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雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第三幕――○○○(????)
74/267

18-(2)

「鬼に尾けられていたと言ったな。ならば、この家も知られたのではないか?」


「あぁ、それは心配ない」


 伊織は顔を元に戻すと、箸を取る。反対の手で汁椀を取れば、先程の振動の所為か、中身が少しこぼれていた。椀の縁を伝い、底についている高台の部分まで濡らしている。嫌な感触に眉をしかめながらも、伊織は汁をすすった。


「豆助が撒くのに手を貸してくれたんだ。異世との間を通った、と言っていたな」


「成程のぉ」



 翁はそれだけで納得したのか、今しがたすゞが運んできた膳に箸をつけた。対して伊織の手が止まる。

「そういえば、異世って、何だ?」


「何じゃ。知らんかったのか」


 問えば、知らなかったことに驚かれる。知らない自分が悪いのか、と自問しながら、まぁ、と曖昧な返事をした。すると翁はわざわざ箸を置き、懐から扇子を取り出すと、講談師さながらにそれで自分の膝を打った。


「異世とはつまり、異なる世。言うなればこの世界ではない、別の世のことじゃ」


「彼岸、みたいなものか?」


「少し違うかの。彼岸とは此岸に対していう言葉。同様に、現世に対しての異世と言う。異世は人の世ではなく、人ならざる者、つまりは妖怪の住まう世のことじゃ。その入り口はどこにでもある。草葉の陰や薄暗い路地、山や川に先のはっきりしない道など。人が恐ろしいと感じるところ、ここではないどこかに繋がっていると思う場所は繋がっていることが多いかの。黄昏時などの薄暗い刻限に人が異世に迷い込むことも、昔からよくある話じゃ。『神隠し』なんぞと呼ばれたりもする。此度は豆助のお蔭で無事に行き来ができた、というところかの」


 一通り話し切った翁は、扇子で再び膝を打つ。話の終わり、ということなのだろう。ベベンッ、と三味線の音が聞こえてきそうな具合だ。のべつまくなしに言い切った喉を酒で潤す。からからと笑いながら、翁は夕食へと箸を伸ばした。




 一方の伊織は箸を止めたまま、頭の中をこんがらがらせていた。深く考え込みそうになっている彼に、翁は、そうだ、と別の話を切り出した。


「お前さん、ここらで顔は利くかい?」


「まぁ、一応でも奉行所に身を置いているからな。それなりには」


「なら、よかった」


 翁は座布団から降りると、すっと自分の前から膳を退かした。


「儂が古い知り合いに会いに行ったことは今朝も言ったが、覚えておるか?」


「まぁ、一応は」


 朝の翁との会話の後にあれだけのことがあったのだ。伊織は記憶の片隅に、訪ねて行った、ということ以外残せてはいなかった。曖昧に答えられながらも翁は話を続ける。


「そのことで、お前さんに頼みが」


「ごめんくださぁい。土御門ですがぁ」

お読みいただきありがとうございます。


このところ新型コロナウィルスの話題ばかり後書きに書いてきたので、少し話題を変えてみようと思います。


とは言え、外出が少ないので話題というほどの話題が無いのが実状ですが、自分が出不精なのも原因の一つでしょうか。

一つ、話題がありました。新しい職場に来て二年目ですが、既に出産祝いを渡すのが二回目を迎え、三件目も指折り月を数えているうちに訪れそうです。

心機一転、住む場所を変えれば、こうも周囲の状況が変わるものなのでしょうか。

そして、お祝い、というものはその人間のセンスを問われますので、なかなか難しいと、既に二回目で心が折れそうです。

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