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尾けられている。確実に。
ちらりと背後に目をやれば、伊織の後ろ、少し離れたところに例の赤鬼の姿が見える。大通りの、人のごったがえす中にありながらもそれが分かるのは、人より頭二つほど大きな背丈故。要するに姿が丸見えなのだ。鬼は一切隠れようともせず、伊織をじっと捉え、一定の距離を取ってついてきていた。
額に手をあて、深いため息をつく。
とぼとぼと歩きながら思い出されるのは、奉行所でのことだ。
あのあと呆然としている伊織をよそに、土御門は自分のことを語りだした。
自分は京の都にある陰陽寮の人間だということ。陰陽寮に属しているが自分は公家ではないということ。自分のように、公家に代わり各地へ出向いてい役目を果たしている人間は他にも大勢いるということ。
「人は我らのことを、陰陽師と呼ぶ」
そう言った土御門はとても誇らしげな顔をしていた。それだけ名誉あることだということなのだろう。
そしてここまでの話を驚く様子もなく聞いているところを見ると、鷹匠は既に聞き及んでいることが分かった。
「それで、何故自分が協力するということになったのでしょうか」
長くなりそうな話を区切り、鷹匠の方を向いて尋ねる。自称陰陽師の男に、正直これ以上関わり合いたくないのだ。
伊織の思いとは裏腹に、彼の問いかけに答えたのは、やはり土御門であった。
「決まっていよう。あなたがこの奉行所で唯一妖怪が見える人だからですよ」
何を今更、と言葉を続ける。彼に、伊織は言葉を失う。この男は、妖怪のことを口にするのを躊躇ったりはしないのか、と。苦い顔をしていることにも気づく気配のない様子に、頭が痛くなる。
鷹匠はじっと伊織を見つめ、反応を観察していた。嫌な汗が頬を伝う。
これ以上、ここで話を続けたくない。
「土御門殿、これ以上はここでする話でもありますまい。場所を改めませぬか?」
「よかろう。では、奉行殿。あとは良しなに」
無言で頷く鷹匠を残し、二人は部屋を後にした。
しかし、このまま皆のいる御用部屋へ連れていき、そこで話をする気はない。それどころか、奉行所内でする気など、端からなかった。
大きなため息をつくと、伊織は後ろをついて歩いていた土御門たちの方へ振り返った。
「詳しい話はまた、明日と致しましょう。本日はこれにて失礼させていただきたいのですが」
「何を。それならば私は一体どこへ身を置けば良いというのですか? あなたの家に泊めてください」
「謹んでお断り申し上げます」
「何ですと。先程奉行殿も私のことを頼むと言っていたではないですか」
「それとこれとは話が別です。宿はご自身でお取りください。公家の身分ではないのなら、一人でできますよね?」
言い返そうとする土御門に対し、それに、と言葉を続ける。
「仕事を家に持ち帰るなど、したくはないのです。本日はこれにて失礼いたします」
慇懃に頭を下げ、伊織はその場を早足で後にした。土御門が何かを言ってきたが、気にとめる気はない。御用部屋に置いてあった自身の荷物をさっさと纏める。他の者に挨拶をしながら部屋を飛び出した。
奉行所の門の外に佐吉の姿はない。いつもより早く出てきたのだから仕方ないだろう。
土御門殿に追いつかれるのは御免だ。迎えに来る佐吉には悪いが、先に帰らせてもらおう。
後ろを振り返るが、未だ土御門の姿はない。伊織は足早にその場を後にした。
妖怪に関りがある人間ならば、もしかしたらすゞが何か知っているかもしれない。戻っていれば、翁にも聞いてみよう。
そう決意した矢先だった。背後にいる、鬼の気配に気がついたのは。
お読みいただきありがとうございます。
今回更新の際、小説情報を確認しましたら、ブックマークが増えておりました。
誠にありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。
さて、前回の更新から、世情が随分と変化しました。
緊急事態宣言が発令され、主要都市に出入りができなくなりました。
三月から続く休校も二ヶ月近くになりました。自宅待機や交互出勤など、感染拡大予防のために様々な取り組みがされております。
たった十日。されど十日。また十日後、世の中はどうなっているのでしょうか。




