プロローグ
私は一体何をしているのだろうか……私は何処へ向かっているのだろうか……
そんな思春期の時にでも考えてしまいそうな事が頭に浮かび、自問自答しながらなんとか精神を安定させる。
そんな青臭い事を考えている私の恰好はというと……
白い兎の耳と白いウィッグが付けられているイヤーマフを被り、耳元は兎の尻尾の様にもふもふになっている、顔には目元を隠す白いマスク。
肩には真っ白いマントを羽織り、極めつけは白で統一された服。
かなり目立っている、こんな派手な格好をする人物はどう客観視しても頭がおかしい。
まっとうな人間がする恰好ではない。
隣に居る主人が、全く何も意に介さず歌を歌っている。
その姿は私と同じ……いや、もっと派手な格好をしている。
金色の兎の耳に金色のウィッグ、顔には金色の目元を隠すマスク。
肩には金色に輝くマントを羽織り、私と同じで真っ白い服。
月明かりに衣装が煌めき、目立つ目立たない、そんな議論を一蹴してしまう恰好だ。
これはどんな責め苦なのだろうか、羞恥心で心を責める拷問? 恥辱を味あわせて心を殺す拷問?
そう、これは拷問だ、そんな結論が頭の中でくだされる。
主人の歌を導くために私も歌を歌っているが、少し離れた場所で同僚が、私達と同じようなイカれた格好で、衛兵達を私達に近づけないように立ち回っている。
先んじて逃げた同僚には恨めしい気持ちがふつふつと湧いてくる。
出来れば私があの立場に居たかった。
こちらに来たほとんどの衛兵が、主人の信じられないほどの声量の歌に驚き耳を塞いでいる。
確かに主人の歌は音痴だが、人が歌っているのに耳を塞ぐとは何事かと言いたい気分になるが、耳栓とイヤーマフで防備している私が言える立場では無いと考え直す。
そんな状況にもめげずに数人の衛兵が私達を取り押さえようと動いている。
良くこの大きな声の中、普通に行動出来るなと思わざるを得ない。
今は街の外に向けて声を張り上げている、というのもあるので我慢できるレベルなのかもしれない。
それとも、単に耳が悪いだけなのか……
主人の歌が佳境に入るころには、私達は注目の的になっていた、当然といえば当然である。
アンデッドを迎え撃とうとしていた所に出てきて、歌を歌っているのだから……
手持無沙汰になった皆がこちらに目線を向けてくる、正直見ないで欲しい。
ちらりと街中を見ると、寝静まっていた街に灯がともり、外に出てこちらを唖然とした顔で見つめている人々が見える。
死にたい……私はそう思わずにはいられなかった。