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伊織は盆から出ていた杯を適当に乗せ直すと、それを持って老夫の隣に腰を下ろす。老夫との間に盆を置き、自身も取り出した煙管に火を移した。ふうっと吐き出された紫煙はゆらゆらと宙を舞い、霞のように月を覆ってから霧散する。
一連の煙の行く末を見つめていた伊織が、思い出したように、そうだ、と老夫に声をかけた。
「できることなら、家にはちょくちょく顔を出してくれないか?」
暫く会話がなかっただけに、老夫の杯に伸ばしていた手が一瞬躊躇する。上目で伊織の顔を覗けば、煙管を咥えたままにやりと広角を上げていた。
「何故じゃ?」
「他所ばかり入られるとまた騒ぎになるというのもあるが、単純に俺があんたと話がしたい。酒も用意しておくぞ」
「妖怪と話すことなどあるか?」
「ある。俺は妖怪について知りたいし、あんたについても知りたい」
老夫は傾けていた杯を置くと、そのまま右手で頭を抱え、大きなため息をついた。呆れてものが言えないとはこういうことか、と思ってしまう。
「お前さん、本当に変わっとるな。自ら進んで妖怪に関わろうとするなど、余程の変り者じゃよ」
「誉め言葉と受け取っておこう」
額に手を当てたまま俯く老夫に、伊織は屈託の無い少年のような笑顔を向けた。ちらと伊織の顔を見た老夫が再びため息をついたのは言うまでもない。
翌朝。いつものように佐吉が家に入れば、いつもなら閉まっている筈の雨戸が一ヶ所だけ開いている。泥棒でも入ったのではないかと慌てて駆け寄れば、そこには伊織が大の字になって高いびきをかいていた。
「旦那様、起きてください」
佐吉は草履を脱いで伊織の傍らに両膝をつき、彼を揺する。何度目かの声かけで、伊織はようやく目を覚ました。後ろ手に床についた手が空の徳利にあたり、敷居まで転げていく。佐吉が辺りを見渡すと、空になった器たちが散乱し、煙管盆の中の炭は灰になっていた。
「こんなところに、そんな恰好のまま寝ていると風邪ひきますよ」
母親のような苦言を呈しながら佐吉は残りの雨戸を開けていく。未だ意識が判然としていない伊織は、ああ、といい加減な相槌を打ちながら、体を起こして頭を横に振った。なんとか開かれた瞼もすぐに閉じてしまいそうに重たげである。
「今日のお勤めはございませんので?」
「いや、あるが」
「なら早く支度してください。あっしは朝げの支度をしますので」
伊織は立ち上がると、ふらふらと井戸のある家の裏へ向かう。だらしなく開かれた胸元に手を入れて腹を掻いている様はとても気だるげである。佐吉は辺りに散らばっている器を拾い、賄い場に向かった。
佐吉が朝食の支度を終え、膳を用意した頃合いに伊織は漸く姿を見せた。袴を穿き、長着も着替えている。顔を洗っても未だに眠いのか、何度も欠伸をくり返す。
「翁、見てないか?」
部屋の中を見渡しながら伊織は欠伸混じりに尋ねた。櫃から米を装いながら佐吉は首をかしげる。
「おきな、ってのは、誰のことですかい?」
「ほら、昨日の妖怪のことだ」
「生憎とあっしには見えませんので」
「そうだったか」
納得したのか曖昧な返事を返しながら伊織は茶碗を受け取り、食事に箸をつけた。翁と呼ぶ昨晩の老夫が気になっているのか、彼の箸は遅く、ぼんやりとした様子である。
「もう、どこぞに行ったのか?」
お読みいただきありがとうございます。
言い訳をさせてください。
つい少し前まで、録画の被った番組を見ていたんです。映画だったんです。
寝ようとして思い出し、更新作業をしていたらこの時間になりました。
お待たせいたしました。
世間はお盆ですが、相変わらず自分は出勤する日々です。
お休みって、なんでしょうね。なんてことを考えてしまいます。
話は変わりますが、またもやブックマークが増えておりました。
心より感謝申し上げます。
自分はSNSはほとんどしておりませんが、肯定要求というものを最近感じております。
これからも精進してまいりますので、何卒宜しくお願い致します。




