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「娘、ここで何をしている」
伊織に声をかけられた女は三本指を揃え、頭を下げた。
「女中として雇っていただきたく、花菱様のお帰りをお待ちしておりました」
「この家の噂を承知の上で来たのか」
「はい」
「そうか。ところでお前はここに来る前、何をしていた?」
「紀伊国の御棚にてご奉公をしておりました」
伊織はにやりと口角を上げると女に背を向け、家に上がる。佐吉も女の横を通り過ぎ、勝手口に向かう。玄関の階段を上ったところで、伊織は女の方をふり返った。
「娘、名は何と言う」
「すゞにございます」
「ではすゞ、さっさと勝手から入れ。早速だが夕げを頼む」
すゞは返事を一つすると、立ち上り荷を持って勝手口に向かっていく。伊織は己の部屋に向かった。
食事の用意は四半時もしない内にできた。伊織は既に身軽な着流しに着替えていた。膳の上にはご飯と汁物、煮物に菜の物。 伊織は早速箸をつける。
「お口に合いましたでしょうか」
居間の隣の賄場の板間に座っていたすゞが固い表情で窺い見る。佐吉も竈の前から彼を見る。
「ああ、旨い。中々のものだ」
すゞは安堵したのか笑顔になり、自分の前の盆に乗ったご飯に手をつけた。佐吉も二人につられ、自然と笑みをこぼす。
食事を終えた伊織の膳を下げ、すゞは調理器具を洗う。ゆったり茶を飲む伊織の元に佐吉は寄る。
「今日はこれで失礼いたします」
「あぁ」
佐吉はすゞを少し窺い見ると伊織の耳に口を近づけ、手ですゞから見えないように隠す。
「くれぐれも女中を襲うようなことのないように」
「お前は俺をなんだと思っているんだ」
眉間にしわを寄せる伊織が佐吉を睨み付け、彼は含み笑いをしたまま部屋を出る。すゞに一声かけ、彼は屋敷を出た。
この花菱伊織の屋敷、屋敷と言うほど大きくはない。生垣が屋敷を取り囲み、正面には屋根付きの木戸があり、裏には片戸の木戸がある。正面の庭は木戸から続く石畳があるだけだが、裏の小さな庭には汲み井戸と小さな畑があり、糠漬用の蕪や茄子等が植えられる。庭の端には柿や椿の木が生えている。母屋の他に小さな離れがあり、物置と女中部屋が半々になっている。母屋には風呂と賄場、厠の他に四つ部屋がある。親子二代が何とか住めるくらいに手狭だが、伊織一人が住むには些か広い家である。
佐吉がいなくなり静かな屋敷の中に賄い場からの水音だけが広がる。
「すゞ、風呂の支度を頼む」
「はい、只今」
すゞは前掛けで手を拭くと、勝手口から出て風呂場の外に回る。伊織は待っているのが暇に思い、立ち上がった。外で風呂の支度をするすゞに手を貸し、風呂に水を張った。
ようやく女中の名前が判明し、喋りました。
ここまでの遠く感じるのは何故なんでしょうか。
投稿って難しいですね。なかなか慣れません。




