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雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第一幕――○○(????)
7/262

2-(3)

 数日後の夜、伊織は武家屋敷の通りを回っていた。聞こえるのは野鳥の声と自分の足音ばかりで、静かなものである。月明かりと手元の提灯で何とか道は見えているが、月が雲に隠れれば、闇のなかにぼんやりと提灯の灯りがぼんやりと浮かび上がるだけとなる。未だ冬の冷たい風邪が足元を吹き抜け、肩をすぼめた。




 ここ何日も辻斬りは出ていない。すっかりなりを潜め、そんなもの最初からいなかったかの様に噂一つ流れない。伊織はため息をこぼすしかなかった。




 考え事をしながら歩いていた伊織は気づけば武家屋敷の通りを抜け、人気のないところに来ていた。今は住む者のないぼろ屋が建ち、後ろの竹林はうっそうとし、庭や畑のあったであろう場所は背の低い草が群生している。



 だが人のいないはずの場所に、人の気配がした。草と布が当たる音。草履を擦らせる音。漂う鉄錆のような匂い。伊織が音のする方に提灯を向けたその時、月を覆っていた雲が流れ、辺りに光が差す。


 伊織の十歩ほど先に人が倒れていた。身なりから武士であろうことは予想できる。倒れる男の足元には、刀を手にする男が立っていた。男の手に握られている刀は、月の光を鈍い色で反射させていた。



「奉行所の者だ。貴様、ここで何をしていた」


 竹林が風に影を揺らし、葉の擦れ合う音をたてる。音の間から男の笑う声が混ざり、伊織が彼を見遣れば男が広角を上げていた。


「馬鹿なこと言うんだな。これ見てんなこと訊くなんざ、奉行所なんてとこは随分と弛いんだなぁ」


 男は足元の男を跨ぎ、伊織に近づいてくる。伊織は提灯を地面に放り、刀に手をかけた。小口を切る音がし、提灯が燃えつきる。



 再び月に雲がかかった時、男が叫び声と共に伊織に斬りかかった。正面から迫る白刃をいなすため、伊織は持ち手を顔の正面にし、斜めに構える。刃がぶつかり、男は伊織の斜め左に流された。




 その時、伊織の背中に、痛みが走る。


「ぐっ」


 思わず小さな呻き声をあげる伊織。男の口から黄ばんだ歯が覗く。伊織は自分に何が起こったのか、すぐには分からなかった。

ごお読みいただきありがとうございました。


最近、猛暑が続いております。熱中症にならないよう、お互い体調管理気をつけましょう。

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