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雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第三幕――○○○(????)
67/280

16-(4)

 街道沿いの番所に着いてから伊織は男と可能な限り距離を取って会話を避ける。とはいえ、この集団を率いているのは一応、筆頭同心である九曜だ。助けてくれた人間の相手をするのも当然の仕事と言える。男は折を見て何度も伊織に話しかけようとしていたが、結局それは叶うことなく、そのまま奉行所まで彼らが言葉を交わすことはなかった。







 奉行所に着けば男は九曜に鷹匠のいる部屋へと案内され、伊織と櫛松は井戸に近い六畳の空き部屋へと連れていかれた。中には既に準備万端の医者が待っていた。


「また派手にやったのぉ。今度はだれと喧嘩したのだ? 破落戸か? 侠客か?」


 伊織に背を向けて櫛松の治療をしながら、医者の村濃玄斎は軽い口調でそう尋ねた。伊織は自分で簡単な手当てをしながら、大きなため息をつく。


「そんな訳ないでしょう。いつの話をしているんですか、村濃先生。もうそんな歳ではありませよ」


「何を言う。お前など、まだまだ若造の餓鬼だ」


「左様で」


 からからと笑われ、伊織はそれ以上口を噤む。彼の雰囲気がどことなく翁に似ている気がして、どちらにも自分は敵わないのだと悟った。いや、過去を知っている分、村濃の方が幾分か厄介だろう。




「冗談はさておき。お前たち、本当に何と戦っておった。獣か何かか? 人がつけた傷とは、およそ思えんが」


 調子を落としたその声に、伊織が顔をあげれば、村濃が至極真剣な表情で自分を見つめていた。


「櫛松さんは、もういいのですか?」


「ああ、ひとまずはな。とはいえ、これまで通りという訳には、いかんだろうがな」


 肩越しに振り返った彼の背後には既に治療を終え、着物の整えられた櫛松が眠っている。襟や袖から覗く包帯は痛々しさを感じさせ、呼吸も規則正しい訳ではない。もう少し落ち着いたら家へと運ばれるのだろう。


 でだ、と言いながら、村濃は伊織の襟に手をかけ、左胸をはだけさせた。その下の包帯は不格好に巻かれ、血が滲んでいる。伊織の努力虚しく、包帯はあっさりと村濃によってほどかれた。


「血は未だ止まっておらんようだが、然程深くはなさそうだな。傷が膿まなければ大事には至らんだろう」


 村濃は油紙に薬膏をつけると、勢いよく傷口へと押し当てた。薬が染みるというより、傷を叩かれた痛みに、伊織の喉から絞り出されたような声がこぼれる。村濃は気にすることもなくその上からきれいな包帯を巻いていく。それが終わると、細かい傷に薬を塗っていった。血は止まているものの体のあちこちに傷があるため、全身を包帯に身を包んだ上に着物を着る形になる。それでも襟もとの合わせや破れたところから包帯が覗き、見てくれの痛々しさは然程軽減されていないようだ。自分の様を一通り見、その無様さに伊織は思わず自嘲気味に鼻で笑った。

お読みいただきありがとうございます。


前回の更新時に3/4万人を突破し、嬉しくなっておりましたが、更に嬉しいことがありました。

活動報告にコメントがつきました。本当にありがとうございます。

応援を励みに、これからもより一層頑張っていきたいと思います。


この三連休、不要不急の外出を控えるようにと言われておりますが、想像力は無限で自由です。

物語の中でだけでも、不要不急の外出をして、息の詰まらないようにと思っております。

少しでもそのお手伝いができておりましたら幸いです。

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