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何と返事をして良いものか。考えてみるが適当な答えが見つからず、ただ呆然とすゞを見つめた。彼女は何度か深呼吸を繰り返し、僅かだが呼吸を整える。
「人の姿を、とって、いようとも、所詮は、猫又。猫には、違い、ありません。ただの、猫のように、毎年、季節毎とは、申しませんが、数年に、一度、春に、半月から一月、程、盛りが、つくのです」
途切れ途切れに説明をしたすゞの呼吸は、短く浅く繰り返される。小さく声を漏らしながら身じろぎすれば、裾は乱れ、白い肌や襦袢に砂が付く。
伊織は天井を仰ぎ、ひとつゆっくりと深呼吸をするとすゞに向き直る。先程までの動揺を一切押さえ、平常の様子ですゞを見る。
「どうやって紛らわせるつもりだ? そのまま一月続くのは辛いだろう。一人で慰めるのか?」
真顔での問いかけに、すゞの顔は今までで一番真っ赤に染まり熱を持つ。そのまま湯気が出るのではないかと思うほどだ。恥ずかしさから胸に当てていた手は口許を覆う。
「ひっ、一人で慰めなど、致しません!」
「なら、どこぞで男でも見繕うのか? 俺に頼むと言うのなら吝かではないが」
「心配いただかなくとも、宛はあります!」
「男がいるのか」
「幼馴染みです!」
床を叩き、力を込めて言い放った。伊織の表情はほとんど変わらないようで、口角が僅かに上がっているくらいである。それを見て初めてのすゞは自分が赤裸々に語っていることに気が付いた。
「このような話を、させないで、くださいませ!」
この場から一刻も早く立ち去りたくてすゞは立ち上がろうとする。しかし、自分の足に力が入らないことを忘れていたのか、無理に立ち上がり、あっ、と言う声と共にまたその場に崩れ落ちる。伊織は慌ててすゞの体を支えた。すゞは正面から伊織の胸にもたれ掛かる形になる。
「このまま女中部屋に運ぶぞ。今日はなにもしなくて良い。飯も運んでやる」
そう言って伊織は彼女を横抱きにして、足で乱暴に土間の扉を開けた。勢いよく開いた戸は柱にぶつかって少し跳ね返り、軽快な音をたてた。背中や太股の裏に触れる人肌の温度にすゞは思わず甘い声をあげる。
「その様なこと、旦那様に、させるわけには、参りません!」
伊織は何も応えない。離れの女中部屋の戸を足で開け、ずかずかと部屋に入る。乱暴に薄っぺらな煎餅蒲団を足で広げ、その上にそっとすゞを降ろした。
「その様で何ができる。二本の足で立てるようになってから言うんだな」
困り顔で見上げてくるすゞの頭を柔らかく撫でると、彼女を一人残して部屋を出た。
お読みいただきありがとうございます。
二月の頭の夜、家におりますと、外から赤ん坊が泣き叫ぶような声が聞こえてきました。
要するに、あれです。今まさに作中ですゞの身に起こっている現象が野良達にも発生している訳です。あまりにも作中とリンクしすぎて驚きました。
しかし、春節(旧正月)前の出来事でしたので、作中と時軸とズレてしまったことに正直焦っています。
先日ブックマークば増えておりました。本当にありがとうございました。
これからも宜しくお願い致します。




