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雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第六幕――〇〇〇(?????)
207/267

50-(3)

 信乃の許嫁だった男の父親である現当主は厳格な男らしい。兵衛談ではあるが。



 許嫁である矢筈荘助を差し置き街中を男と仲良く二人きりで歩いているのが何度も目撃されていた。その上、信乃の男遊びの噂が広まっている。女郎通いで有名な男が兄であることも噂に真実味を持たせていた。似たもの兄妹(きょうだい)だと。


 斯様にふしだらな女を嫁として迎えることはできない。そう言い渡されたそうだ。




「その一緒にいるのを目撃された時の男、お前だろう」


「そうか?」


「信乃さんをよく知る者なら誰でも最初に思い至る」


 信乃の兄好きは三石家と関わる者の間では有名なことだ。二言目には、お兄様。兵衛について口にしない日はないような妹だ。許嫁以外なら兵衛くらいだろう、ではない。兄と連れ立って歩く他の若い男は許嫁くらいだろう、が正しい。


 この兄好きの妹とその兄。この二人の面白い所は、互いにその自覚が無いことにある。



「お前はそう言ってくれるが、矢筈家の者は皆、許嫁の荘助を含め噂を鵜吞みにし、誰も信乃を信じなかった。お蔭で信乃は昨日から塞ぎ込んでいる始末だ」



「ほう」


 突然の第三者の声。伊織は反射的に声のした部屋の隅を振り返る。


 いつからいたのか。翁がにやにやとしながら、堂々と座って話を聞いていた。




「どうした」


「いや、気配が」


「誰もいないが」


「だよな。悪い、話の腰を折って」


「問題ない」


 兵衛には妖怪である翁の姿も声も感じることはできない。それ故、伊織の突然の行動は奇異に映ったことだろう。しかし兵衛は追及しない。気を使ってという部分もあるにはあるだろうが、彼にとって今大事なのは妹の話である。



 妹ほどではないにしても、彼の妹への思いも相当だろう。



「それでお前は、一晩経っても収まらなかった怒りそのままにうちへきた、と。愚痴なら他所に行くか、せめて酒の一つでも持ってきてからで頼む」


 このまま矢筈家に対する文句を聞かされ続けるのは、素面では御免だ。


 あしらうような物言いに兵衛は、違う、と語気強く否定した。


「いや違ってもいないか。それもあるんだが」


「あるのかよ」


「どうにかしたいと考えている」


「どうにか?」


「これはまた随分と大雑把な物言いじゃのぉ」


 再び翁が相槌のように言葉を挿んでくる。



 兵衛には翁の声は届かないし、話の邪魔はしていない。だが、聞こえている伊織にしてみれば鬱陶しくて仕方がない。


 兵衛から見えないよう、後ろに回した手で出ていくように合図するが、動く様子はない。ちらりと翁を見遣れば、にやにやと笑い、煙管を吸おうとまでしている。


 紫煙は流石に見えてしまう。


 慌てて首を横に振れば、からからと笑いながら取り出した煙管を懐にしまう。



 安堵していると指をさされた。正面に目を戻せば、兵衛が怪訝な顔で伊織を見つめていた。


「さっきから後ろがどうかしたのか?」


「いや、大したことじゃない。それで、どうにかしたいってのは? 大掴みすぎて良く分かんないんだが。その、お前の考えはどうなんだ?」


「あからさまに話逸らそうとしてないか」


「いいからさっさと答えろ。用が無いなら叩き出すぞ」


 背後から翁が笑い転げている声が聞こえてくるが、伊織は無いものとすることに徹した。こういう手合いは反応したら負けだ。


 無理矢理話を戻したことがそんなに面白かったのか、翁の笑い声は長い。



 伊織が苦い顔をしていると、自分のことだと思った兵衛が、待て待て、と慌てて話し始めた。

お読みいただきありがとうございます。


この度遂にブックマークが50の大台に乗りました。

日頃からお読みいただいき、心より御礼申し上げます。


最初の投稿が2018年ですので、足掛け6年、になるのでしょうか。

このように皆様に受け入れられているかと思うと、ここまで続けた甲斐があったというものです。


これからもこの作品をはじめ、短編なども書いていくなど、精進してまいりたいと思います。

今後ともますますの御贔屓お引き立ての程、よろしくお願い申し上げ奉ります。

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