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雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第三幕――○○○(????)
60/280

15-(1)

 予期していなかった音に、伊織はびくりと身を固くする。



 まだ妖怪が潜んでいたのか。



 そう予想できなかった己に歯噛みしながらも、悪化したこの状況をどう脱するか、瞬時に頭を巡らせる。身構えている間にも蜘蛛は伊織へと一歩、また一歩と迫り、草を掻きわける音も徐々に近づいてきている。



 目端に薄っすらと映り込んでいた草々が、ひと際音をたてて揺れた。





「はあ。ようやく開けたところに出られた」


 その声と共に姿を現したのは妖怪ではなく、九曜であった。相当さ迷ったのか、息も身形も乱れている。


「九曜殿! どうしてこんな所に」


 驚きのあまり、一瞬大蜘蛛が目の前まで迫っていることも忘れ、思わず声を上げる。しっかりと構えていた筈の切っ先も下がってしまう。伊織の呼びかけを受け、九曜はようやく彼がいることに気がついた。


「花菱、お前そんなところで一人、何をしているんだ?」


「何って」


 九曜の訝しげな問いかけに、反射的に応えたが、途中ではっとして言葉を切る。この危機的状況に於いて、九曜のゆとりは一体どこから来るのかを考え、ある答えに思い至った。



 彼にはこの大蜘蛛が、見えていないのだ。故に余裕な態度でいられるのだ。


 このまま九曜がこの場にいれば、命が危うい。今すぐ立ち去らせなければ。



 伊織にそれだけのことを考える時間があったということは、同時に大蜘蛛にもこの状況を把握するだけの時間が与えられたということに他ならない。






 結論が出たのはほぼ同時であったが、動き出しは、大蜘蛛の方が早かった。


「九曜さん! 今すぐ逃げてください!」


「は?」


 迫りくる大蜘蛛の姿を捉えることのできない九曜は、伊織の言葉を理解出ない。木々の集まる薄暗い山の中でぽっかりと開けた場所には部下である花菱と自分の二人しかいないというのに、それの一体何が危険だと言うのか。


 大蜘蛛は草を蹴散らし、枝を体にぶつけながら九曜との間を詰める。自然が起こした音だけは九曜にも届いており、そちらを訝しげに見遣った。


 伊織がいくら声をかけようとも、彼はその場を動かない。それどころか大蜘蛛の口を受け入れるかのようにそちらに体を向けたままでいる。




 猶予は無い。このままでは、九曜もあの脚絆の持ち主と同じ末路を辿ってしまう。




 伊織は刀をその場に捨て置き、鞘に手をかけた。


「避けてください!」


 何の前触れもなく発せられた言葉に、九曜は視線を伊織へと移す。彼が見たのは、伊織が己に向かって小柄を投げた、まさにその瞬間であった。九曜は慌てて身を屈め、その刃を避ける。小柄は九曜の頭上を通り過ぎ、彼の背後にあった木の幹に刺さった。


 それから一拍遅れ、小柄の刺さっている木の幹がみしみしと音を立て始める。何かに押し潰されるように両脇から幹が砕け、大きな音と共に倒れた。九曜には何が起こったのか理解できず、土煙を上げるその倒木を呆然と見つめることしかできなかった。

お読みいただきありがとうございます。


年が明けまして、社会人の皆様は既に仕事が再開したことでしょう。

学生の皆様は、もう学校が始まった頃でしょうか。


自分がまだ学生をやっていた頃、この時期には学年末試験や後期試験が迫り、慌てつつも結局勉強しない、なんて過ごし方をしていました。思い返せば、不真面目な生徒だったような気がします。授業中に本を読んだり、小説を書いたりしているような子供でした。


今、学生をやっている皆さん。

こんな大人にならないようにお気を付けを。

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