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雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第二幕――○○(??????)
48/280

12-(2)

「いらっしゃいませ。三石様、いつも御贔屓くださりましてありがとうございます。そして花菱様、お久しゅうございます。ようこそお越しくださりました。ささ、どうぞゆっくりしていって下さいまし」


 二人がふじやの暖簾をくぐれば、框に座っていた店の女将が息継ぎなくそう言い切った。そのまま言葉を挟む間もなく刀を預けさせられ、店の中へと上がらされる。


 店の中は慌ただしく、手代や丁稚、女中が縦横無尽に行き交う。二人は女将から引き継いだ手代に先導されながら、その中を部屋まで案内された。





「すぐに酒をお持ちいたします。誰か手隙の者を寄越しましょうか」


 部屋に入った伊織と兵衛が上座に腰を下ろすと、敷居の外で頭を低くしている手代が声をかけてきた。着いて早々の質問に伊織は辟易した様子で膝に手をつく。対して兵衛は待っていました、と言うような顔をした。


「ならば、おゆりは空いているか?」


「三石様がお呼びとあらば、ゆりの奴もすぐに参りましょう。花菱様はいかが致しましょうか」


「おきくは空いているのか?」


 仕方無さ気に尋ねられた言葉に手代は浮かべていた笑顔を一瞬固くする。だが客の前であることを思い出し、すぐにいつもの商売顔に戻した。


「はい。きくでしたら、すぐにこちらに参らせます」


 手代は一度深々と頭を下げると、音を立てずに襖を閉めた。足音が離れていったのを聞き届けてから兵衛はその場へ大の字に寝転がる。


 伊織が片膝を立ててため息をつくと、太股をつつかれた。顔をあげると、兵衛が足でつついてきている。粗相をする足を平手で打てば、足は伊織から距離をとった。


「お前、相変わらずおきくを贔屓にしているのか?」


「悪いか?」


「いや、女の好みは人それぞれだから俺が口を出すことでは無いんだろうが」


「何が言いたい」


「お前、あの愛想の無い女の何が楽しいんだ?」


 心底不思議そうにする兵衛に、伊織は分からないという顔をした。


 お互いの間に認識の齟齬を察した伊織は、ふっと笑みを浮かべる。


「お前にはきっと分からんよ」


 兵衛はますます分からなくなり首をかしげた。






 話が終わったのを見計らったように襖の向こうから、失礼します、という女の声がかかる。兵衛が返事すれば、しずしずと襖が開けられた。


「お酒をお持ち致しました」


「来たな。久しいな、おきく」


 伊織が声をかければ、女がゆっくりと顔をあげた。襟は大きく開かれ、首から胸の上まで塗られた白粉が顔を見せる。


「お久しゅうございます、花菱様。それと、この度は花菱様をお連れくださりありがとうございます、三石様」


「いや、これ位いつでも引き受けてやるよ」


「こいつに礼を言ってやることはない。こいつはここに来る口実が欲しいだけなんだからな」


 あっさり実を晒され、胸を張っていた兵衛は狼狽える。あからさま咳ばらいをして仕切り直そうとするが、言葉を上手く紡げなかった。


「と、とりあえず中に入れ。いつまでも廊下にいさせる訳にもいかんだろう」


「それもそうだな」


「では、失礼致します」


 きくは重ねた膳を持って部屋へ入ってくる。二人の前に膳を置くと、伊織の隣に腰を下ろした。伊織が猪口を手に取ると、徳利を膳から取ったきくはにじり寄って体を伊織に沿わせる。





「ささ、どうぞ一献」



 徳利を少し傾けて、ゆっくりと酒を注いだ。そして離れがたそうに手を足に添えながらも、呑む邪魔にならないように体を離す。伊織は何でもないように、一気に酒を飲み干した。


「俺には注いでくれんのかい」


 手酌をしながら、兵衛は不貞腐れたようにきくと伊織にじっとりした視線を向けている。面倒臭そうに視線を返す伊織に対して、きくは袖で口許を隠しながらくすくすと笑い声を漏らした。


「おゆりのお客に酌なんでしたら、私が後で何されるか。面倒事はごめんだね。それに、私のような愛想の無い女に酌されても、三石様は嬉しくないだろ?」


 兵衛はばつが悪くなり、視線を反対へ逸らす。聞いていたのかよ、とぶつくさ言いながら手酌しては杯を煽るを繰り返した。


「まぁ、自業自得だな。それとおきく、口が戻っているぞ。もっとしっかり取り繕えと言っただろう」


 伊織が咎めると、きくは謝りながらも伊織の腕にすがり付いた。伊織は気にする様子もなく、次の酌を催促する。兵衛はついに伊織達に背を向け、手酌で酒を呑む速度を早めた。





「けっ、酒が辛ぇなぁ」


 兵衛の不平はゆりが座敷へ上がって来るまで続き、その度に伊織は彼の漏らす不満に相槌を打たされ続けた。

お読みいただきありがとうございます。


パソコンから離れている間、無事に更新されているのか、スマホから何度も更新されているのか確認してしまいました。

きちんとこうしんされ、心から安堵しました。

その折、ブックマークが増えているのに気が付きました。

本当にありがとうございます。


この章も終わりが近づいてまいりました。

テレビを見ていると、ドラマが次々と最終回に向かって物語を進めていっています。

ずっと見ていた2シーズンのミステリードラマも最終回を迎えてしまいました。あのドラマの真犯人も、オチも全く予想できず、毎週ハラハラドキドキさせられました。

知り合いが「ニュースにネタバレされた」と嘆いており、心の中で手を合わせるほかありませんでした。可哀そうに……。


自分の話はミステリーではありませんが、続きの気になる物語になっていれば幸いです。

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