表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/15

第十三話 クープランの街の事情

 皆さまお久しぶりです。

 そろそろタイトルを「護衛兼従者オクトの災難」に変更したいと思っているオクトです。


 はい……申し訳ございません……調子にのってしまいました。


 では、気を取り直して続きを語っていきたいと思います。


 宿に帰ってからでしたね。

 その後何事も……いえ、カノン様の不思議な踊りを見せつけられ、疲労困憊した私は、その日起きた記憶を封印するかのように眠りにつきました。


 眠っている間、変な気配を外に感じたりもしましたが、襲撃してくることはありませんでした。

 ええ、警戒しながらの睡眠でしたから、当然あまり眠れず、そのまま日が昇ってしまいました。


 あの糞女……失礼、エウテは自分の睡眠を削ってまで私に嫌がらせをするとは何を考えているのやら……理解に苦しみますね。

 

 やっと朝と言うべきか、ようやく朝になったと言うべきか悩ましいですが、私の心情など関係なく時は流れ、朝を迎えました。

 疲れたままの私の動きが精細に欠けていたのか、皆に不審な目を向けられながら馬車に乗り込み、次に滞在する予定の街へ向けて出発したのです。



 今回の私の不幸な話はあまり多くない気がします。

 苦行は確かにありましたが、カノン様の方が追い込まれていた、と言えるでしょう。


 では珍しく苦境に立たれたカノン様のお話の続きを細かく語っていきましょう。

 え? 嬉しそう? ……いえいえ、そんな事はありません。ありませんとも……





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





 ノイエの街を離れ、街道を馬車でゆったりとひた走る。

 カノンは昨晩の踊り疲れもありぐっすりと眠っているので、暇つぶしに窓から外の風景を見る。

 

 視界に入る街道は、明らかに人や馬車が少ないのか、まったくすれ違わない。

 たとえ、きな臭い国境の近くだとしても、ある程度は旅人や商人はいる。


 それが居ないとすれば、何かあったのか、それとも偶々すれ違わないだけなのか、理由は当然分からない。考えても無駄なので心に棚を作り、そんな心を癒すために景色に集中する。


「オクトさんは……眠らないのですか?」


 やんわりと揺れる馬車の後部座席を独占し、柔らかいクッションに体を埋めて眠っているカノンを見ながら、ローレインがそんな事を言いだす。


「どうしてそんな事を聞くの?」


「あのですね……その……目の下に隈が‥…」


「化粧でなんとかごまかせると思っていたのですが、やはり隠し切れませんでしたか」


「やっぱりエウテという方が原因ですか?」


「ふぅ……そうですね。夜に変な気配が外から漂ってくる度に警戒していたから、少し睡眠不足です」

 

「あの女性は夜中にそんな事をしていたんですね」


 はにかみながらローレインが答える。


「きっと今頃あいつも寝不足だからいい気味です」


「ははは……」


 夜が明け街を出てからエウテの気配を感じない事に安堵していたが、話していると段々不安になってくるのは何故だろう。

 流石に追ってこないだろう、と思うが、どうもあの変人の行動を読みきれない。

 だからこそ不安が募ってしまう。


「あの人、ついてきそ……」


「怖い事を言わない!」


 咄嗟にローレインの言葉を遮ってしまう。こちらも同じ事が頭に浮かんでいたせいで口調がきつくなってしまった。

 そんな私の剣幕に驚いたローレインが謝罪を口にする。


「……ごめんなさい」


「ああ……ごめんなさい。頭に浮かんだ時に言われたから、つい口調が……」


「いえ、私こそ……」


 ローレインが悲痛な顔をする。


「いやね、そこまで深刻な事じゃないから、あまり変に考えないでね。ただただエウテが気持ち悪いってだけだから」


「わかりました」


「あと、エウテの話はもうやめましょう」


「あっ、はい」


 ローレインが苦笑いで返事をする。

 その返事に頷き、溜息をつきながらローレインに言う。


「さて、風景でも見て傷ついた精神を癒しましょうかね」


 お互いに窓の外に目線を動かす。


 そろそろ次の滞在地へ着くころだ。

 馬車はの周囲には畑が広がっており、人の営みを感じられる。

 神がつくりたもうた自然は、ただただ美しいが、人が作り上げ整備されたた田園もまた違った趣がある。


 やがて街壁が見えてくる。

 ようやくこの旅も折り返し地点だな、と思い街道の先にある門へと目を向ける。

 すると、そこには普段では見られない光景が広がっていた。


「あれは……」


「オクトさん、何かあったのですか?」


「……門の近くの街道脇に簡易テントがかなりの数が張ってある。もしかしたら街に入れないのかもしれない」


「う~ん、街に入れないなんて伝染病が流行った時ぐらいしかありませんでしたけど……」


 まさかそんな事は、という感じでローレインが言う。

 旅をしていた経験則から思った事を口にしたようだが、当たりのような気もする。


「ああ……そのもし、が、もし、じゃ無かったら、早くこの場を離れないといけませんね」


 先行しているメイが早馬で現れない時点で、そこまで深刻では無いとは思う。

 だとしても、もし不安要素があるのであれば、無理してもう一つ先の街か宿場に行くことも想定しなければならない。

 

「まあ、取りあえずは話しを聞いてからその後の対応を決めます。離れる場合は最悪、先にある宿場まで行くことになるでしょう、今のうちから覚悟しておいて下さい」

 

「わかりました」


 ローレインはマチと交代で御者をしているので、仕事が終わらない覚悟をしてもらう。

 急に追加される仕事は、確実に精神にくるからだ。

 そこからミスを起こすのは定番と言える。


 ローレインは覚悟を決めたのか、両こぶしを握り自分にガッツを入れている。

 まあ、まだ残業があると決まった訳では無いのだが、その気概を削らないようにそっとしておく。



 もうすぐ着く街の名はクープランの街だ。

 この街を語るにはまず特殊な内部構造を説明しなければならない。


 普通に街壁が街を覆っているのだが、内部にも仕切りのように高い壁が作られており、住む場所が完全に分けられている。

 第一区画には貴族が、第二区画に商人や富裕層が、第三区画は平民の三つに分かれて街が作られている。

 他の街でも同じように貴族、富裕層と平民は住む場所が区切られてはいるのだが、高い壁を作るほど分断されているわけではない。

 

 それは当然意識にも反映されている。

 明確に線引きされたこの街は、人々にも根深く差別意識を助長させている。

 第一と第二区画に住んでいる者にはいい街だが、平民にはいい街とは言い難い。



 今目の前にあるのは平民用の門だ。

 街壁に沿って北に向かえば貴族用の門がある。

 何も問題がないならこのまま平民用の門に入って、街中を突っ切る方が早いのだが……


 前にある小窓を開け、御者台にいるマチに声をかける。


「マチ、安全を取って脇道に入り、貴族用の門まで向かってください」


「わかった。さすがにあの簡易テントだらけの門に入るのは勘弁だから助かる」


 強引に街道を逸れて脇道に入り北に向かう。

 街道は貴族用の門まで続いているが、街壁に沿って続いておりその道の両脇に簡易テントが多く張られている。

 さすがにその間を通るのは、街の外に留まっている理由が伝染病だと色々とまずい。


 街道ではない脇道は、整備があまり行き届いてない為、馬車が大きく揺れ、振動もでかくなる。


「な、なにごと?」


 その揺れや振動で、睡眠を妨害されたカノンが飛び起きる。


「クープランの街の門まで来たのですが、少々問題がありそうですので、貴族門に向かっています」


 私の説明を、寝起きの頭に理解させるまで数秒考え込んだカノンが疑問を口にする。


「貴族門まではしっかりした街道があったはずでしょ?」


「その近くに問題がありますので、その手前から脇道に入り強引に貴族門へ向かっています」


 カノンが馬車の窓に張り付き、門の方を凝視している。

 何かが起こっているのは確実なその状況を見たカノンの口角が、少しづつ上がっていくのを見てしまった。

 どうやらカノンの好奇心に火が付いたようだ。正直この街をスルーしたい。

 門兵に話を聞いて、問題がありそうなら想定通りこの街には泊まらずに、先にある宿場まで行こう、そうしよう。


「あっ、やっぱり事件のようね。テントの所に居た人がこっちに走ってくるわ」


「えっ?」


 カノンが見ている窓に一緒に張り付いて、門の方を見ると青年がこちらに向かって走ってくるのが見える。

 どうして事件が向こうからやってくるのかと、知っている神に小一時間問いただしたい気持ちで胸がいっぱいになる。


「すみません! 話を聞いてもらえませんか!」


 そう叫ぶ青年の身なりは良い。

 だからどうしたと、私達を巻き込むなと彼に言いたい。


「オクト、何か叫んでるけど」


「あの身なりであれば、こちらが貴族だと分かるだけの知識は持っていそうですが……」


 普通の傲慢な貴族なら確実に処刑される案件だ。

 一体何を考えているのやら……と思うと、私も理由が知りたくなってきてしまった。


「それだけ必至なわけね」


「何事か気になりますが、門兵に聞けば良いだけですので、危険を冒してまで聞く意味は無いかと」


 そもそも危険はあるのだろうか、という疑問はあるが、普通の貴族令嬢として扱いたいのでカノンの強さを考えた行動は出来ないししたくはない。


 いまだにかんばってこちらを追いかけてくる。

 斜めに移動している私達の馬車に対して、街壁の傍にある道を走っているので、追いついてきそうだ。

 こちらは乗り心地を優先しているので、それも追いつけそうな要因の一つだろう。


「止まりなさい!」


 マチの叫ぶ声が聞こえる。

 さすがに無視できない距離まで近づかれたようだ。体力と根性だけは認めてあげて良いだろう。


「頼みます! 話を!」


 青年が息も切れ切れに叫んでいる。


「オクト、どんな事を聞かせてくれるか興味があるわ」


「……はい」


 止めるのが護衛兼従者としての務めだが、こうなってはカノンが引く事は無いだろう。

 基本的に、アンティフォナ家を貶める行為と、人の命に係わる事以外には本気で止める事はしない。

 ある程度のストレスを常に抱えているカノンを、頭ごなしに抑え込むのは、爆弾を箱の中に入れるだけで解決にならないからだ。

 小さな爆弾ならば抑え込めるだろうが、大きな爆弾は箱ごと爆発して箱もろとも破壊するだけで周囲が被る被害は尋常ではない。


 仕方が無いか、と御者台側にある小窓を開け、マチに声をかける。


「マチ、止まって下さい」


「いいの?」


「話を聞きたいそうです」


「そう……」


 いつもの事か、という表情しながら手綱を操作して馬車を止める。

 それを見た青年は安堵して走るのを止め、息を整えながらこちらに近づいてくる。


 馬車が止まり、ローレインは馬車に残し私とカノンが馬車を降りる。

 ローレインを馬車に残すのは、足手まといを外に出したくないからだ。

 まあ、何から守るのかといえば、暴れたカノンからになるのだが……


 そんな不謹慎な事を考えながら青年の前に立つ。

 病原菌持ちかもしれないので、カノンの前に私が立つ。 


「はぁ、はぁ……すみません……どうしても、話しを聞いてほしくて」


「それで一体どんな面白い事を聞かせてくれるの?」


 カノンがにやにやしながら青年に聞く。

 正直その態度は、シリアスな話だった場合凄く不謹慎だと思う、が、カノンの立場上関係ない。

 こんな令嬢に育ててすまない、と青年に心の中で謝罪する。


「ああ、すみません、僕はラヴェルと言います。貴族の方だと重々承知していますが、どうしても話を聞いてほしいのです」

 

「知ってて止めるとは、自殺でもしたいのですか?」


 この若者は馬鹿じゃないのかと思い、つい本音がぽろっと出てしまった。

 ラヴェルもそれは分かっているのか、急に膝を地面につく。


「僕は、アンティフォナ領で馬車作りをしている技師です。僕の手がはいった馬車は全て覚えているので、この馬車がアンティフォナ家の方が乗っていると思い、止めました」


「だとしても、止める理由になっていないと思いますが……」


「そうです。ですがアンティフォナの領主であるヴァイス様は怖い方ですが、平民の声も聞いてくれる良い領主様ですので、話を聞いてもらえる可能性に賭けて馬車を止めました。僕の命で話を聞いてもらえるなら安いと……」


 青年が思いつめた顔で真剣にそんな事を言う。

 だがここはアンティフォナ領では無いし、カノンが辺境伯令嬢だとしてもここで出来る事は無い。普通はだが……


「それで何を私に言いたいわけ?」


 なかなか確信に迫らない流れに段々イライラしてきたカノンが、その感情を乗せた声で問う。

 それに気づいたラヴェルが、頭を下げてようやく話の確信を口にする。


「クープランの街の第三区画に、アンデッドが大量発生しています! そのせいで一部の人達が街の中に閉じ込められているのです!」


 はい、いま聞きたくない単語第一位である【アンデッド】が出でしまいました。

 もしかしたらこの噂が近隣の街に草の根レベルで広がっていて、クープランの街に向かう旅人がいないのかもしれい。

 

 まあそれはそれで置いておこう、それよりも重要な問題である【アンデッドの大発生】という事実だ。

 これは色々と逃れられないと腹をくくる、が、くくりたくない。


「それはここの領主である、フランソワ子爵に言う事でしょう」


「それが……被害が多いのがスラム周辺なので、放置しているのです。それに街としての機能が麻痺しているわけでは無いので……もしかしたスラム街の住人を処理出来て好都合と考えている可能性が……」


「それでおじい様にその話を伝えてほしい、と、言う訳ね?」


「はい……それか……」


 ラヴェルが、ちらっちらっと、カノンの事を見ている。

 その目には懇願の色が見て取れる。


「もしかして、今ここに居るアンティフォナ家の者にどうにかして欲しいと?」


「……はい……うごっ!」


 思わずラヴェルの腹に一発いれてしまった。

 【アンデッド】という単語を聞いたカノンの嬉しそうな顔を見ると、その後の展開が容易に想像出来るし、なによりその他力本願な思考が癇に障る。

 今日の夜に起きる事を考えると、確実に貯まるであろう鬱憤を前払いで発散するのは許される行為だと私は強く思う。


「……すみません……僕はただ……この街にいる幼馴染を……救いたかっただけなんです……」


 ラヴェルは蹲りながらそんな事を言う。

 少しだけ力を入れすぎたかもしれないが、謝る気は毛頭無い。


「貴族の馬車を止めるのは今後やらないことです。今回は無礼討ちにされなかっただけ良かったと思いなさい」


「オクトが一般人を問答無用で殴るの初めてみたわ」


 この男性の存在はカノンの教育に良くない。

 時間の無駄にもほどがある。


「馬車に戻りましょう。マチ!」


 マチに声をかけ、馬車に戻る合図をする。

 カノンを馬車に乗せ、私も乗ろうとすると後ろからすすり泣く声が聞こえる。

 少しだけ同情しなくもないが、他人に助けを求めるにしても、もう少し考えて行動して欲しい。


 ラヴェルを無視して馬車に乗り込むと、カノンが扉から顔だけを出す。


「貴方、いいものを見せて貰ったお礼に一つだけ言っておくわ。流しの聖歌隊が来るわよ」


「……流しの聖歌隊?」

 

 蹲り泣いていたラヴェルが顔を上げる。

 なんとなく嘘泣き感が漂ってくる。やはり良い根性をしているようだ。私の同情心を返して欲しい。


「まあ見ればわかるはずよ。それ以上は言えないわね」


 カノンが言い終わると扉を閉める。

 それを合図に馬車が進み始める。


 窓からちらっと外を見ると、ラヴェルが膝をついたまま、茫然とこちらを見つめていた。


「カノン様、今回も……歌うのですよね?」


「当然ね!」


 天を仰ぎ見る。

 ミジンコレベルの希望が泡となって消えていく。

 最初から希望は無かったといえるが、もしかしたらというミクロン単位の可能性が無きにしも非ず……いや、無いか。


「私の変装用の服を夜までに仕立て直さないといけませんね!」


「ふふっ、頑張りなさい」


 ローレインとカノンは歌えることが嬉しいのか生き生きしている。

 若い子の感性は私には理解できない。

 もし私もカノン達と同じ年齢だったとしたら……いや、やはり恥ずかしくて悶絶するのは確実だ。


 カノンとローレインが今夜の予定を楽しそうに話し合っている。

 その話し合いに参加せず目を瞑り流れに身を任せる。

 やがて貴族用の門に着き、街に入る手続き中の待ち時間に門兵に疑問をぶつける。


「第三区画の門の前に、簡易テントを張っている人達はどういう理由であそこにいるのですか?」


「あれはですね……第三区画にアンデッドが大量発生しまして、逃げ出したお金を持っていない平民が街の外の方が逆に安全ということで、門の近くに滞在しているのです」


「何故街中にアンデッドが……」


「先月に第三区画で病が流行り、スラム街の住人が多く亡くなったのが原因のようです」


「それは色々と大丈夫なのですか?」


「はい! 病の蔓延は壁により防ぐことが出来ました。それに第一、第二区画では聖歌隊を招致してアンデッドの発生を未然に防ぎ、浄化していますので安全です!」


 力がこもった返答だった。

 当然かもしれない、お金を多く落とす貴族に街を避けられるのはあまり良い事では無い。

 街の運営に関わる。


 しかし第一と第二しか言及しなかったのは何故だろう。


「第三区画は放置ですか? 何やら閉じ込められている人達もいると聞きましたが」


「いえ……聖歌隊の方々の安全を第一に考えて、少しづつ対応しております」


「そうですか……ありがとうございます」


 聞きたい事も無くなったので、その場を後にしようとすると呼び止められる。


「あのう……閉じ込められている人達がいるというのは何処でお聞きしたのでしょうか?」


「あ~、第三区画の門の前にいる一人の青年に聞きました」


「もしかしてラヴェルという青年ですか?」


「はい、何かあるのですか?」


「その青年はこちらに来て色々と……喚いていた人物ですのでご注意ください」


「わかりました」


 軽く会釈をして馬車に戻る。


 あの青年は私が思っている以上に行動しているようだ。

 しかし、貴族用の門に来て嘆願し、騒いだのにまだ生かされているのは、この街の領主は案外甘い人なのかもしれない。

 だが、スラム街の住人や、第三区画への対応は厳しいと言える。どちらが本当の姿なのだろうか。



 そもそも、アンデッドは徘徊はするが、見つからなければ追ってこない。

 それにゴースト以外なら家に閉じこもっていれば、簡単に回避できる。

 聖水を家中に撒いたり、小さくてもいいので祭壇を作り祈るだけで、ゴーストも家の中に入ってこない。


 聖水は水があれば簡単に精製する事が出来る。

 ただし、聖水の強さは、製造者の信仰の強さに比例する。

 聖水と武器があれば、物理攻撃で強制的に浄化する事も出来るが、アンデッドの集団となれば一般人では無理だろう。


 話を戻すと、アンデッドに襲われない対応は、信仰があれば誰にでも簡単に出来るといえる。

 だが聖水と兵がいれば、アンデッドを一掃できるはずだが、聖歌隊がいるならそちらに任せる方が遥かに安全だ。

 それは何故かと言うと、アンデッドに殺されたものは、アンデッドになる可能性が高いからだ。

 街に有益ではないスラム住人の為に、命を投げ出す兵士はいなだろうし、費用対効果も微妙だ。


 そう考えると、ある意味この対応は、フランソワ子爵がアンデッドの大量発生という事件を使い、民の選別をしているのかもしれない。


 信仰の薄い者は悪に走りやすく、たががはずれやすいし、堕落する事も多い。

 絶対とは言えないし、狂信者という異例もあるから一概には言えない。

 それでも信仰のある者は、出来る限り天国に近づく為に善行を積むという精神がある。

 その違いは大きい。

 

 馬車に乗り込み、メイが既に予約を入れている宿へと向かう。

 今晩も長い夜になりそうだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ