20-(1)
ちらりと肩越しに後ろを見て、彼女が座ったのを確認した土御門は居ずまいを正し、改めて伊織と向き合った。
「明日、改めてあの街道沿いの山へ行きます」
「勝手に行けばいいだろう」
「何を言っているのですか。あなたも来るのですよ? それから、その猫も」
「はぁ?」
さも当たり前だと言わんばかりに言ってのける土御門に、伊織は思わず声を荒げる。
冗談じゃない。どうして俺が。
だが、土御門は伊織が声を荒げ驚いて見せたことへ、驚いている。どうやら彼の中では、伊織とすゞが来ないことの方がおかしいらしい。
「当然でしょう。この藩にいる間、あなたは私の面倒を見てくださるのでは?」
素朴の疑問が如く投げかけられた言葉に、伊織は言葉を詰まらせる。確かに、奉行である鷹匠から土御門への助力を命じられていた。そのことを思い出し、伊織は仕方なく、分かった、と答える。すると土御門は嬉しそうに表情を緩ませた。
彼の思い通りにことが進むのが癪で、水を差すように伊織が、しかし、と切り出した。
「百歩譲って俺はともかくとしても、すゞは何故だ。あいつはお役目に何の関りもないだろう」
呆れや煩わしさといったものを含んだ言葉に、土御門は眉を顰め、すゞを振り返った。訝し気な視線にすゞは視線に息をのむ。
「あなたが主を務めるこの家に仕えるということは、あなたに式神として仕えているということではないのですか? まさかとは思いますが、何の縛りもなく、この家に置いているということですか?」
部屋の温度がわずかに下がったように伊織は感じ、ぶるりと肩を震わせる。土御門は返事を待たず、懐に手を入れている。このままこの場ですゞを排するつもりであることを認めるように、鬼たちも半分腰を上げてている。
疑わしきは罰せよ、ということか。
「どう言うかは知らないが、我らの関係をそう表すのなら、そうかもな」
咄嗟に出た言葉は、はったりも同然。土御門の顔は伊織からは伺い見ることは叶はない。確認できる翁やすゞの方を見れば、目を見開いて固まったまま動かない。
彼は体を戻して見せた表情は、笑顔だった。伊織の身構えていた体から思わず力が抜ける。
「やはり、そうでないかと思っていました。そうでなければこんなに堂々と、妖怪が家の中を動き回る筈がありません」
土御門は一人で勝手に納得し、うんうん、と何度も頷いている。鬼たちも起こしていた体勢から座り直していた。
どうやら難は逃れたようだ。
「では明日、そこの猫又も同行するということで」
「は?」
お読みいただきありがとうございます。
お盆休みになりましたが、帰省を諦め、現在一人でお盆を一人で過ごしております。
旅行や帰省は、移動する側も受け入れる側もリスクが大きい、のかもしれません。
正直、旅行したい願望がコロナ前よりあります。ステイホームにも良い加減飽きがきてきました。
伊織たちもここ一ヶ月ほど部屋から一歩も出ていません。作中では数十分ですが……。
そろそろ外出させなければ、彼らも皆さんも飽きてしまうかもしれません。
今暫くお待ちください。コロナ程待たせませんので、多分。




