表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第三幕――○○○(????)
71/267

17-(3)

 先程とは違い、青鬼は気配を隠すのも、気づかれないように尾けるのにも長けているのだろう。いや、むしろ見える人間だとはっきりしたからこそ、細心の注意を払っているのかもしれない。


 壁に手をつき、頭を抱える。このまま知らないふりをしても、もうごまかすことはできないだろう。姿も気配も捉えられない相手を撒くことなど、できる訳がない。


「どうしたものか」


「お困りですか? よろしければ、お手をお貸しいたしましょうか?」


 顔を横に向ければ、豆助がにこにこと笑っている。さっきまで持っていた筈の笊は手から消えており、誘うように右手が差し出されていた。だが、何の躊躇いもなくその手を取ってはいけない気がする。笑顔の張りつくその顔の内が全く読めないのだ。



 それでも鬼を撒かなければ、家には帰れない。



「豆、お前ならあの鬼を撒くことができるか?」


「はい。私が普段使っている道を使えば、可能にございます」


「そうか」


 伊織は懐を探る。見回りの時に入れている菓子は、今日も入れていただろうか。


 ふと、指先が紙包みに触れた気がした。引っ張りだせば、金平糖を小分けにしたものの余りだ。それを差し出された掌に置く。


「これで、俺をあの鬼から逃してもらえないだろうか」


「ようございます。お受けいたしましょう」


 豆助は受け取った紙包みを懐にしまうと、もう一度伊織に手を差し出す。伊織は意図が掴めず、その手と豆助の顔を何度も見比べる。


「お手を。ここから先の道は、人が容易に入れぬ道。逢魔ヶ時故、多少入りやすくなっておりますが、一度迷えば最後。道を知らぬものが容易く出ることなど叶いませぬ。花菱様のお宅に着きますまで、この手を離されませぬよう」


 いつも通りの笑顔の筈だが、豆助の纏う雰囲気は、いつもと違うように感じられる。伊織がおそるおそるその手を取ると、重ねた手はしっかりと握りこまれた。





「では、参ります」


 豆助に手を引かれ、伊織は路地の奥へと足を進めた。夕日は白い壁を茜色に染めている。そこに伸びる自分たちの影は、本当の背丈より幾分か高い。一緒に動く影を目端に捉えながら、路地を進み続ける。




 四つ辻を四度通り過ぎた時、周囲が歪むような違和感を覚えた。踏み出した足が本当に地面を踏むことができているの不安になり、思わず足元を見る。足は豆助に引かれるままの速さで踏み出され、しっかりと踏みしめていた。


 ほっと息をついて、顔をあげる。正面を見るつもりだったが、すぐに視線は他所に逸れた。


 横を一緒に走っていたはずの己の影が、壁に無いのだ。しかし足元の影は、確かにそこにあるのに。慌てて後ろを振り返れば、途中で立ち止まっている自分の影が、壁の中で己に向かって手を振っていた。


「俺は頭がどうかしてしまったのか?」


 理解できない事柄に、伊織の足は止まろうとする。しかし豆助が彼の手を引き、それをさせずに前へと進ませ続けた。


「今は、分からないことを分からないままにしておいた方が宜しいかと。考えたところで、人には分からぬことですので」


 豆助はそれ以上、何も答えなかった。その後、伊織がどれだけ問いかけようと、彼は黙殺し続けた。






 どれほど走り続けたか。もやもやと考えに耽っている途中で、豆助は足を止めた。突然のことに伊織の足は止まり損ね、危うく目の前の彼を蹴り飛ばしそうになる。


「どうした、いきなり」


 豆助を見れば、自分の方や正面ではなく横を向いている。そちらに視線を流せば、目の前には自分の家。振り返れば、申し訳程度の大きさの木戸が建っている。


 門をくぐった覚えは、これっぽっちもない。足元を見降ろせば、影はいつしか元に戻り、日の向きに合わせて長く伸びていた。


「もう大丈夫かと」


「あぁ、すまん」


 ぼんやりと影を見つめていた伊織は豆助の声にはっとし、慌てて握っていた彼の手を離す。握られていた筈の手は、いつしか伊織の方から握りこんでいたらしい。

お読みいただきありがとうございます。


緊急事態宣言は、遂にゴールデンウイーク以降も継続されると発表されました。

半引きこもり生活はもう少し続きそうです。


先日、近くのコンビニエンスストアに行った際、レジ近くに不思議な絵が貼ってありました。

魚人とも鳥人ともつかないその姿。

妖怪ものであるところのこの作品をお読みの方の中には思い当たる方、ご存知の方もいることかと思います。

そう、疫病退散の文字と共にそこに描かれていたのは「アマビエ」と呼ばれる妖怪でした。

神仏だけでなく、妖怪に縋る。科学の進歩した現代でも、かつての人々と何も変わっていないのだな、と思う出来事でした。


『改訂・携帯版 日本妖怪大辞典』(角川文庫)によると、絵を見るだけでも効果があるみたいです。また、件の絵を張り置けば、家内は厄病を受けず一切の禍を免れるといわれ、魔除の札代わりに似ていたそうです。

まだまだあるかもしれませんので、皆さまもこの休みの間に探してみてはいかがでしょうか。


追記:アップ後に気がついたのですが、新たにブックマーク、並びに評価をいただきました。

心より御礼申し上げます。今後も更に精進していきたいと思います。

今後ともよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ