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陰陽寮は暦や時を司る組織ではあるが、それは表向きの話。
平安京の頃、世は乱れ、妖が人の世に現れるようになったのを機に、陰陽寮は妖に関することも担うようになった。元来、風水等にも造詣が深かったこともあるが、ある一人の陰陽師の存在が大きく関わっている。以来、陰陽寮は帝に認められた妖退治の組織としての一面も担うようになったのだ。
懇切丁寧に、編年記のように土御門の語った話は、要約すればこういった内容であった。随分な物言いで切り出してきた話は脇道へ逸れに逸れ、初めに言った妖怪のことなど一切話に挙がらない。欠伸を噛み殺し、右から左に話を流しながらも、一応の要点にだけは何となく耳を傾けていた。
話はどうにか武家へ政権の移った時代に辿り着いたが、終わりはまだまだ遠そうだ。苛立ち気味に頭を掻きながら、伊織は話を進めようと切り出すことにした。
「それで結局、ご高説くださった由緒ある陰陽寮の関係者が、一体何の妖怪を追いかけてきたというのですか?」
勢いに乗ってきた話の腰を折られ、土御門は不服そうに少し唸る。しかし、伊織には先程の話を続けさせる気がなさそうだ。眉間に皺を寄せ、ねめつけてくる目の前の男の催促に仕方なく話を割愛することにした。
「都にある陰陽師をまとめる陰陽寮に昨冬、侵入者がありました。『者』と言うのは、少し違いますね。あれは人ではなく妖怪ですから」
「勿体つけず、さっさと言え」
「せっかちで粗暴な方ですね」
嘲笑交じりの自分を表する言葉に、伊織はますます苛立ちを募らせる。歯を軋ませ、今にも殴り倒してやりたいと握る拳を、反対の手でなんとか抑え込む。憤りに震える息をゆっくりと吐きだし、気持ちをごまかしながら土御門を見遣るが、彼は伊織の気持ちなど興味なさげに庭を見ていた。先程からの、わざと腹立たせようとしているのでは、と疑いたくなるような言動に伊織は噴火寸前である。
「その妖怪ね、陰陽頭様の部屋に入り込んでお茶とお菓子、食べて出ていったそうなんですよね」
土御門の言葉に、煮えくり返っていた花の中が、すっと冷めた。伊織には、そんなことをする妖怪の心当たりがあるからだ。否、一人しか思い当たらない。
「それは、うっかり食べたことを忘れていたとか、誰かが嘘をついたとか、そういうのではないのか?」
「陰陽頭様ご自身が、その妖怪が茶をすすっていたところをご覧になられたそうですし、嘘ではないかと」
「そうか」
冤罪かと思って尋ねてみたが、目撃者がいるのならば、それはなさそうだ。伊織の背中に嫌な汗が流れていく。土御門に対する怒りや苛立ちなど、既にどこかへ消え去っていた。
「それは何という妖怪だったのですか?」
「普通の方にはあまり知られていない奴なのですがね。名前を言っても分かるかどうか」
「いいから教えろ」
「ぬらりひょん、という妖怪です。ね、知らないでしょう?」
「そう、だな」
たった一言の返事すら片言になり、表情は硬い。あまりにも想像通り過ぎる妖怪の名前に、何事か口走らなかった自分を褒めてやりたい、と頭はおかしな方向へ進もうとし始める。
土御門は伊織の心情など全く読み取ることもないまま話を続けた。
お読みいただきありがとうございます。
いつの間にかアクセス数が12,500を突破しておりました。1と1/4万人
数日ごとに一気読みしてくださる方がおられるのか、一日でアクセス数が100以上増えている日を見る度に、目が飛びててしまいそうになります。
本当にありがとうございます。
前回から説明パートに入りまして、暫く絵に変化はありません。挿絵がある訳ではないですが……。
説明回や修行パートというものはアンケートが悪いと、ジャンプで連載していた某漫画家漫画で言っていた気がします。
いつも早めに切り上げようかと思うのですが、なかなかどうして上手くいきません。
飽きのないように頑張ります。




