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雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第三幕――○○○(????)
65/280

16-(2)

 大蜘蛛めがけ、人影のようなものが空中から墜落した。けたたましい音と共に地面が揺らいだかと思えるほどの振動が足元から頭へと伝わる。殺気が途切れ、固くなっていた体から力が抜けた。空気を求めるように三人は荒い呼吸を繰り返す。慌てて視線をあげれば、大蜘蛛の背中には全身赤い肌をし、額から角を生やした筋肉質な何者か。そいつが全体重をのせて両手で握る金棒を、大蜘蛛の背中へ衝き下ろしていた。


「何だこの揺れは」


 九曜のそんな言葉が、呆然と目の前の事態を捉えているだけだった伊織の意識を現実へと引き戻した。慌てて振り返れば、櫛松の体を支えながら九曜は辺りに気を巡らせている。何が起きたのか、相変わらず分かっていないらしい。伊織が再び大蜘蛛の方へと視線を戻せば、赤い肌をした何者かが大蜘蛛の背から飛び降り、音もなく彼の目の前へと着地したところだった。


 やはり九曜と櫛松には目の前にいる赤い肌の輩の姿は見えていないらしい。これだけ至近距離にいるにもかかわらず何の反応も無いのが何よりの証拠である。


 ふと、肩越しに振り返った眼前の輩と目が合った。伊織は思わず視線を逸らす。奴は見遣っただけだろうが、あの常人とは思えない目を見続けるのは何だか憚られた。



 だが、もしかしたら、今の行動で見えていることを気が付かれたのでは?



 そんな邪推などどこ吹く風と、目の前の奴は大蜘蛛へと金棒を向けた。視線が逸れ、それに合わせて目の前へ向き直る。自分たちに背を向け、庇うように立ちはだかる奴を頭の先から舐めるように観察し、一体何者なのか一考してみることにした。


 まず金棒を片手で持ち、木の棒でも振り回すように軽々と振り回している点。そもそも金棒なんてものを、武士が刀を持つように自然に持っているということ。全身の赤い肌。人とは異なる金色に輝く瞳。そして何より、前髪の隙間から覗いてみえた牛のような角。



 もしかしたら。



 頭が答えに辿り着くより先に意識は他所へ逸れることになった。


 意識の外にあった草むらが音を立てて揺れる。三人の視線がそちらへと向く。何度味わおうと慣れることのない緊張感が体を支配する。


 草をかき分け現れたのは、雲居藩ではまず見かけない恰好をした人間の男だった。明らかに山を登ってくるのに向いていない白い衣。それでも多少の動きやすさを出しているのか、裾を絞った袴を穿いている。どことなく神職の人間を連想させるような恰好だった。


「やっと、いた」


 男はため息混じりに何とかそれだけの言葉を紡ぎだし、両手を両膝に突いて荒い息を整える。汗を額ににじませ、疲れ切っっているのを全身で表していた。半眼で上げられた顔は線が細く、間違っても野山に交じって何かするようには見えない。見目も恰好も山には不釣り合いで、男に視線は釘付けになる。


 しかし伊織は男よりも、その後ろに目を奪われていた。


 青い肌に、額には二本の尖った角。上半身は裸で、腰には虎の皮が巻いてあるだけ。背丈も白い衣を着た男を子供と見紛うほど、頭二つばかり大きい。相当な巨漢である。


「一気に片を付ける。足止めしろ」


 ようやく息が整ったのか、男が体を起こす。後ろにいた巨漢へ感情を伴わなぬ冷たい声をかけると、伊織たちを無視して大蜘蛛の前へと躍り出た。懐に手を入れ、何やら縦長の紙片を取り出す。大蜘蛛は何かを感じ取ったのか、苦虫を噛む潰したように顔を歪まる。


「厄介な奴と遭うてしもうた。ここは退かせてもらおう」


 そう吐き捨てると、糸を自分の遥か後方へと飛ばした。赤と青の肌をした巨漢二人が逃すまいと飛びかかる。だが、一瞬の差で大蜘蛛の体は宙へ浮き、山の奥深くへとその姿を消した。空振った金棒が地面に叩きつけられる音だけが虚しく響き、無駄に地面を揺らした。


 大蜘蛛の姿は見えなくなり、赤い肌の巨漢は白い衣を纏った男に首を振ってみせる。後を追うことはできない、と伝えているのだろう。男は苛立った様子で舌を打ち、手にしていた紙片を懐に戻した。

お読みいただきありがとうございます。


今月は30日がありませんので、このような二つの月の境のような時間に更新しております。


新型コロナウイルスですが、遂に来るところまで来た、といった状況になりましたね。

イベントごとは中止。博物館も閉鎖。学校も休校。不要不急の外出を控えろ。

終わりの見えない災害や戦争のようです。

皆さまもお気をつけください。と言っている自分が、本日不要な外出をしたのですが……。

特別展はいいですね。

皆さまはこういった危険を冒さぬよう、ご自愛ください。


06/28 一部誤字訂正いたしました。

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