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雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第六幕――〇〇〇(?????)
218/267

53-(2)

「ところでお兄様と伊織様はこのような刻限にこちらへ? まさか怠ける為ですか?」


「さあ?」


 三石兄弟の視線が伊織へと向き、他二人の目も集まる。伊織は庭を一通り見回してから少し後ろに控えていたすゞを見た。


「佐吉はどうした。まだ戻っていないか」


「はい」


「何か知らせは」


「いえ、特には」


「お前、佐吉にやらせていたのかよ」


 伊織は兵衛からの問いには答えず手元の茶を啜る。沈黙は明らかに肯定を表している。


「佐吉さん、探してまいりましょうか」


「すぐに見つかるか」


「おそらく」


「なら頼む」


「承知致しました」


 すゞは一度頭を下げ、兵衛と信乃には軽い会釈をしてからその場を辞した。立ち去る時、帯に手を掛けていたのに伊織は気付き、彼女は猫化して探すのだな、と察する。それならば確かにすぐに見つかるだろう。大きくなってしまえば佐吉の方から見つけてくれるかもしれない。



 すゞが塀の屋根伝いに出掛けて行くのを見送ってから暫く。伊織の予想よりは遅く、兵衛の想像より圧倒的に速く佐吉は戻ってきた。慌てていたのか、正面の木戸からばたばたと大きな足音を立てながら駆け込んでくる。息は荒く、鬢から髪が落ちているのが縁側に腰掛けている面々にも分かった。


「旦那様、お呼び、との、ことで」


「一先ず水でも飲んでこい」


「へい」


 吐息のような返事を残し、佐吉は賄場の中へ消えていく。一拍置いて、盛大に噎せる佐吉の声が聞こえた。


 疲れ切っている佐吉を動かすことも酷ではあるが、何よりこれからの話は信乃にあまり聞かれたくないようなものだ。伊織は兵衛に顎をしゃくるように動かし、賄場へ向かう。




 途中着物の乱れたすゞとすれ違った。今度も着物は無事だったことに安堵したが、兵衛二度見し、じっとすゞの背中を目で追い続けていた。


 廊下で動かなくなった兵衛の襟首を曳き、伊織は無理矢理いつも食事をしている居間へ放り込む。態勢を崩したまま部屋に入った兵衛は尻から着地し、大きな音を立てる。痛みに悶える彼に伊織は謝罪も心配もせず後ろ手で戸を閉めた。


「疲れているところ悪いが、佐吉、報告を聞こう」


「おい、俺には一言も無しか」


「はいはい、悪かった悪かった」


「おい、誠意っ」


「あの、旦那様。お話してもよろしいですか?」


「すまんな佐吉、頼む」


 噛みついてくる兵衛をいなししなの伊織に促され、佐吉は三和土に膝をついて居住まいを正す。ぶつぶつと文句をたれていた兵衛も話の雰囲気に気がつき、黙って耳を傾けることにした。


「ご報告と申しましても、昨夜と同じくそう大したことはお話できそうにございません。あっしの方は昔の伝手を頼りましてここ一月で羽振りの良くなった者や、急にいつもと違う動きをする者を探ってもらっているところでございます。あっしも噂を聞いたって奴に誰から聞いたかってのを尋ねて辿ってはおりますが、未だ大本には辿り着いてはございません」


「分かった。急に呼び出してすまなかったな」


「いえ、こちらこそ申し訳ございません」


「もう戻っていいぞ。家族にはあまり心配かけぬようにな」


「へい、承知しております」


 一連のやり取りの後、兵衛を見遣れば何か言いたそうな顔をしている。何か言うのかと待ってみるが、伊織の視線に気づいて目を逸らした。


 一先ず探索の進捗には納得してくれたらしい。彼としては不本意な状況には変わりないが、どうしようもないことというのは存在する。何の手も打っていない訳ではないことも証明された。頼んだ側である兵衛はこれ以上問い詰めることもできない。


 これで暫くは大人しくするだろう、と伊織は胸を撫で下ろす。


 ふと、賄場が視界に入り、佐吉が未だそこにいることに気付いた。話は終わったのだからもう探索に戻っているものだとばかり思っていた伊織は二度見してしまう。


 ちらちらと伊織の様子を上目遣いで窺ってくる佐吉。これが可愛い娘子だったら、と肩を落とした。


「まだ何かあるのか」


「へい。その、古い知り合いたちに色々と手を尽くしてもらっておりまして、その、あっしの懐もそろそろ」


「つまり金か」


「へい」


 聞き込みをしているのだから金が必要になるのは仕方がない。酒屋で聞き込むにも何か注文しない訳にもいかず、また口の堅い連中を滑らかにするに幾らか包まないといけないのだ。


 本来の依頼者は兵衛であるにも関わらず、痛む懐は何故我々なのか。伊織としても納得のいかないことだが、全てが終わってからまとめて請求することにして、銭といった細かい金を幾らか佐吉へ渡す。


「ありがとうございます」


「ところで、昔の伝手とやら、詳しく訊きたいのだが」


「それは、いくら旦那様であっても申し上げられません」

お読みいただきありがとうございます。


最近の気候はどうかしているな、と季節の変わり目に思うようになった自分は、歳を重ねたということでしょうか。


春、ないな。いつ春服着ようか。

などと思っておりましたが、今度は梅雨が消えたようです。

それとも梅雨はまだ来ていないのでしょうか。はたまた空梅雨?


暑さに苦しむこともあれば、雨の夜は奥へしまった筈のトレーナーを引っ張り出す始末。


それにしても、夏、来るの早すぎではないでしょうか。

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