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何らかの返事を期待しての言葉を敢えて流し、伊織はすゞを伴ってさっさと土御門たちから離れた。あの止まらない言葉の押し付けに、いい加減辟易としていたのだ。
伊織の後をすゞはついて行くが、何度も土御門の方を何度も振り返る。一向に足を止めようとしない伊織を不安気に見つめる。その繰り返し。
「よろしいのですか? 置いて行ってしまって」
土御門の持つ明かりが小さくなり、木々の間からぼんやりと見えるか見えないか、くらいの距離になってから、すゞは漸く尋ねた。
「構わん。探索は手分けして困る、ということなどないのだからな」
答えながら顔にかかる蜘蛛の糸を煩わしそうに何度も払う。取り除いても歩を進めればまた糸があり、薄暗い中それを目で捉えることのできない伊織は正面から突っ込んでしまう。
「この辺りは糸が幾重にも張られております。こちらへは未だ式の鬼たちが踏み込んではおられないようですね」
すゞは何度も糸にかかる彼の着物から糸を取りながらそう伝えた。伊織が彼女を見遣れば、糸を摘まみながらも辺りへ視線を向け、観察しているように見える。
「見えているのか?」
「猫、ですので。夜目はきく方です」
言われて彼女の目を見れば、薄暗い中で金色に光っている。黒目の中心も縦に細くなっており、まさに猫の目と同じだった。
「提灯、眩しくはないか?」
「直接見なければ大丈夫にございます」
彼女の目は左手の先でゆらゆらと揺れる提灯に照らされ、金色の濃淡が変化する。それでも少し目を細める彼女の左側に位置取り、提灯を出来得る限り地面に近付けた。彼のちょっとした優しさに、すゞの頬が緩む。
が、すぐに厳しい表情で顔を上の方へ向けた。
「何か、来ます」
そう言われ、伊織は提灯の明かりを消し、刀に手をかける。だが、何の音も聞こえない。すゞは一点を見つめており、倣うようにそちらへ視線を向けるが、木々の奥には闇が広がるばかりで何も見えてこない。彼女の気のせいかと思うが、緊張感漂う様子がそうではないことを裏付けている。
すゞには何かしらの音が聞こえているようだ。
一瞬、目の前を影が横切り、伊織は目を瞬かせてから首を傾げたが、すゞは違った。影を目で追い、影の止まった場所を捉えた。
「旦那様、上です!」
彼女の焦った声に顔を上げれば、夕日に染まる赤い空と黒い木々の影を背に、大きな影がそこにはあった。伊織は目を見開き、動きを止める。その影は間違いなく、昨日の大蜘蛛のそれである。
すゞは大蜘蛛を睨みつけたまま猫又の姿となった。伊織より一回り大きな、尾の二つに割けた猫となった彼女は、伊織を護るように彼の前に立つ。喉を唸らせ牙を剥いて威嚇をする。
「獣を連れてきたか」
大蜘蛛の低い声が頭上から降ってきた。
お読みいただきありがとうございます。
もうすぐ今年も終わりとなります。
今年一年は、外出よりも在宅の多い一年だったように思います。
これがあと何年で終わるのか、それともこれが日常となっていくのか。
それでは皆様、良いお年をお迎えください。




