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雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第三幕――○○○(????)
94/267

23-(2)

 昼間とは異なり、日暮れの山路は頼りにならない。夕暮れを『誰そ彼時』と表するのは的を射ていると思える程だ。手にする提灯も辺りを照らすことは勿論なく、周囲に居所を知らせるくらいの役割しかない。


 夜目のきくすゞは提灯を頼ることなく、山路や伊織たちの姿をしっかりと捉えている。時々覚束ない足取りを見せる伊織にはらはらしていた。


 目の前をゆらゆらと揺れる提灯の明かりと白い着物は昼間と同じく軽やかで、体を引きずっている自分を顧みて、伊織は少し情けない気持ちにさせられた。


 疲れからか、頭が鈍って考え事ができない。それでも時折ふと頭の中を掠めるのは、先程までの土御門との会話。と、言っても一方的な語りのようなものだ。


 余程、妖怪に対して無知な伊織のことが嬉しいのか、本当に色々と教えてきた。前述通り、自慢話ではあるが。




 その中でも名前に関する話は、伊織の疲れた頭からでさえ離れぬ程、興味を引かれた話であった。昼間、散々に名前の話をした後だったことが理由だろう。


 土御門という名は、文字通り、家名だ。当然平民が持てるものではない。


「土御門というのは一つの屋号みたいなものです。土御門家の配下の人間は、そう他所で名乗っているのです。他にも陰陽師の家はありますし、誰の下にいるのかはっきりさせた方が問題が起こりにくいのですよ」


 その話と併せて、彼はある妖怪の話をした。


 その妖怪の呼び名は言わなかったが、名前を奪う妖怪だと言った。名と共にその人間の姿を真似、成り代わる妖怪。名を奪われた人間は、自分の名前も、それまで何をしていたのかも、何もかも忘れてしまうのだそうだ。


「呼び名を口にすると呼び水になりかねませんので、どうかご容赦を」


 にこにこと話す土御門の言葉には、謝罪の気持ちなど込もってはいない。


 土御門ですらない彼が名を名乗らず『土御門』と言うのは、この妖怪に名を奪われないようにする為らしい。




 妖怪といい、人間といい、何とも名前に振り回されて大変だ、と伊織は他人事のように思った。自分にいざその妖怪の災禍が降りかかったとしても、どうせ全てを忘れてしまうのなら悲しみなど無いだろう。


 目の前の陽気な男も、横の心配そな顔をしている女も、自身の本当の名前を呼ばれない。それはどんな気持ちなのだろう。



 考えに気を取られ、足が止まる。


「旦那様?」


 すゞに顔を覗き込まれ、伊織は足を進める。


 土御門のことを慮ってやる謂れもなければ、すゞには事情があるのだ。


 顔を上げれば、土御門が伊織のことを見下ろして待っている。遅ればせながら彼の隣に辿り着けば、昼間の開けた場所に出ていた。鬼たちも、伊織たちの到着を待っていたらしい。


「さて、逢魔が時です。張り切って探しましょう」

お読みいただきありがとうございます。


評価・ブックマーク・感想をいただきました。心より感謝申し上げます。


現代人の傾向なのでしょうか。スマホやパソコンで簡単に漢字変換できるようになった反動か、手書きで漢字が出てこなくなっている気がします。

先日職場の先輩宛のメモに「調節」と書こうとして、「調設」と書いていました。おかしな気がして検索し、急ぎ書き直しました。

普段読めない字も漢字変換してしまったりと、小説にも影響が出ているかもしれません。

一応確認しているつもりですが、書いている本人が内容を分かっていて読んでいるので、あてにならない確認かもしれませんが。


もし「こんな字、普段見るかよ!」と、思うようなことがありましたら、いつでもお申し出ください。

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