1話 僕、魔王になりました。
ある日曜日の夜、僕は神に殺された。
ある日、目が覚めると辺りは何もない。今、自分が寝ている場所が地面なのか解らないほど辺りは白く明るい。僕は夢だと確信し目を閉じた。目を閉じても辺りが明るいせいか、瞼の赤い色で落ち着かない。すると、右目から左目へ、左目から右目へ、誰か僕の顔を覗きこんでいるのかと思うように瞼が暗くなる。それに鬱陶しく思い目をあけ、怒鳴ろうとした刹那、
『はよ、起きんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいぃ!!ドゴッ』
僕ではない誰かの怒号と共に激痛が与えられた。左頬に与えられた痛みを耐え、目を開けると眼前には、右拳から煙を出して仁王立ちしている女の子がいた。僕は殴られた衝撃よりも女の可愛いさに朦朧としている。女はツインテールで前髪パッつん。綺麗というよりも可愛らしいという言葉が似合う顔立ちをしており、とても僕好みである。両手を腰に置き、脚を開き右頬を膨らせている女を見ていると胸がキュンキュンしてくる。だが
「僕には好きな人がいるんだ‼」
あっと、こころの声が。眼前に立っている美少女よりも好きな人達がいる。僕の好きな人は、そう、アイドルだ。僕はアイドルを見ることが人生の生き甲斐である。アイドルがいるから生きていける、アイドルがいるから………
『あなた死んでるから、もう好きなアイドルと会えないよ。』
……。
……。
……。
……。
殴ったときの怒の感情だった美少女はいつの間にか冷静になって…
『美少女じゃじゃなくて美女ね』
……。
……。
死んでるからってどうゆうこと?
『私が殺したの。あなたを。』
……。
つまり?
『私は神で、間違ってあなたを殺してしまったから、あなたに<異世界転生>、<異世界転移>かそのまま<死>かを選んでもらいたいの』
僕は「僕には好きな人がいるんだ!」以外、口に出してことばをだしていな
『心読めるから』
なんだろうか、心を読まれていることを気にするのがまず先なのだろうけど、今、僕の目から色が消えた。……もとからこの場所には色がないということは、気にせずに。アイドルだけが生き甲斐だったにも関わらずアイドルと会えないなんて、もう、死にたい。……もう死んでいることは置いといて。
心を読んでいる神が口を開いた。
『この選択に<死>は存在しません。』
僕の顔から目をそらしながら放った言葉に疑問を抱き、神に質問をしようとしたが、神が話すのをやめようとしない。
『あなたには、異世界へ行った際にチート能力を差し上げます。』
『1つでは足りないのであれば私があげられる能力すべてワタシマショウ。』
『それでは早速行ってらっしゃい』
神が『行ってらっしゃい』と言った瞬間、体を光が包み込んだ。
「はやくない!もっと話さなきゃいけないことあるでしょ!えっ!」
『それでは、私にまた会うことができれば話しましょう。願い事も何でも叶えてあげますよ。』
…………光に包まれ数十分、神の最後の言葉を聞いてから何も起きていない。神はいなくなり話す相手もいない。時間が経ち冷静になった僕は、改めてアイドルという癒しを失ったことに。
女性アイドルというのは<寿命が短い>。女性アイドルのファンの多くは男性で、主は廃れていくのを見たくないというのが多いのだろう。アイドル自身もそれを自覚している。だが、だからこそ彼女達はその一瞬で輝き、<自分を見ろ>と言わんばかりの主張を。清楚なアイドルだろうと、肉食なアイドルだろうと本質は同じだ。アイドルとして売れたいという思いで努力し、その努力がファンを呼び寄せ目を止まらせ、その笑顔で見るものを虜にしていく。
ブスというのは集えば傷を舐めあうが、美女は集まれば強くなる。だが美女はそういない。だからブスに僻まれ続け苦しくなってしまう。しかし仲間を見つけた美女たちは最強だ。同じ境遇の仲間を見つけ、今までの人生より楽しい青春を、アイドルとして過ごしている。辛いこと、嬉しいこと、悲しいことその全てを見守るのがアイドルのファンの醍醐味だ。
彼女達がアイドルを卒業して幸せになるのを願うのが、生きる糧だった。
それが、神に殺され、出来なくなった。
突如、神に殺され異世界へ転生させられ無双する。異世界もののテンプレだ。
チート能力でヒーローになり、勲章を貰い、お金も貰い、女の子にモテ、こんなの…………。
まぁ、あり、なの、かもしれない。
感情が地獄から天国なみに激しく揺れ動く年頃の男の子。忙しく感情を動かしている最中『異世界へ転移します。』という機械的な音声が流れた。
色がない空間に突如として色が現れてくる。転移しているというよりも、新たに構築されている感じがするように、白い空間に順々に色達が完成してきた。が、完成していく色達は何故か暗い色が多い。異世界もののスタートは昼間の草原、というのが相場は決まっているものだが、夜なのか?
と考えていると、全身に痛みを感じ始めた。内側から来る痛みではなく外側から来る痛み、攻撃されているようだ。
視覚情報よりも先に触覚、痛覚が先に完成してしまった。……いや鬼畜だろ。だがあの神が与えたチート能力のお陰か、攻撃されているという感触があるだけで、痛さというのが突如なくなった。とゆうか痒い。 視覚情報がほぼないが、感触である程度の方向が分かる。それだけを頼りに拳を振りかざした。
『転移が完了しました。』
目の前に広がる光景は黒ではなく白になっていた。眼前にある光景は何者かにえぐられたかのような様が彼方まで続いている。
『魔王の称号を獲得しました。』