゃんも、ちゃんと喉のケアをしないと痛めるわ、気を付けてね、はいどうぞ」


 ハーブティーを二つ淹れ、一つをシンフォニアに渡す。


「あっ、ありがとうございます!」


 嬉しそうにシンフォニアが受け取り、私は自分の分のハーブティーを持って、ゆったりとしたソファーに座り、のどを潤す。


 この部屋は私とシンフォニアしかいない。

 二人ずつ三組に分かれ、一組一室の高級な部屋をあてがわられている。


 クープランの街に来たメンバーは全員で六人。

 シンフォニアはまだ少女といえる年齢と、名家の貴族令嬢という肩書もあり、あまり他の四人とは反りが合っていないように思える。

 ただ、聖歌隊首席である私には懐いてくれているので、私が引率している。


 もともとは聖歌隊まとめ役のムニア女史が歌の指導をしていたのだが、彼女は恩師からの要請により、お休みを取って旅に出ている。


「はぁ……」


「セレネ様、お疲れですか?」


「いえ、そういうわけではないのよ」


 疲れている訳では無く心労が溜まっているだけだ。

 その心労は、体の疲れからでは無く、自由気ままに歌えない事が要因になっている。


 勿論、聖歌を歌う事は嫌いではないが、100%聖歌のみだと流石に不満が貯まる。

 もっといろんな歌を歌いたい、というのが私の本音だ。


 それに、クープランの街では、フランソワ子爵の要請により、歌う場所も選定されている。

 ほぼ見世物の様に、ステージが設置されてあり、当然観客がいる。

 アンデッドを浄化する為にこの街に来たのに、ただの興行になっている現状は、どうも心にしこりが残っているようで気持ちが悪い。


 折角、家に押し込められる生活から逃げ出したのに、またもや頭を押さえつけられて歌う曲を強制されているのはどういうことなのだろう。


 有名であるために周囲から見られ、観察される存在である聖歌隊では、気軽に楽しい歌など歌えない。

 あくまでも敬虔な神の信徒として、荘厳さと神々しさを周囲に感じさせる責務がある。


 多少の事は許されるだろうが、聖歌隊首席である私が、街中をスキップしながら鼻歌を歌い、大通りを練り歩く事はさすがに許されない。

 きっと品性に欠けると噂され、司祭などからお小言を貰える事間違いなしだ。


 ただ、全てが悪い事だけではない。

 聖歌を歌うだけである程度自由に生活が出来るのだ。

 実家の変な横やりも封殺出来ている。

 歳を取れば、嫁ぎ先を口出ししてくる可能性はまだ残っているが、今の所それは無い。

 聖歌隊首席という功績が、実家の力を跳ね除ける力になっているようだ。


 ここまで語った私の願望を要約すれば、【好きな歌を本気で歌って自由に生活したい】だ。


 長々と説明して、一文に収められる私の願い。

 簡単なようで難しい。


 それに私には、本気で歌えない理由がある……


 再び溜息がでてしまう。

 これ以上溜息を出さない為に、考えても仕方が無い事を、頭の隅に押し込める。


 私と同様にソファーに座っているシンフォニアを見ると、嬉しそうにハーブティーを飲んでいる。

 このハーブティーは、私が個人的に調合してもらったものだ。

 市販はしていないので、珍しさもあって嬉しいのかもしれない。


 そんなシンフォニアを見ていると、ほっこりと心が温まる。

 こんな日も悪くは無いかと思いながら、ティーカップを手に取り、ハーブティーを口に含んだと同時に……


『私 達 の 歌 を 聴 き な さ い !!』


 その大音量の声は、窓ガラスをビリビリと振動させ、建物が軽く軋む音が聞こえるほどだった。

 驚きのあまり、思わず口に含んだハーブティーを、「ブー!」と噴き出してしまった。淑女としてはあるまじき行為だ。


「えっ!? あっ……何この声は!」


 シンフォニアが私の痴態に戸惑い、改めて慌てながらでかい声に言及する。


「これは……【天の歌声事件】の声ですわ!」


 自分の痴態を放り投げ、件の事件を思い出す。

 あの信じられない声量の犯人がこの街にいる。


 【天の歌声事件】の時は、空から歌が降り注いでいた感じで、歌っている場所がまったく分からなかったが、今回は明らかに近くにいるような声の大きさだ。


 これは犯人を見つけるチャンスかもしれない。


「わたくしは、この声の者を探します!」


 それだけをシンフォニアに言うと、急いで部屋を後にする。


「あっ! 私もついて行きます!」


『私 達 は 聖 な る 兎 の 音 楽 隊 !』


 シンフォニアの声が聞こえた気がしたが、外から聞こえるでかい声にかき消されて良く聞こえなかった、それよりもこの声の犯人を知りたい、という好奇心が優先される。

 途中で護衛役の者が廊下にいたが、邪魔だと振り切って宿から出た。


 歌を歌うのは体力や筋力もいる、鍛えている私がそう簡単に捕まるわけがない。


 丁度宿の外に出た時に、歌が始まった。



 【Old Church Choir】 (改変ありの訳です)


 復活が周囲に広がる

 私の歓喜の心が皆に燃え広がっていく

 日曜の朝から始まり、一週間続くほど


 聞こえる?

 感じる?

 この歓喜の歌のリズムが

 ああ、一度掴んでしまったら、抑えきれなくなる

 誰も、誰も私の喜びを奪う事なんて出来ない


 私には昔の聖歌隊の魂があるのよ

 それは素敵な救い、そしてそれは美しいもの

 心は溢れるばかり

 誰も私の歓びを奪うことなんてできない

 そうよ、誰も私の歓びを奪うことなんてできないわ


 深い谷にいても

 さまよっていても

 山の頂に目を向ける

 ああ、あなたは私と共にいる、ひと時も離れたりしない

 誰も、誰も私の歓びを奪うことなんてできない


 私には昔の聖歌隊の魂があるのよ

 ステキな救い、それは美しいもの

 心は溢れるばかり

 誰も私の歓びを奪うことなんてできない

 そうよ、誰も私の歓びを奪うことなんてできないわ


 手を叩いて

 足を踏み鳴らし踊ろう

 そのゴスペルのビートを見つけるまで

 だってそれこそが、これから先ずっと必要なもの


 手を叩いて

 足を踏み鳴らして踊って

 そのゴスペルのビートを見つけまで

 これから先ずっと必要なもの

 一番大切なものなんだ


 私には昔の聖歌隊の魂があるのよ

 ステキな救い、それは美しいもの

 そのゴスペルのビートを見つけるまで

 ステキな救い、それは美しいもの

 心は溢れるばかり


 誰も私の歓びを奪うことなんてできない

 そうよ、誰も私の歓びを奪うことなんてできないわ




 ああ、なんて心地よい歌詞とリズムなんだろう。

 聖歌は荘厳であったり、背筋がピリッと伸びるような曲が多いが、この曲は自然と体を動かしたくなる。


 歌の中心人物のリズム感と音程は酷いが、【天の歌声事件】の時よりだいぶましになっている気がする。

 それでもありあまる声量と表現力、不思議な魅力があるのは確かだ。


 心の底から楽しそうに歌っているのがこちらに嫌でも伝わってくる。

 歌が上手い下手なんて所詮は他人の評価だと、聴衆に真正面から問いかけているようだ。

 早くどんな人物が歌っているのか見てみたい。



 私が居た宿は第二区画の中央部分だ。

 歌声は、第二区画と第三区画の間にある壁の上から聞こえる。

 遠くに見える壁の上に、数人の影がちらちらと建物の隙間から見える。


 どうやら今は、第三区画の方を向いて歌っているようだ。

 だとしたら、こちらは後ろ側で、この声のでかさと言う事になる。

 信じられないとしか言いようがない。


「セレネ様!」


 後ろを振り向くと、シンフォニアが馬に乗って駆けてきた。

 確かアンプロン家の侯爵令嬢だったはず、という疑問が頭に浮かぶが、そんな疑問は投げ捨てて、これ幸いとシンフォニアの後ろに飛び乗る。


 シンフォニアもその為に声をかけてきたようで、難なく呼吸が合った。


「行きますわよ!」


「あっ、はい!」


 シンフォニアから手綱を奪い、馬を駆って件の人達のいる壁に向かう。


 壁の下についた頃には、歌は終盤に入っていた。 

 当然そこには何事なのかと、原因の人物達を見ようと人だかりが出来ていた。

 そんな人たちの後ろに紛れ、馬上から歌っている人達を見ると、壁の上には派手な格好で顔を隠し、変装した女性が四人いた。

 どう考えても一般人ではないのは一目見ればわかるので、誰も声をかけない。というか会話が出来ない。


 金色のうさ耳を付けた子は、それはそれは楽しそうに踊り? のような動きで自由気ままに歌を歌っていた。

 歌のリズムが外れようが、踊りのリズムがあって無かろうが、そんな事はまったく気にせず歌い踊る。

 本当に楽しそうだ。

 そんな人物が、このばかでかい声量を誇っている、ある意味この事件の中心人物だろう。


 その子の横にいる緑の帽子の子も、金色のうさ耳の子と同様に、踊りたいように体を動かし、楽しそうにバイオリンを弾きながら歌っている。かなり器用だ。


 そんな二人とは対照に、白いうさ耳の妙齢の女性と、丸い耳のグレーの妙齢の女性は、楽しそうな二人の後ろに隠れ一人は恥ずかしそうに、一人は心ここにあらずという風に歌っていた。


「ラ~ラララ~ラ~……あっ!」


 思わず一緒に歌いたくなりハミングしてしまう。が、直ぐにその危険性を思い出し歌うのを辞める。


「どうされたのですか?」


 歌い出して直ぐ辞めた私に疑問を持ったのかシンフォニアが尋ねてくる。


「いえ、何もありませんよ」


 そうシンフォニアの耳元で囁く。

 こそばゆいのか、シンフォニアが身震いするが仕方がない。


 それもそのはずで、周囲では、「何だ、誰だ、音痴だ」と話し合おうとしているが、歌声がでかすぎて会話が出来ないのだ。

 こちらを向くたびに耐えがたい声量に全身が揺さぶられ、思わず耳を塞いでしまう。


 彼女達の歌声を全身に浴びているとコリがほぐれそう、というしょうもない事が頭に浮かんでしまった。


 高い場所で、街中に広がる様に歌っているからこの程度だが、真正面からまともに受けると鼓膜が破れる可能性もあるかもしれない。


 やがて歌が終わり、つかの間の宴が終わる。

 ならば声をかけるチャンスだと思い、馬上から声をかける間をはかる為に観察する。

 白い人は、衆目を集めている状況に、恥ずかしそうにもじもじしているが、グレーの人物は空を仰いで微動だにしない。

 金色のうさ耳の子と、緑の帽子で緑の服の子の二人だけが、きゃっきゃうふふと小声で話し合っていた。


 馬上のまま前に座っていたシンフォニアが静まり返ったこの場所で、首を傾げながら、まさかまさかという風に疑問を口にする。


「……カノン? 貴女、カノンよね?」


「カノン? 誰ですか?」


 思わず聞き返すが、シンフォニアは私の質問には答えず、壁の上に居る四人に視線を固定している。

 誰だ? とは言ったが良く考えると聞いたことがある名前だな~と、思い出そうと思案していると、シンフォニアの言葉に金色のうさ耳の子が反応する。


「ちっ、違うわよ!」


 狼狽した金色の子の動きを、シンフォニアが観察の為なのか目を真ん丸にして凝視している、やがて何かわかったのか、ふむふむと納得して口を開く。


「……いや、その声、その動き、その姿形、カノンだわ!」


「どこをどう見て私だってわかるのよ! シン……」


「あっ、駄目です!」


「むがー、むごむぐ!」


 白いうさ耳の人物が慌てて金色のうさ耳の子の口を手で塞ぐ。


「ふふっ、語るに落ちたわね!」

 

 シンフォニアが勝ち誇った顔で、金色の子に向けて指を差す。


 白いうさ耳の妙齢の女性と、グレーの丸い耳を付けた妙齢の女性が頷き合い。

 まだ少女であろう二人を、一人ずつ小脇に抱え、マントを翻し、脱兎ごとく逃げ出す。


「あー! こらー! まてー!」


 シンフォニアが叫ぶが、逃げて行った先は人が多すぎて馬を走らせられない。

 事の成り行きを黙って見ていた民衆も、逃げた四人の女性を見送りながら口を開く。


「何だったんだ……」


「いや、あの服みただろ? どうかんがえても貴族の道楽だろう」


「おれ知ってるぞ、【天の歌声事件】ってのが王都で起きたんだが、音痴だが神の声を持ってるらしいぞ」


「じゃあ第三区画のアンデッド達は浄化されたのか?」


「それが事実なら僥倖だな」


「そういえば、スカーバラの街でも騒ぎを起こしたって噂を聞いたぞ」


「その騒ぎも【聖なる兎の音楽隊】と名乗っていたと小耳にはさんだ。正しいかはしらん!」


「いったい何者なんだ……」


「そういえば、なんかそっちの子がカノンって名前で呼んでたぞ!」


 わいわいと集まっていた人達が意見交換をしだす。

 やがてあの謎の人達を知っているだろう、私達に目線が集まるのは当然の結果だった。


「逃げますわ!」


「えっ、あっ、はい!」


 強引に馬を動かしこの場から逃げ出そうとするが、人が多すぎて直ぐには移動出来なかった。

 そんな私達に声がかかる。


「こらっ! 止まりなさい!」


 どうやら衛兵もこの場に来ていたのか、軽鎧を着た兵士数人が私達を逃がさないように囲む。


「歌を歌っていた人達に心当たりがあるなら、我々に協力してもらおうか!」


 どうも逃がしてくれそうにない。

 協力するのは良いが、正直に告げるのは若干抵抗がある。

 それに、懐にいるシンフォニアが、ことの重大さを感じたのか私の服をぎゅっと掴んでいる。

 きっと幼馴染の事を思っての事だろう。

 あの規格外の声量だ、貴族令嬢だとしても噂は簡単に広がり、珍獣扱いになる可能性もある。


「言う事を聞いてくれるなら、手荒なことはしない」


 衛兵の一人がそんな事を言ながら距離を詰めてくる。

 問題はそこではない。


「ふぅ……仕方がありませんね」


 覚悟を決め、先ほど【聖なる兎の音楽隊】が歌っていた歌を、感情を込めて本気で歌う。

 いつ以来だろう、本気で歌を歌うのは……


 私の歌を聴いた周囲にいる者達の目が、力が抜けるように、とろんとなる。


「ふぁあ……」


 懐にいるシンフォニアが全身を弛緩させ、私の体に寄りかかり緩い声を出す。


「さあ、わたしくしの為に道を開けてください」


 適当な箇所で歌うのを止めて、周囲の人々にはっきりと聞こえる声でお願いする。

 皆は私の声に逆らうことなく道を開け、馬が通れるだけの道が出来る。


「お耳汚し申し訳ございません」


 それだけを口にして、その場を後にする。



 馬を軽く走らせ宿に向かう中、カノンと呼ばれていた少女の事を考える。


 あの声量は、普通ではありえない。

 もしかしたら私と同じように異能によって、あの声量を獲得しているのかもしれない。


 あの子と一緒に歌を歌いたい。きっと私の異能など吹き飛ばせるだけの力がある。

 何も考えず、頭を空っぽにして、子供の様に声を張り上げ、何者にもとらわれず自由に自由な歌を……


 そう思うと、簡単に決心がついた。

 馬上から宿に戻る道中に懐の中にいるシンフォニアに尋ねる。


「シンフォニアちゃん、カノンって子はこの前王都で会った子?」


「はえ……あっ、そうです。まあ、私の幼馴染みたいなものです」


 まだ頭がすっきりしないのか、反応が少し鈍い。

 しかし、肝心な答えは得る事が出来た。どうやら思い出した人物で合っているようだ。


「……わたくしは、聖歌隊を辞めようと思います」


「あー、はい……え! 辞める!?」


「はい、確かそのカノンちゃんはアンティフォナ家の令嬢でしたよね。明日にでも泊まっている宿を尋ねてみる事にします」


「ええええええ! 駄目ですよ! セレネ様は聖歌隊首席ですよ? 絶対引き留められます! それに、カノンは頭は良いけど馬鹿だし……」


 それは何となくわかる。

 普通の人の思考では、あんな恰好をして、人前に出て歌を歌う事を考えつかないだろう。


「いえ、わたくしは決めました。もっと自由に歌を歌いたい」


「でもでも……カノンやアンティフォナ家の人は隠しているけど、カノンは普通の人とは違いますし……」


 シンフォニアがそこまで言って、言い淀む。

 それでも普段通りにカノンと接しているシンフォニアは、本当に良い子だと思う。

 きっと私の事を思って、口にしたくない事を言葉にしているのだろう、そんな気持ちがこちらに伝わってくる。


「心配してくれているのですね。ありがとうございます。でも、わたくしも同じようなものなのです」


「それは一体どういう……」

 

 意味が分からないと、シンフォニアが首を傾げる。

 そんなシンフォニアに誤魔化す様に笑顔を向ける。


 貴女は既に私の本当の歌声を聴き、魅了されたのですよ、そう伝えたかったが言葉が出なかった。



 私は、幼い頃に歌の表現力を上げようと模索していると、歌声により人を魅了出来る事に気付いてしまった。

 最初は凄い異能だと喜んでいたが、それはそんなに良いものでは無かった。


 本当の歌声の評価が分からない。本気で歌を歌えない。いや、聴衆達を気にしなければ歌えるが、さすがに歌えない。これはもう呪いと言っていい。


 聖歌隊首席なのも、漏れだした魅了の力でなったように感じる。

 確かに技術は磨いてきた、でも聖歌隊の中には技術に秀でた者は多くいる。


 そんな人たちを抑えて私が首席なのが信じられなかった。

 いつも心にもやもやがあった。

 いつからだろう、歌う事に喜びを感じられなくなったのは……


「ごめんなさいね、シンフォニア……わたくしは、自分の歌を取り戻したいのです」


 私のその言葉を聞いたシンフォニアはそれ以上口を開く事は無かった。


 貴女を残していく私を許して欲しい。

 自分のエゴを優先する私を許して欲しい。


 そんな言い訳がぽんぽんと頭に浮かぶ。

 どうやら私は、シンフォニアの事を存外、気に入っていたようだ。


 無言のシンフォニアと共に、自分達が泊っている宿へと向かう。

「Old Church Choir」

アメリカのクリスチャン・ロック歌手、ザック・ウィリアムズ(Zach Williams)セカンドシングル曲

2017年に公開された曲です。

海外の聖歌隊では歌われているようです。

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