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新編 災禍の都 Episode1  作者: 不死鳥ふっちょ
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第一章第一節<Labyrinth>

 大陸の北西部に位置する王国、ハルクースト。


 広大な大陸のほぼ北半分を占める領土をもち、国土の多くが雪と凍土に覆われている中、比較的温暖な気候の地方に首都を構えている。


 三年前、ここハルクーストと、北洋の王国ヴァライアとの間に戦乱が勃発した。


 事の発端は両王国間の海洋に点在するアイエン群島にあった。海底山脈が隆起してできた島国のため耕地も少なく、貧しい国であったが、財源のほとんどをまかなうに足るとも言える特産物が存在していた。


 海底火山の噴火による隆起によって生じた島の地層には、他の地域には見られない鉱床があったのだ。


 それまでは、多くの国々との間で高値で取り引きされていた品であり、アイエンの重要な収入源となっていたのだが。


 突然、大国ハルクーストがアイエン国に対して経済および資金援助を申し出たのだ。


 元々貧しい国であったために、これまでは鉱床が発見されたとしても、鉱石の採取、精製の技術や設備などはもっぱら他国からの援助によって成り立っていたのだ。それによってアイエン国が抱え込んでいる多大な外債を、ハルクーストが肩代わりしようというのである。


 その代わり、鉱物はハルクーストとの取り引きに限ることとという交換条件を提示した。つまり、他国が鉱物を入手するには、ハルクーストを挟んだ経路でなければならないということである。事前の地質調査により、残る埋蔵量を算出したところ、販売ルートからの収入は、支払いを大きく上回るとの結果報告が為されたためである。


 膨大な借金を返せる目処もなく、またハルクーストとの取り引き価格も悪い値ではなかったため、アイエン側はその申し出を飲んだ。


 その条約締結に対し、反発の意を示したのはヴァライアであった。


 実は、領土関係から見れば、アイエンはヴァライアの属国として扱われていたのであった。だがそれほど厳しい統治でもなく、アイエン側にもある程度までの自治権を与えていたために生じた事件であった。


 占有取り消しを求めるヴァライアに対し、ハルクーストは断固としてこれに応じなかった。その時点で、アイエンはかなりハルクーストに傾いた立場をとっていたのだ。


 それを受け、ヴァライアはついにアイエンに向けて進軍を決意。軍事力を介入させ、全鉱山の機能を停止させる暴挙に及んだ。ハルクーストはこれを不当な外交干渉として出兵。両国間に戦乱が勃発したのであった。


 一年前に、この戦争は一時的な小康状態に入っていたのだが、ハルクースト国内では、新たな事態が生じていた。敵国であるはずのヴァライアをも含む全国に広く呼びかけられたことにより、人々はそれを知ることとなった。


『カレルナ姫が長き眠りに就いた。同時に出現した王城下に存する地下迷宮よりその解決法を見出した者に、多大なる報酬を与えん』


 真相はさだかではない。ただ、そうしてハルクーストに集まってきた者たちの前に、王族の一人であり、姫の婚約者とされた若者、カスィー・リグ・ハルクーストは一度だけ現れ、直々に話を伝えたことにより、それまではただの酒場の噂話であったものが一気に信憑性を帯びることとなっていったのだ。





 それから一年。


 現在、ハルクーストに残っている冒険者の数は、僅かに十四名。これを、少ないと見るか、多いと見るか。


 十四名の中で、冒険者はさらに三つのグループに分かれており、それぞれが別個に探索を続けている。


 この数は、初期段階でのハルクーストに集められた数の一割にも見たない。実際、初めの三日間で、冒険者の数は半数以下にまで減少してしまっていた。


 では、何が原因であったのか。


 地上、すなわち人間の生活環境では到底遭遇することすら珍しく、そして強大な太古の魔物が数多く、この地下迷宮には生息していた。さらには迷宮の下層になるほどに魔物の力は増してゆくことに加え、上層部に住み着いた下級の魔物ですら地上で遭遇する個体とは比べ物にならない凶暴性を有していることが明らかになったのだ。


 単なる迷宮だと勘違いして足を踏み入れた冒険者の大半は、その場で命を落とす羽目になった。僅かな生き残りも、満身創痍で帰還し、迷宮の様子を伝えるなりその場で絶命した。


 この事実は、その日のうちに王にも報告された。


 魔物相手に戦える者がそうそういるとは思われないし、またその情報を知ってまでハルクーストを訪れる物好きがいるとも思えぬ。王は、不本意ながらも王宮に仕えている剣術、呪術の各方面の指南役を解放し、現在ハルクーストに滞在する者に対して指導を行うよう命じた。


 その次に行われたのは、迷宮探索用の部隊編制であった。


 報告によれば、迷宮内の通廊は確認できた範囲内ではほぼ一定だが、四人以上が横に並んで戦える広さではないということだった。すなわち、大軍を送り込んだところで成果は上がらない。


 これらの状況により、一部隊を四人から六人という、極めて少数のグループに編成し直し、それぞれが個別で探索を行うのがもっとも効率的な方法とされたのだ。





 それから三月後。現在に至るまでさらに冒険者は生死による選抜を受け、十四名の精鋭が残ったというわけだ。


 現時点において、迷宮内は第四層までの探索が終了している。その過程において、明らかに探索を困難にさせることが狙いと思われる呪紋を無効化する結界アンチ・スペル・フィールドや、一時的に視力を喪失させる暗黒地帯ダークゾーン、幻術による隠蔽回廊シークレットコリドーなどの罠もすべて、解明されている。


 だが、問題のファル・ラ・カレルナ嬢に関係すると思われる情報は、何一つ発見されていないのだった。

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