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雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第七幕――〇(???)
251/266

61-(1)

 夕げを終え、家のことをすゞに任せてから佐吉は家族の待つ長屋へと帰っていった。



 すゞとえんも女中部屋へと戻っている。すゞは伊織が休むまで母屋にいるつもりだったが、主である伊織がそれを止めた。身重のえんを休ませる為、何かあった時側に誰かがいた方が良いと言いくるめ、なんとか下がらせたのだった。




 残ったのは伊織と翁、長光、光世。伊織と翁は内縁に腰を下ろし、送り犬二匹は庭に出ていた。


 どこからともなく届く虫の声が庭に満ち、秋の夜の穏やかな心地よさを更に引き立てる。これからする話を思えばこれくらいの平穏さが丁度良いのかもしれない。



 酒を傾ける二人を前に口火を切ったのは光世だった。


「先程えんさんを診せていただきました。皆様の考えておられる通り、一月の内にお腹の子は産まれるかと思います」


「お腹の子が何者か分かったりするか?」


 伊織の質問に光世は少し戸惑いを見せた。相談し合うかのように長光と互いに目配せし合い、再び伊織の方へと向きなおった。


「明確に何者かまでは分かりませんが、人でないことは間違いないかと思います」


「親が親だからか?」


「それは理由であって根拠ではありません。人であるえんさんのお腹の中から妖力が感じられませんので、人ではない、と申し上げました。翁様もお気付きでしたよね? 伊織様には話されていなかったのですか?」


「人ではないことは分かり切っておったからのぉ。今更話すこともないじゃろう」


「と言うことは、えんさんにも話されていないということですよね」


「話していないと何かあるのか?」


 翁への光世からの確認の言葉に伊織が問いを返す。翁は煙草の煙を味わうばかりで何も語らない。


「人は妖力を持ってはおりません。その人から妖力を持った妖怪が産まれるのです。元来体の内に無い力があり続けている今、えんさんの体には相当の負担がある筈です。当たり前のようにふるまえているのが不思議なくらいです」


「普通は違うのか?」


「人が妖怪を産むなんてこと稀ですから、他がどうだかは分かりません。あたしたちも初めて見ましたから」


「大丈夫、なんだよな?」


「確実なことはなんとも」


 横にいる翁を睨みつけるが、無言の圧などどこ吹く風。視線の合わない翁の肩を掴み、伊織は己の方へと向けた。


「何で今まで言わなかったんだ、翁」


「言ってどうなるものでもないじゃろう」


「言わなきゃ分からないだろう。妖力なんてもん人の俺たちには分からないんだから」


「そうじゃろうな。だから言わずにいた」


「どういう意味だよ」


 伊織の手から力が抜け、肩から離れる。乱れた襟を整え、翁は流し目で伊織を見上げてきた。


「言えば妖力を意識するようになるじゃろう。負担になると言えば、そういうものと思う筈じゃ。そうすれば折角何事もなく動けているえんは床に臥せるようになってしまうじゃろう。気付かぬうちはその方が良いと判じたまでじゃ。すゞたちにも厳命しておったからお主も知らんかったじゃろう」


 翁の言う通り妖怪には妖力が分かるのならば、当然すゞや付喪神たちが分からない筈はなかった。


「子の妖力を生み出す為にも母であるえんさんの体力は奪われ続けるでしょう」


「翁様の言う通りえんさんに妖力云々は伝えない方が良いだろう。我らはえんさんがいつ倒れても良いように気を配っていれば良い。花菱様も覚悟しておくことだ」


 長光の言う覚悟という言葉を伊織は口の中で繰り返した。



 ただでさえ出産は命懸けだというのに、妖力やらのせいで懸念が更に増えてしまった。妖怪を産むということはそれだけ大変なことなのだろう。


 えんが見せる笑顔の裏にはどれだけの辛さが隠されていたのかを思い知らされた気がした。

お読みいただきありがとうございます。


この二日、急なアクセス数の伸びに驚きを隠せません。

数日前にもアクセス数が伸びていましたし、急に注目を集めるような何かがあったのか、全く心当たりがありません。

いえ、驚いてこそいますが、嬉しくない訳ではないので誤解の無きよう。

重ねてお礼申し上げます。


妖怪ブーム、と言うのでしょうか。

この春ゲゲゲの鬼太郎のアニメが放送されています。妖怪絵の特別展も開催中です。

ゲ謎ブームのお蔭でしょうか。

妖怪が好きな自分としては嬉しいばかりです。

日本人の心には妖怪の存在「があるのでしょう。

昔江戸東京博物館でやっていたような大妖怪展、またどこかの博物館でやってくれないものか、期待しています。

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