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雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第一幕――○○(????)
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2-(2)

 奉行所というものは各藩に存在する。江戸にある北町南町の奉行所が一番有名だろう。大阪や伏見、仙台藩の奉行所も大きく、奉行には江戸城に上がるような武士が江戸から派遣されてくる。しかし外様などの大半の藩に存在する奉行所は、その藩の武士が役目を勤めている。藩のもめ事は、その藩で収めるのが常である。


 雲居藩は石高の低さ故、奉行所で働く人数は少ない方だ。武家屋敷の建ち並ぶ町と町人などの住まう町の狭間に位置する場所にその建物はある。





 伊織が奉行所に行くと、夜番だった者達が眠たげに昼番の与力に報告をしていた。依然辻斬りの正体は掴めず、事が起こるのを待つ形になってしまっている。

 話に耳を傾けながら、伊織は自分の席につく。文机の上に置かれた書類は例の辻斬りに関するものがほとんどだった。



 辻斬りは既に四件に及び、皆三太刀の内に殺されている。事はいつも夜に起こるが、殺されたのは武士だけではなく町人も襲われた。故に近頃は夜に出歩くものがめっきり減った。城下町は閑散としていっている。


 話によると、遺体に残っていた辻斬りの太刀筋は一人のものとは言えず、下手人は二人以上ではないかと考えられるそうだ。だが、遠目で見た者の話では一人しかいなかったと言う。奇妙な話に同心や手先達は見事に惑わされている。



 伊織は一通り書類に目を通すと、火鉢にかけられた鉄瓶から湯を注ぐ。火鉢の回りには同心達がお互いに知り得たことを話している。伊織は気にする様子もなく、湯呑を啜った。

 九つを告げる鐘が鳴り、伊織は奉行所を出た。本来は同僚や岡っ引きなどの手下と共に二人以上で行動するのが定石である。しかし伊織は一人で町を回る。




 昼頃になり、彼はたまたま見つけた蕎麦の屋台に入る。右手で暖簾を上げながら、蕎麦屋の親父にかけそばを頼む。他の客の話題は辻斬りで持ちきりだった。内容は奉行所でされていたものと然程変わりない。


「で、お侍さん。実際のところどうなんですか」


 親父の主が伊織に蕎麦を出しながら尋ねた。他の客も話を止め、伊織を見る。


「どうってったって、どうもこうもない。大したことは何も分かってないんだ」


 伊織はどんぶりを受け取り、蕎麦に箸をつける。蕎麦を啜る音が、話を途切れさせる。


「しっかりしてくださいよ、お侍さん。これじゃ夜遊びもできやしねぇ」


「そうか。なら、もう少し必死にやってみるよ」


 伊織は客の一人に笑ってみせ、残りを一気に飲み干した。

お読みいただきありがとうございます。



冒頭の奉行所についてですが、真偽を混ぜております。

治安維持方法を表すにあたって、良い名称が最後まで見つからずこうなりました。読む方が読んだらおかしいとは思いますが、ご了承ください。

時代考証は自力で出来うる限り行っておりますが、もし間違っているところがありましたら教えていただけると幸いです。

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