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救済の贈り物に親愛の花束を  作者: 草結
一章 邂逅、あるいは再会の物語
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Hello, Maia.

 優しい息吹が、満ちていた。

 背中に伝わる感触は硬い石のそれだが、起きて間もない意識は遥かに澄み渡って。

 目を開けるとそこには、緑の木々に囲まれて咲き誇る、色とりどりの花の絨毯が広がっている。


 ――本当に来たんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()に……。


 自然、実感が湧いてくる。

 それとともに、初めて招待を受けたあの時の、あの人の忠告が蘇った。


『――向こうに渡ったらもう、あなたの故郷――地球に帰ってくる術はございません』


 もう、引き返せない。

 今まで当たり前に会っていたあの人たちに、今は会えない。

 考えるとやはり、切なさに胸がつまるようで。


 でも、覚悟の上で自分が望んだことだから。

 別れるために、自分なりのお返しだって済ませた。それに。


『舞愛が、幸せだ、って誇れる人生を選んでほしい。……十八年前からずっと、舞愛の幸せを、願ってるから』


 幸せになる。

 そう誓った。

 だから、悔いはなかった。


「……よし!」

 気持ちを入れ替え、勢いをつけて立ち上がる。

 視界も新たに周りを見回してみる。

 木々の間合いが広く見通しの良い森は、緑薫り、光舞う清らかな空間を作り出していた。

 今自分が立っているのは、森の中にできたとりわけ大きな隙間を鮮やかに彩る花園の真ん中。

 すぐ傍の、自身が背を預けていた硬い何かは一点の汚れもない純白の石材で作られた石碑であったらしい。荷物も石碑に立てかけてある。

 さらに、その上には丸まって寝息を立てる黒猫。

 来る前に、この猫がここからの水先案内猫だと説明を受けた。

 艶やかな毛並みの背を撫でて、目を細めながら小さく告げる。

「これから、よろしくね」

 そして、音を立てないようにゆっくりと石碑の表に回った。

 石碑には金の象嵌で数行に(わた)る碑文が記されていた。残念ながら、文字に強めの装飾が施され、言語としてもこの地の現代語と隔たっているため、解読は不可能。

 写真を撮ろうかと携帯電話を取り出そうとし、ふと思い立って、ついでに荷物の安否を確かめることにした。




 目を覚ました時刻がいつもと同じだとすると、七時くらいだろうか。

 荷物の無事を確かめ終わり、猫が目をこすりながら起きた頃。

 朝ごはんを与えていないおなかがくぅと鳴いた。

「おなかも空いたし……そろそろ行こっか」

「にゃあ」

 応えて、猫は軽い身のこなしで石碑を飛び降り、導くように先を行く。

 追いかけ、しかし振り返り石碑に向き直って、一言だけ、伝える。


「――行ってきます」


 そう言い切った彼女の笑みからはどこか後ろめたそうな歪みが薄らいでいた気がした。

 そして、首だけこちらに向けて傾げている猫に駆け寄り、異世界から舞い降りた少女・舞愛(マイア)は柔らかな光の中仄かに続いていく道を歩き出した。

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