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伊織とすゞが同時に息を飲む。兵衛は置かれた湯飲みを取ると、茶を啜った。
「破落戸共とは牢を別にして、牢には奴一人だった。まだ聞きたいことはあったし、それこそ始末されたら面倒だからな。だが、殺された」
兵衛は太腿に両肘を置き、両手で持った湯飲みを足の間で小さく回す。深いため息が吐き出され、肩がゆっくりと下がっていく。
「下手人は不明。この一件はこれで終いだ」
「辻斬りの傷は?」
「首をばっさりやられていた。それと、脳天もか」
兵衛は人差し指を一本立てると左側から喉まで斬られ方を再現し、その流れで額から眉間まで縦に指を動かした。
「喉を斬ったあたり、口封じの意味もあるんだろう。だが不思議なのが、辺りにあまり血が流れていなかったことだ。首や額を斬られて、そんなことあるとはな」
「そうか」
伊織は兵衛の言葉に相槌を打ちながらすゞに目線を移す。伊織の視線に気付いたのか、彼女は頷いた。察するに、あの時の妖怪の仕業だと言うことなのだろう。
「わざわざ知らせてくれてすまないな」
「いいや、見廻りついでだ。それよりこの娘が新しい女中か?」
兵衛の表情は一転し、既に明るい。にやにやと笑っている。突然指を指されたすゞは慌てて頭を下げた。
「申し遅れました。すゞと申します。今後とも宜しくお願い致します」
「こんなんでもこいつはいい奴だから、気長にな」
「おい。こんなってなんだ」
むきになった口調の伊織を兵衛はからからと笑う。伊織も呆れたようにため息をつくが、口許は笑っていた。二人の間の空気は、先程まで真面目な話をしていたとは思えないくらいに柔らかい。
「茶も飲んだし、俺は行く」
ひとしきり笑ったところで兵衛は膝を叩き、立ち上がる。
「あぁ。ありがとう」
伊織の言葉に、彼は振り返らずにひらひらと手を振る。すゞは腰を上げると、見送りの為に勝手口まで回った。
お読みいただきありがとうございました。
今回は少し短いかもしれません。兵衛が随分喋りましたね。
更に、辻斬さんがあえなく退場していきました。ですが、少し先でもう一回だけ辻斬りさんが出てくる予定です。
11/14にアクセス数が1000を突破いたしました。ひとえにいつもお読みいただいている皆様のお陰です。ありがとうございます。
今日見てみるとアクセス数が1100を突破しておりました。更に、評価ポイントもいただきました。本当にありがとうございました。
これからも精進して参りますので、懲りずにまた読みに来てくださると幸いです。




