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雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第一幕――○○(????)
4/280

1-(4)

 程なくして沸いた風呂に伊織はさっさと入る。風呂の外ではすゞが顔を赤くしながら火と向かい合っていた。


「俺が上がったらお前も風呂に入れ」


 湯船に浸かりながら伊織は彼女に声をかける。すゞは元気に返事をすると、また火を吹いてさらに燃え上がらせた。





 伊織の後湯にすゞは入った。多少ぬるくなっていたが、彼女が気にする様子はない。暫く湯浴みをしていなかったのか、手拭いで擦れば体の所々から垢が浮いた。



 体を流し終えると、湯船に浸かり息をつく。やはり気を張っていたのか、疲れた様子である。手拭いで首筋の汗を押さえながら窓から外を覗けば、下の竃からゆっくりと燻っていた煙が上がって行くのが見えた。窓から流れ出た湯気と混ざり、空へとけて消えていく。


 ふと、風呂釜の竃から一筋の煙が他の煙とは別の方向へ上っていったのに彼女は気づいた。それは窓の上のあたりに留まり、渦を巻き始める。人の顔くらいの大きさになった時、煙の渦の中に顔が浮かび上がった。その顔は細い目でじっとすゞのことを見下ろしていた。これは煙々羅(えんえんら)と呼ばれる妖怪である。


「女の風呂を覗くもんじゃないよ」


 すゞがそう言って睨み付けると、煙々羅はまた元の煙になって姿を消した。後には何も残らず、煙と湯気が一緒になって昇っていくばかり。すゞはため息をつき、風呂場を出た。





 風呂から上がると、見計らったように伊織が自室から顔を出した。部屋には既に布団が敷かれている。すゞは額を冷たい床につけた。


「床の用意もせず、申し訳ございません」


「構わん。それより、この時期の夜は女中部屋が冷えるから母屋の空いている部屋で寝起きをしろ。仏間の隣が空いている。布団は既に持ってきておいてあるから、それを使え」


「女中の身で母屋で休むなど、そのような訳には参りません」


「確かに伝えたぞ。では、俺は寝る」


 伊織は言うことだけ言うと、すゞの反論も聞かず部屋に引っ込んでいった。すゞは仕方なく伊織の言う通りに部屋を探す。だが、来たばかりのすゞには仏間も空き部屋もどこなのか分からないのだ。


 当てずっぽうで部屋の襖を開けると、月明かりも指さぬ北向の暗い部屋だった。部屋の奥には仏壇があることに気付き、この部屋が仏間であるが分かったすゞは急いで襖を閉めた。


 隣の部屋を開けると、部屋の中央には伊織の言う通り布団が一組置かれていた。薄っぺらいせんべい布団である。すゞはその布団を敷くと、すぐ横になった。まぶたは重みを増し、すぐに閉じられる。部屋には月明かりが差し込むが、明るすぎるようなことはなかった。




 この藩には、妖怪が少ない。




 すゞは眠りに落ちる直前、そんなことを思った。


思えば、タイトルに妖怪と入っているのに、妖怪らしい妖怪の名前が出てきたのはこれが初めてですね。

次に妖怪が出てくるのはいつなのでしょう? 自分でも分かりません。

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